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最初の事件から、半世紀ほどたったある日、俺は北海道の牧場で飼っているコリーの散歩をしていた。奴らからの襲撃――実際に経験したわけではない――もここまでは及ばない平和な生活である。おそらくこれからもここには来られないだろう。
元々、北海道には巨大化する前の奴らはいなかったらしい。奴等もそこまでの進化は出来なかったようだ。
現在の日本は、世界から切り離されている。だが、農業・漁業・畜産に精通していた北海道は問題なく自給自足の生活をしていた。
俺も、俺の両親も北海道生まれの北海道育ちだが、聞いた話では祖父母が奴らの被害者だったようだ。そして、今も祖父の魂は復讐の炎が燃えている。だから、被害者の会と称して、牧場の端に地下室まである不気味な研究所を作ったりしているのだろう。元々祖父は岩手県のそこそこ大きな企業で工場用のロボット製作に携わっていた。だが、奴らの襲撃で残ったのは、自分だけ。妻も、仲間も、資産も、地位も失った。
コリーが毛並みを靡かせながら、研究所の方向に走っていく。俺もその後を追うと、地響きのような轟音が耳に入ってきた。研究所の方からだ。
別に驚くこともない。ただただ無駄に広い牧場地だから近所迷惑になることもない。爆発音や工事現場のような音が聞こえてくるのは度々あった。俺は足を早めて研究所に向かった。
中小企業の町工場のような外観の研究所は重厚な大扉に閉じられていた。その前で頻りにコリーが鼻をひくつかせている。トタン屋根の間から煙が漏れている。やっぱり中でなにかあったらしい。俺は大扉の横にある人間用の扉から入る。ドアノブが熱くなっていなかったので『火事』というわけではないだろう。
扉を開けると、冷気を含んだ空気が野外に溢れ出して、俺たちを包み込む。冷気と共に中から金属を叩く音と溶接する音がデュエットした作業音が聞こえてくる。中で何が行われているのか、ここからでは二階に上がる階段で様子が見えない。
おもむろに奥に進む。その後ろからコリーがついてくる。
「おわ…………」