第12話
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「イガード…今頃どうしてるんだろ?あの時のこと覚えてくれてるかな?…フフフッ」
広い砂漠の上でくるくる回りながらイガードのことをファストは考えていた。そこに、高速で何かが彼女に突進してくる。
「きゃああああっ!!」
小麦色の柔らかな暖められた絨毯の上にファストと何かは小さな煙を立てて落ちた。
「もう!急ぐのはいいけど、ちゃんと前を見てよね!」 ファストも人のことは言えないが、小精霊に座り込んだまま注意をする。どうやら突進してきた何かだったらしい小精霊は、息を弾ませてファストの目の前に目をくるくるしながら浮遊する。おそらく頭を強く打ち眩暈をしているのだろう。
「す、すみません。ファスト様、実はライク様から伝言が」
「ライクから?どうせ、次はこれをしろって命令なんじゃないの?」
腕を組み、はぁ。と深いため息を一つ。ライクからの伝言と聞くとどうしても仕事の内容、と直結してしまう。
「違うと思います。早急に会議を開きたいので天空城に戻るように。とのことです」
「会議…なんか唯事じゃあないわね」
焦っている小精霊に対し、冷静に今までの任務の中で会議をするような敵側の動きは合っただろうか、もしくは、味方で何かヘマをした者が居たか、そんなことを考える。
「あの、確かではないんですが、内容はイガード様のことかと」
「イガード…」
小精霊の最後の言葉を聞いて固まる。会議をするということは緊急事態で、早急に結論を出さねばならないということ。一体イガードの身に何が起きたのだろう?任務に関する内容ならばきっと身の危険にさらされているのかもしれない。
考えたくもない嫌なことばかりが思考を支配する。
「ファスト様!お早く!」
「あ、うん」
小精霊に急かされてやっと正気に戻る。いつのまに涙を流していたのだろう、頬を伝う液体を手で拭い取る。
二人は空高く飛び上がり、天空城へと急いだ。
白い大地の上に色とりどりの花を咲かせた花畑の上を過ぎ、農家の畑を過ぎ、大きな橋の下を潜ると大きな滝が見えた。滝を逆流していくかのように上へと行くと天空城が見えた。
城の中に入り長い廊下の先の突き当たりにある一室、天空城の大会議場、集まったのはいつもの面々。ライク、バルタル、シュートゥにベルバーそれと自分。だが、一人だけ足りない。
「さて、本題に入ろうか。実は」
ガタン
「ライク!そんな前置きはいらねぇ」
突然ベルバーが机に手を突き席を立ち上がる。全員の視線が彼に集まる。
「あいつが、イガードがルイ達に拘束されてんだろう?」
ベルバーはいままでにないほど真剣な顔だ。ベルバーにとってイガードは同じ仲間であり、大切な友であり、ライバルなのだ。いつもは何かと張り合う仲だが、自分にはなくてはならない存在なわけで、つまり、居なくなられると困るのだ。
「…情報が早いな、ベルバー」
「来る途中に、情報屋に聞いてきた」
「情報屋か」
そう呟いた後、ライクはまたゆっくりと口を開いた。
「確かに、ベルバーが言ったように今イガードは任務中に気が緩み敵に身柄を拘束されている」
『身柄を拘束されている』、その言葉でファストだけでなく、この場にいるすべての者の顔に不安の色があらわれる。
「たが、先程本人からの伝言があった。『自分は自分がおかれている立場を利用して、敵側の幹部を何名か説得している。』ときた。」
捕虜という存在ながらもまだ無事だということに、多少安心しベルバーは席に着く。
「だが、どうやってイガードを救い出せば良いのだ?」
バルタルの一言でまたもしんと静まる室内。
「ちょっと、みんな暗い顔しないでよ」
「シュートゥ?」
「こんな時こそもっと前向きにいかなきゃ、自由に動ける私たちがどんどん行動に移していかないと、イガードの頑張りが無駄になっちゃうじゃない」
以外にも場の雰囲気を一変させたのはシュートゥだった。
「そうだな…イガードは懸命に敵側の幹部を説得してくれているんだ、俺たちも早くあいつを助けられるよう何か行動しないと、だよな?ライク、バルタル」「ああ、そうだな。何かしなければ変わるものも変わらないしな」
「前向きに…。悪いことばっか考えていたら、確かに良いことは起こらなそうだな、『仲間』としてイガードを見捨てることはできない」
「『仲間』…」
その言葉に私は違和感を感じたんだ。私にとって彼は『仲間』とは違う感情があったから、…彼は…?
ファストは一人、皆の話し声をBGMにして机に向かい思い耽った。そこにそっとファストの肩に手が置かれた。見上げるとライクがいた、どうやらまとめ役はバルタルに任せてこちらに来たらしい。
「ファスト、君だけにイガードからもう一つ伝言がきてる」
「わたし…ですか?」
ライクは頷くとジャケット裏のポケットから小さく折り畳まれた紙を一つ取り出し、ファストの目の前に置いた。その紙には丁寧に字が並べられている、どうみてもイガードの筆跡だ。
『僕は大丈夫だから、心配しないでくれ。必ずもどる、君のもとに必ずもどるから、待っててくれ、ファスト』
文章を読み終えた途端に目頭が熱くなった。
「私は君たち二人の間にできた特別な感情をとやかく言うつもりはない」
「ライク…」
「但し、これだけは言っておこう」
ライクは座っているファストに目線を合わせるかのように床に膝をつく。
「自分にとって大切なものは必ず手放すな、手放したとしても必ず手元に戻せ。いいな?」
「うん…了解しました!」
不器用なライクの精一杯の励まし、何だかうれしくて顔はほころんで、でも悲しくってぐちゃぐちゃだ。
必ずイガードを助ける。そう心に誓うファスト。