第13話
お久しぶりです。本当に、たぶん。前作をいつ投稿したかが思い出せないのでかなり時間が空いているんだと思います。これからもよろしくお願いします。
薄暗い部屋、別にカーテンで締め切っているわけでもない、かといって時間もまた陽の高いはずの昼頃だろう。
先程、史遠が部屋を出る際に体の自由を奪っていた紐を解いてくれたおかげで部屋中を歩き回ることはできるが、部屋から外には出ることができない。無理をすれば扉からでも、窓からでも出れるかのだが、扉の向こうには必ず見張りが居るだろうし、城全体には結界が張られているだろうからどちらにしても敵が大勢来たときに確実に勝てるかは自信がない。
コンコン
誰かが訪ねてきたのだろう、扉が鳴ったがその後に言葉はついてこなかった。しかし、此処に訪ねてくる者で考えられるのはこの城の住人。
ギィ
扉が開く、そこに立っていたのは由比那だった。彼女は食事を運びに来たようだ。
カタン
食事が自分の目の前の小さなテーブルに置かれた。彼女は言葉を発することもなく、目を合わせることもなく足早に扉のほうに向かう。
「由比那! 何故オレを避けるんだ!!」
イガードは柄にもなく大声を出してしまった、由比那はその声に驚いたのか、体をびくつかせ硬くなる。だが依然として何も言わない。
「言えないのか…?」
今度は優しく問う。由比那は体を震わせ、下を向いたままイガードの方を向く。
「…史遠様が、貴方と話すなと…話せば」
彼女は途切れ途切れに言葉を並べる、体の震えは更に激しくなる。
「灰に…変えると」
「!」
理解した。
彼女が避ける意味、自分の問いに震える意味。おそらく由比那とブルニアルスを仲間にさそうという言葉を警戒して由比那に術をかけたのだろう。おそらくブルニアルスにも。
この後、彼女は灰にされてしまう。自分のせいで。
「由比那…」
名前を呼んでもその後に続く言葉が見当たらない、自分のせいで一人の命が今断たれようとしている。そんなことはあってはいけないのに。何かしなければいけないのに何をすればいいのかが全然思い浮かばない。
もどかしい
「あ゛っ!! …ぐっ」
「由比那!!」
由比那の声で我に返る。彼女は突如首を押さえ悶える。段々と顔は赤くなり苦しそうな声。
彼女の下に行こうと体を動かしたが、足が床と一体化してしまっかのように動かない。
史遠だ!
それは直感だったが、徐々に史遠の魔力が部屋中の空気を呑み込んでいく。プラスの魔力を持つイガードにとって、マイナスの魔力を放つ史遠の魔力にイガードは息苦しくなる。今の自分では史遠に適わない。そう感じずにはいられないほどの力の差。
「イ‥ガード…さま」
充血した真っ赤な眼が自分を見る。眼から流れ出た泪が頬を伝う。
「あなたと……旅を‥したかった…」
そして、何かに吊されているかのように宙に浮く、最初はばたつかせいた足も止まり顔は青くなる。口から泡を吹き、眼を白黒させる。
「由比那!!」
「!! あああぁぁぁ!!」
イガードは彼女の名前を叫ぶ。それがスイッチだったのか、由比那の全身にいきなり青色の炎が上がり、一瞬にして彼女は灰へと変わってしまった。灰となった彼女はサラサラと床に落ちる。
ダンッ!
いきなり足が自由になり、史遠の魔力も部屋からなくなっていた。支えられていた足は自由になったことで地に崩れた。
「あっ、あぁぁぁあ゛あ゛!!!」
彼女を救うことができなかった、それどごろか彼女を死なせてしまう原因になってしまった、自分が彼女を殺した。自分が
殺した
今はただ自分の無力さが胸に刺さる。
イガードは膝をつき床に落ちた彼女を手に掴み、ただ泣く。それしか出来なかった。
涙はやがて枯れ、新たな思いを人に残す。
天空城内の一室にライクが一人、窓から降り注ぐ陽の光を背に机に向かっていた。上層部に送る報告書を作成している、手は止まることなく動き続ける。彼の独り言とひたすらペンをはしらせる音以外、なにも音はない。
コンコン
ライクは返事をしない、扉をノックした人物はおそるおそる扉を薄く開け、中の様子を確認しながら室内に入る。
「ライク、貴方に電報が」
入ってきたのはバルタルだった。
「今はそれどころではないんだが…差出人は?」
「えっと…、!」
手を止める事無く、机に向かったままバルタルに問う。バルタルはライクに近付きながら封筒を見るが、名前を見付け足が止まる。
「バルタル?」
返事がすぐに返ってこないため後ろを振り替えるが、後ろに立っているバルタルは何故か迷っているようだ。
「どうした」
「あっ、すっすみません! 差出人はグラダ、貴方のお父様から」
「…ありがとう。電報をくれないか?」
「えっ、ええ」
電報の差出人を聞いたとたんライクの顔は固くなった、バルタルには笑顔で返したが明らかに何かを我慢している、一人で抱え込んでいるような感じがした。
バルタルは電報を手渡すと足早に部屋の入り口まで戻り、部屋を後にした。
「失礼しました」
バタン
バルタルが部屋を出ていき、また静かな部屋に戻る。
「……、…チッ」
考えて、電報を机のうえに投げ、また作業に戻るがやはり気になって手元に戻し中を見る。
差出人は確かに自分の父の名、文章の筆跡も父のと同じ、それは認めるが内容は認めたくないものだった。
ライクの父は反精界派、つまりは天空城に努める者や決定の反対派。ルイも反精界派である。
反精界派が現われたのは精霊と人間が手を取り合うことが決定された時だ。
彼らは力で精界に訴えかけたが、それは認められる事無く永眠の刑として精界から裁かれ、大半は人間の手によって封印された。ライクの父は幸運にも封印されず、どこかに逃げ隠れた。
封印されず生き残った者達は必ず危険な行動を起こすとして長年捜し続けていたが、見つかったのは十人前半。まだまだ多くの者がいると言われていた。
やっと尻尾を出した
ルイの封印が解いた犯人が、この騒動の首謀者が誰だか、すべては電報に書き記されていた。
「バルタル」
その声は城全体から人を捜しだすには小さすぎたはずだが。
ガチャ
「ライク?」
バルタルは現われた、おそらく近くに居たのだろう。
「……」
呼び出した当の本人は机に座り俯いているようだ。どちらにしろ部屋の構造上、背中のだが。
バルタルはおそるおそる彼に近付き、顔を覗き込む。
ガタッ
「ひゃっ!!」
突然ライクが立ち上がり引き寄せられた。バルタルとライクの背はそれほど変わらないが、ややライクのほうが高いわけだが、体はすっぽりとライク腕のなかに収まって、身動きは一切取れない。
「ど、どうしたの。ライク?」
顔が真っ赤になったバルタルは前を見据えたまま話す。音が相手にまで聞こえてしまうのではないかと思うほど大きく脈打つ心臓、火照っていく身体。
「少し…このままで居てくれないか?」
「……」
小さな小さな声にバルタルは聞き返すことも頷き返すこともなく、ライクに身を任せた。