第14話
お久しぶりです。今まで本編に付きっきりでした、作者的に一番気合いが入っているのはやっぱりこっち。番外です。若かりし頃のみんなが好き!今回はノイが青春(?)してます。。。若いっていいっすね☆このまま読んでいただけたら幸いです。
天空城から戻ったベルバーはまたこの村に来た。そう、あの片割れがいる村に。
空は白んできていて、ちょうど夜が明けるところだ。村の四方を囲む山の合間から太陽が覗きはじめていた。
ベルバーは寄り道もせず一直線に目的の村へと向かってきた。
「ん? 明かりが…」
目的の家に向かう途中、まだみんな寝ているであろうこの時間に一つ、明かりの付いている建物を見つける。
「人間にしては早えじゃん、一体誰だ?」
ベルバーは好奇心旺盛なのか、村に着くまではしなかった寄り道を、村に着いてからは自分の心のままに活動した。
建物の入り口には『道場』と書かれていた。
ベルバーは建物の側面にある窓から中を覗く。
「やっ! はあ!」
中では少年が一人で稽古をしていた。赤髪の少年、ベルバーの目的の人物。
師は居ないのか一人で黙々と型の練習をしている、既に何時間もやっていたのか床に滴り落ちるほどの汗をかいている。
(稽古か…あんなに汗かいて、いつからやってるんだか)
ベルバーは感心しつつも呆れている。
本人曰く、自分は熱血は嫌いらしいが、六大大精霊のなかで一番の熱血は誰かと聞かれれば、ベルバー以外は皆彼だと答えるだろう。ちなみにベルバーはファストだと言う。
(ん?)
ふと、ベルバーは少年の動きに違和感を感じた。足元がふらついているのだ。
(おいおい、大丈夫かあいつ…頼むから目の前で倒れないでくれよ)
少年の足元が先程よりも更にふらつく。
ダン!
少年が膝を着いた。
「…ったぁ〜」
余程痛かったのか、打った膝を擦る。
(あーあ、だから言わんこっちゃない)
完全に呆れた目で少年を監視し続ける。
パンパン
「よし」
少年は自分の頬を両手で叩き気合いを入れ直す、すくっと立ち上がって再び稽古をし始める。
(凝りねぇなぁ)
ベルバーは窓の淵に腕を置き、その腕の上に顎を置いて少年を眺める。
最初に膝を着いてからそれほど経たない頃に、またもや少年の足がふらついている。さっきよりも更に体が揺れている。
「うっ…!」
ダァン!
少年が完全に倒れた。道場の中には少年が一人だけ、少年を見ていたのはベルバー、一人だけ。
「ちっ」
ベルバーは舌打ちをすると小さな袋から、いつかにファストから貰った変化玉を飲み込む。
男性が道場の扉を乱暴に開け、床のど真ん中に倒れこんでいる少年の下に駆け寄り、抱き起こす。
「おい! 大丈夫か!?」
「ん…」
少年が少しだけ目を開く。眩しいのか、瞬きを何回もした。
「大丈夫かい? 道場の前の通りを歩いていたら中からすごい音がしたんで、何かと思って覗いたら君が倒れていたんだ。びっくりしたよ」
男性は一気にそう話しながら、少年から手を離す。支えが無くなった少年の体は微かに揺れている。
「…ありがとうございます」
首だけを下げてお礼を言う少年は、かなり限界がきているという感じだ。顔には血の気がなく、先程までただ気力だけでやっていたということが分かる。
「本当に大丈夫かい、顔色が悪い。休んだら?」
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます」
男性の制止も無視して少年は立ち上がり、また稽古を開始しようとしていた。
「ノイ!」
男性は思わず怒鳴ってしまう。
「どこが大丈夫だ! 顔色悪いし、足はふらついてんし、水分も摂ってねぇだろ!? 少しは休め!」
先程までとは一変した男性にノイと呼ばれた少年はその場に固まってしまった。
男性は立ち尽くしているノイの腕を引っ張り無理矢理座らせる。
「そこ動くんじゃねぇぞ!」
男性は怒鳴りながら道場の外に向かう。少年は何が何だか分からないという感じで床に座っている。というか、
(何であの人俺の名前知ってんの…初対面のはずなんだけど)
少年はそう、考えていた。
道場の外に出た男性が向かったのは、出てすぐ横にある井戸。
男性は手早く水を汲み取り、近くにあったバケツのような容器に入れ替え、またノイの下に戻ってきた。
「ほら、飲め」
ドン、とバケツを差し出されたノイは少し躊躇う。喉は渇き切っていたので水を飲めるのは嬉しいのだが、いざ目の前に水を置かれると遠慮してしまう。
「早くしろ!」
ノロノロしているノイにまたもや怒鳴る男性、ノイはびくっと体を震わせ、直ぐにバケツを両手で持ち、豪快に飲み始めた。
男性はその様子を瞬きもせず見ている。
バケツの中に並々と注がれていたはずの水は、あっという間にノイの中に入っていった。
「はぁ」
「よし」
ノイが置いた空のバケツを見て男性は満足したようだ。
「水、ありがとうございます」
ノイは再び首だけを下げてお礼を言う。
「まぁ、脱水症状で死なれたくないしな」
男性は照れ臭そうに頭を掻いている。そこにノイが声を掛ける。
「あの、一つ聞いていいですか」
「なんだ?」
「なんで、俺の名前知ってるんですか? 初対面ですよね」
先程から疑問に思っていたこと、思い切って聞いてみる。
男性はノイからその言葉を言われて、しまった。という顔をする。しかし、直ぐに真顔に戻って口を開く。
「…実は、君のことは調べさせてもらったんだ。俺はコリー・マイルズ」
コリー・マイルズ、彼はファストの魔法によってベルバー自らの姿を変えた人物。ベルバー自身。
「コリー…あ!」
男性の名前を聞いて思い出したのはそう、病院でアイラから聞いた男の名。自分のことを知っていて、アイラが怪我したことも知っている男、コリー・マイルズ。一度会いたいとは思っていたが。
「あんた、なんで俺のことを調べてんだ? なんでアイラの前に現われたんだ?」
知りたいことは山ほどある。という感じにコリーに詰め寄る。
「わかった、話すから普通に座っていてくれ」
コリーはノイの肩を押して元の位置に座らせ、全てを話し始めた。もちろん、本当のことは伏せてアイラの中に眠る無限の力を引き出すため、王国より遣わされた使者だと。
「そう…」
ノイはコリーの話を聞くとおとなしくなり、なんだか寂しげな表情だった。
「国のためにアイラは村を離れる決心をしたんだよな、俺はそれを応援してやらなきゃいけない…でも、分かってるけど…」
ノイは俯いて、膝の上で拳を握り締める。その拳の上に一滴、また一滴と涙が落ちる。
コリーは黙って聞いてやることしかできない、どう声を掛けていいのかが分からないからだ。
「…せっかく。アイラを守り続けていけるように、修業していたのに…意味無いじゃないか!」
少年は右の拳で床を殴り、泣く。少し間が空いてコリーが口を開く。
「俺は意味無いとは思わないな」
その言葉に泣き崩れていたノイがゆっくりと顔を上げる、そこには優しい顔のコリーがいた。
「君の頑張りは無駄にはなりはしない、今はその証明が無理でも必ずその力が必要になる時が来る」
「本当…か?」
「ああ、その力は君のためにも彼女のためにも、そして周りの人達のために役立てられる」
コリーの言葉に少年は小さく、だが確かに頷いた。さらにコリーは言葉を続ける。
「それに、君が大きくなったら彼女を迎えに行けばいい、君に釣り合えるような男になったのだと、君を一生守のだと誓うんだ」
真面目に話すコリーの言葉にノイの顔は赤くなった、彼の言葉はまるで
「なんかプロポーズみてぇ…」
コリーは最初っからそのつもりで話していたようで、今度は子供のような顔で笑う。
涙は渇いた。きっと明日はもっと強くなれる。
アイラの退院まであと五日、そして旅立つ日までは一週間。
前書き長いっすね、どうにかしなきゃ。。。ではまた次話でお会いしましょう!