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タイトル未定2026/10/11 09:06

旭(あさひ)は2歳の頃からスマホを与えられそのスマホはいつも何でも話せる何でも相談できる人とつながっていた。

スマホはずっと旭の心のはけ口だった。

その相手とは?!

          1


旭(あさひ)はスマホを頼りにしていた。それは便利だからとかの理由からではなく、いつでも頼りにできる相手が電話の向こうにいるからだった。

旭の家は父子家庭だった。

旭は幼い頃からスマホを与えられていた。そのスマホは2歳の頃に、叔母から贈られてきたものだった。

旭のスマホはサイドボタンを押すと必ずある人に電話がつながるのだ。

電話の相手は決まって感じのよい若い男の声で旭はその人をアキと名付け呼んでいた。

アキは旭の心のはけ口だった。


2歳の頃、旭の誕生日プレゼントに叔母からスマホがAmazonで贈られてきたとき旭は旭の父にスマホを渡された。適当にガチャガチャと上下に動かしたりしてたが使い方がわからなかった。それでサイドボタンを押したときにアキと初めて電話がつながったのだ。

「えっと。」

「えっと僕は今日ポテトサラダを食べました。」

旭はあーあーと言って応えた。


旭は小学生になってもアキに悩み事があれば相談したし、他愛もない会話もした。不思議なことに父が旭のスマホを買い替えてもサイドボタンを押せば電話はアキにつながるようになっていた。

「ねえ、アキちゃんにはお母さんっている?うちは居ないんだ。どうして旭にはお母さんがいないんだろう。」

同級生にお母さんがいないということでからかわれ、不思議に思った旭は言った。

「でも旭にはお父さんとアキちゃんがいるもんっ。」

アキは静かにうなずくと

「僕にはお母さんがふたりいます。

ひとりは若いおかあさんで、とてもいじわるです。もうひとりは歳をとったおばあさんでポテトサラダが得意です。」

と返事をした。

「アキちゃん、ふたりもおかあさんがいるなんてずるいっ。ひとりくらいおかあさんがいればいつものコンビニ弁当じゃなくていろんな料理をおかあさんが作ってくれるのに。」

アキは

「でもポテトサラダばかり夕食に出ます。」

と返事をした。

「ポテトサラダばかりなんてやだー!」

ふたりは談笑した。


旭の父は広告代理店で働いていた。

学生時代は郊外の美術大学へ進み、フランスに留学もしたからそれが父の自慢だった。旭の母とはその美術大学で知り合ったらしい。

しかしデザインの仕事をこなしアパレルブランドを立ち上げていたその頃は過ぎ、父は好んで広告代理店の仕事をしているようだった。

旭の母はある日突然失踪したと聞いている。あまりに突然旭が1歳半くらいの頃ちょっと絵に描きたい風景があるからと出かけたきり忽然と姿を消しており、旭の父が警察に捜索願いを出しても未だにみつかっておらず行方不明なのだ。

旭の父は残業を終えてコンビニに寄り、ナポリタンの弁当をふたつ買うと

帰宅した。

「旭、いま帰ったぞ。今日はナポリタンだ。いま温めてあげるからね。それにしても今日のクライアントはスリリングだった。なんせ1000円でクオリティの高いチラシを作れって言うんだからな。」

父がぐちをこぼすと、旭は眠たそうな目をこすって温められたナポリタンをフォークに巻きつけた。

「お父さん今日はね、マリちゃんと駄菓子屋に行ったの。お父さんからもらった100円でね、くじ引きを5回したよ。1回も当たらなかったけどね、ガムもらえたの。」

旭は眠いのを忘れてお父さんに今日あったことを話した。

「旭、あのアキはまだいるのか。

前話してたスマホの男だ。」

旭の父な唐突にそう言った。

「あまり知らない男と話すのは危ないからやめさせたいんだけれども旭がスマホを持つのは2歳の頃からだしなぁ。」

イマドキの子どもはスマホなんて当たり前のように持っている。

スマホの青少年への規制はある程度親が管理するとかインスタグラムは見てはいけないとかしているだろうが、旭のスマホはサイドボタンを押すと必ずなぜかアキにつながるものだから規制ができなかった。

何より旭の父は放任主義なうえ旭にあまりかまってやれなかったし、自由で自立した女性に育ってほしいと思っていた。

「アキちゃんは旭の特別っ。  

旭を何でもわかってくれるもん。」

旭は言った。

「まあジェミニとかAIだと思うから今回は見送るけど、旭は気をつけなさい。」

父はそう言った。

そして旭にもう眠るように促すと、旭は眠りに落ちた。


旭の友だちは同じクラスのマリちゃん、そして近所のケンちゃん。そしてもうひとり、アキだった。旭はクラスではアキの話はあまりしなかった。父の前ではアキの話を積極的に話すのだが、三年生に進級した頃だった。

「旭には、アキちゃんっていう友だちがいるんだよっ。」

いつものように初対面から旭はアキの話をした。

「こうやって旭がサイドボタンを押すと話ができるの。」

旭がそう言うと

「それAIジェミニじゃん。話を聞いてくれたり検索してくれるんだろ。」

そう同級生に言われたのだった。


「アキちゃんはAIじゃないもんっ!」

それからは旭はアキの話をあまりしなくなった。旭は同級生よりアキと話していたほうがよかった。

それに秘密にしておくというのもいいかなと旭はその頃思った。


マリちゃんはアキをお兄ちゃんと呼んで旭の話を聞いていたし、ケンちゃんは一年生の頃からの旭の遊び相手だった。一年生、二年生の頃はクラスでも旭はアキの話をしていたし、みんなはアキをすごくかっこいいお兄さんだねと言っていた。だが三年生に入ると、みんなスマホを持ち始めた。

サイドボタンを押すとAIジェミニが話を聞いてくれていろいろ検索してくれるという知識は衆知のうえとなった。

旭はアキは存在する。AIではないいつか会えると信じていた。いなくなったおかあさんのようにふたりともいつか旭、いなくなっちゃってごめんねと帰ってきてくれると。

アキとは会ったことがないのだけど。


旭はアキに電話をかけた。

サイドボタンを押すとルルルルという着信音が響いた。

「僕は今日若いいじわるなおかあさんとデパートへ行きました。オレンジジュースを飲んでおかあさんの下着を買わされました。」

アキは応えた。

「アキちゃん行きたくなかったんじゃない?」

旭は応えた。

「つまらなかったです。」

アキは応えた。

「はいもしもーし。応答。応答。」

旭はそう茶化した。

「こちら僕の家、僕のつまらない家。」

ふたりは談笑した。


そんな他愛もない会話がふたりの絆を深めていった。


ある日、旭は孤独なアキを励ます企画を立てた。

「マリちゃんとケンちゃんに電話を代わってもらうの。ふふ。アキちゃんが電話に出たらなぐさめてあげるっ。」

そして

「マリちゃーん。ちょっとここにきて。ケンちゃんも呼んでくるね。」

ふたりを集めると

サイドボタンを押した。

ルルルルという着信音が響いて

「もしもーし。アキちゃん。」

アキが電話に出るのを待った。

「今日は歳をとったおばあさんが亡くなりました。ポテトサラダが食べられなくなりました。」

アキはそう応えた。

一同はおどろくと

「アキちゃん、お友だちを連れてきたの。ポテトサラダが食べられなくなるんだね。でも旭たちがそばにいるよ。」

「マリちゃんにケンちゃん。旭のお友だちなの。」

旭はそう応えた。

「マリです。旭ちゃんの同級生だよ。お兄ちゃんのことは旭ちゃんがすごくかっこいいお兄ちゃんだって話してました。」

マリちゃんは挨拶した。

「ケンちゃんだよ。おばあさんのことはオレたちを頼ってよ。」

ケンちゃんも応えた。

そしてアキは

「とてもたのもしいです。」

と応えた。

「みんなでしりとりしよう。語尾の2文字から始めよう。」

旭は提案すると

「さかな」

としりとりを始めた。

アキが詰まった。

「あー、アキちゃん負け!」

旭はそう言った。

そして夕焼けがみられる頃になると一同は解散した。


こうしてアキは友だちができた。

アキはときおり、旭と3人で電話で会話した。それは今日あったことやまたは電話でできるゲーム、お菓子を食べながら電話するお菓子パーティーなど思いつくままに過ぎていった。


しかし未だに旭たちはアキと実際には遊べずじまいだった。スマホを介して会話するだけで楽しいといえばとても楽しいのだが、いろいろとやりたい遊びもあった。アキの住んでいる地名はちんぷんかんぷんでなかなか会えなかった。


旭が高校生になったある日、旭の家のポストに紙が入っていた。いたずらではないか。確かアキの住所だったような気もするが、旭はやっぱりそんな地名は聞いたことがなかった。

旭は高校生になった今もアキを心のはけ口にしていた。

「アキちゃん、来てくれたならチャイム鳴らしてくれてもいいのに。」

旭はふとサイドボタンを押した。

だが、いつもはすぐに電話に出てくれるアキが今度はいくら鳴らしても電話に出なかった。

電話はプツッという音がしてそれ以来、旭がサイドボタンを押してもアキは応えることはなかった。


        2

旭の父は広告代理店でビデオゲームの広告を担当するまでに業績を遺した。

近ごろは終電ギリギリになることも多かった。

「旭、遅くなってごめん。」

旭は夕食を作っておいてくれた。

むくりと起き上がると、旭は夕食を並べだした。

「アキちゃんが、いないのよ。」

そう言ってぐずりだすと、声をあげてしゃくりあげた。

「もう大人になったんだ。アキのことは夢だと思いなさい。」

「やだぁ。」

旭は泣きわめいた。


次の朝、旭はスーツケースに服を詰め込んで電車に乗った。

そしてどこまでも運ばれていった。

手にはアキの住所を書いた紙があった。そんな地名は知らなかった。

そして適当にある町に停車した。

「アキちゃん、どんな顔してるんだろう。この町ですれ違わないかな。」

アキは年齢不詳だが、声は幼いときから変わらないようだった。

旭は駆けぬけていった。


「旭の顔もわからないのかな。」

そう思うと泣けてきた。

旭はくしゃくしゃになって泣いた。

声をあげて泣きわめくと

「きみ。」

声がした。

「きみ、きみ。ちょっとどこ行くの。おじさん気になるんだけど。」


何このおじさん。

何で旭の行くさき気になるの。

気持ち悪いっ。


旭は猛ダッシュで走った。

おじさんは追いかける。

やっとのことで路地裏に入りこんだ。


ハァハァハァ。


海の見える町だった。

旭は周りを確認すると波止場にでた。

「大丈夫だよね。」

一面の海原が広がっていた。

「きれい。」

旭はしらみつぶしに聞いて回ることにした。

さっきのおじさんは一生懸命に避けた。旭の嫌いなブロッコリーみたいに。


「若くてかっこいいお兄さん知りませんか。」

「ポテトサラダが好きなんです。」

旭の捜索願いはなかなかつながらなかった。


気づけば夕暮れどきになっていた。

旭はしゃがみこんだ。

「アキちゃん、どうしていないのよ。」

そしてサイドボタンを押した。

「えっと。」

「えっと。ポテトサラダを作ってくれますか。」

アキの声がした。

「アキちゃん?もういないから心配したぁ。もう。」

旭はしゃくりあげた。

「ポテトサラダ作ってあげるから、おうちを教えて。」


「僕の家は2丁目にあります。」

アキはどうやらこの町にいるようだった。

旭は言われた通りに進むと、路地裏で足を止めた。

「ここ、なの?」

路地裏はゴミ置き場になっていた。

そこに2軒、焼き鳥屋があって

間にそれらしき家があった。


コンコン

チャイムがなかったのでノックした。

とたん旭は扉をつらぬいたようだった。そして白い光に包まれ吸い込まれていった。

旭は手を引っ張られていった。

「アキちゃん?」

そこには旭の思い描いていたのとは違う箱型の顔があった。

「ポテトサラダを作ってください。」


アキちゃんが四角い箱の顔してる。なんで?

「僕は、顔がなくて。」


「顔がない?」

旭は返した。


「幼いときにやけどを負ったんです。」

「若いいじわるなおかあさんに。」


旭は口をパクパクした。


「アキちゃんのためにポテトサラダを作るから楽しみにしててねっ。」

旭はどこかにかけてあった雑巾みたいなエプロンをつけた。

そして冷蔵庫にある食材で器用にポテトサラダを作っていった。


「出来た。」


「おぉ、おばあさんの味。おいしいです。」

アキは箱に適当に開けた穴からポテトサラダを堪能した。


「いつも、材料を買ってありました。」

アキはそう言った。


旭はアキの家に宿泊した。

「旭は僕の友だちです。」

アキはそうつぶやくと箱の中をかいた。

「アキちゃんは旭のこと何でもわかるもん。」

旭はアキのことがわかるだろうか、なんでも。ポテトサラダが好きだということは知っていた。

ふたりは幼い頃からの友だちだった。

旭はアキのことをわかりたかった。


いじわるな若いおかあさんはすでに、他界したようだった。あとの家にはアキひとりが残されていた。

「これも幸せのひとつです。」

アキはそう言った。

「アキちゃんは、ずっとひとりで生きてきたんだね。」

旭はアキにエビチリを並べるとそう言った。そしていただきますをするとそれを味わった。

「ふつうのことです。エビチリ初めて食べました。美味しいです。」

アキはがっついた。

「これは人生の記録になりそうです。」

旭のエビチリには辛くないように溶き卵が入っていた。


「旭、栄養士になりたいの。」

「そうすればアキちゃん、いっぱい食べられるでしょう。」


「旭、いなくならないでください。」

「ずっとこの家にいてください。」

アキは子どものように泣きついた。


「旭はずっとここにいるよ。」

旭は微笑してなだめた。

夢を叶えるなら旭はアキのそばにいたかった。

そしてアキの骨ばった背中を撫でた。


以来、ふたりは婚姻届けを提出し新婚生活が始まった。


「旭は僕のお嫁さんです。ずっと一緒です。」


「そうだよ。絶対幸せにするからねっ。」

ふたりは誓いあった。


食材や備品は全てネットスーパーに頼っていた。

婚姻届けを出したその日、海の見える町はとてもきれいで潮風の匂いがした。すべてはうまくいっているようだった。アキは箱を揺らしてパソコンの画面に向かっていた。

「旭、完了。」

そう言うとエンターキーを押した。


「アキちゃん、今日はね、アキちゃんの好きなポテトサラダにしようと思ってるの。」

アキはそそくさと画面を隠した。


「はい。ポテトサラダが食べたいです。」


「マリちゃんや、ケンちゃんに会いたいな。アキちゃんを紹介するの。びっくりするだろうな。」

旭はふとそう言った。


「懐かしいですか。さあ、ご飯にしましょう。」

アキはけげんそうにした。

テーブルにはポテトサラダが並べられていった。


「おいしいです。」

アキは目をきらめかせた。


朝になると旭はお父さんに電話をかけてみた。ここに来てから2年の歳月が流れていた。

ルルルルル。

「プツッ。お客さまのおかけになった電話番号は現在使われておりません。」

ツーツーツーと鳴り続けた。

電話番号を変えたのだろうか。

マリちゃんに電話をかけてみると

「旭ちゃん?」


「旭だよっ。お久しぶり。」

「結婚したの。誰とだと思う?アキちゃんとだよ。」

「おめでとうございます。」

マリちゃんは挨拶した。

「えー!でもアキちゃんって本当にいたんだね。」


「ところで、お父さんは元気?電話がつながらないんだけど。」


「旭ちゃんのお父さんは失踪して、今行方不明なの。」


旭は絶句した。


お父さんが失踪?

旭のこと、あまりにもショックで探してるのかな。


次の日、旭は久しぶりに潮風を浴びた。置き手紙を置いて走った。

そして電車に乗ると故郷へと舞い戻った。

自宅に帰るとそこには別の親子が住んでいた。

「この家はもらいました。瑞川(みずかわ)さんでしたっけ。叔母の麻美(あさみ)です。覚えていますか。」


旭は叔母に面識はなかった。

「叔母さん?お父さん、瑞川仁(みずかわひとし)はどこへ行ったかわかりますか?」


「旭ちゃん、大きくなって。」

叔母は目を細めた。

「仁はね、絵でも描きに行ったんだろうか。」

お父さんは急にいなくなっていた。


「お父さんも、お母さんも失踪した。」

旭は受け止められずにいた。


「アキに頼んで一緒に探そう。叔母さんも探してくれる?」


「できるだけ協力するわ。」

叔母はうなずいた。

「でもアキさんって誰かしら。」


「夫だよ。旭、結婚したの。」


まあと目を見開いて叔母はリアクションした。


「この町で見かけたら連絡するわ。」

叔母はそう言って扉を閉めた。


旭は少し心細いように思ったが、真っ先に父の会社にたどり着いた。

「お父さん、瑞川仁はいませんか。」

「いつからいないんですか。」


「もう、ゲームの広告の仕事が山ほどあるっていうのに、もう3ヶ月も欠勤している。」

父は3ヶ月前に失踪しているようだった。旭は手のひらを握りしめた。

「連絡先とかはわかりますか。」 


「つながらないんだ。解約したんじゃないかな。」

「失礼しますっ。」

旭は駆け抜けていった。


そして父がよく絵を描きに行っていた噴水のある公園をあたった。

そこにはベンチにカップルが座っていた。宵光の花の蜜の匂いがふわっと漂った。その日、お父さんが見つかることはなかった。


旭は途方に暮れていた。 

深夜の列車に乗ってアキのいる家に向かっていた。すると白い光に包まれて手を引かれ、アキが出迎えた。


「どこに行っていましたか。」

「お父さんがね、失踪したんだ。」


アキは箱を揺らしてリアクションした。

「今日はもう寝るね。冷蔵庫にあるもの適当に食べて。」

旭はベッドに飛び込み眠りに落ちた。


         3

朝、目覚めると抱きかかえられていた。お姫さま抱っこで運ばれると、白い光の向こうへ消えていった。そこにはマザーコンピューターがあった。

アキは

「仁、完了。」

と言うとパソコンに組み込んでいった。

「ここは、どこなの?」

旭は目をこすった。


「私たちと来るんです。」

そう言うと、たくさんの人たちが近寄ってきた。

その中に旭の父の姿があった。

「お父さん!お父さん!」

旭は叫んでいた。


旭を引きずると、たくさんの人たちは並ばされた。

マザーコンピューターに頭脳をつながれ吸い取られていった。

旭の番になった。

線を接続され、頭脳を吸い取られそうになった。

「アキちゃん!助けて。」

アキは箱を傾けて揺れていた。


そして旭は頭脳を吸い取られた。


目を見開くと牢屋の中だった。となりに旭の父がいた。たくさんの人たちが閉じ込められていた。

「アキとかいう男、誘拐犯だ。」

父はそう言うと

「旭、お母さんだよ。」

と紹介した。


奥から女性がひょっこり出てきて

「旭ちゃん、こんなお母さんでもまたよろしくね。」

と言った。

「お母さん旭、寂しかったんだよ。」

旭は泣きじゃくった。

母はよしよしと旭の頭を撫でた。 


そのとき扉が開いた。


「食事だ。お前たちにはたっぷりと栄養をつけてもらわないと。」

そう言ってあんぱんのようなものと牛乳を配る。


腹が空いてはならぬと人が群がった。

あんぱんと牛乳を受け取るとがっついた。旭はあんぱんを父と母に渡すと、ぱくついた。

「お母さん、おいしい?」

「おいしいわ。」

母は答えた。


「旭、ポテトサラダを作ってください。」

そこにはアキが立っていた。


「アキちゃんはお母さんもおとうさんもさらったんだもん。でも、夫なの。」

旭はそう言うとアキをじっと見つめた。

「どうして、さらったの?」


「夫?!」

旭の父と母は顔を見合わせた。


「有能な人間を集めてるんです。

そしてマザーコンピューターに取り込み、わが星へエネルギーを送るのです。」

アキはそう言った。

「私たちの星は今、混沌の中にあります。再生にはエネルギーが必要です。」


「アキちゃんはポテトサラダが食べたくないの?」

旭が言うと

「はい。ポテトサラダが食べたいです。」

とアキは言った。

「じゃあ、歳を取ったお母さんが頭脳を吸われてもいいのっ?!」

詰め寄ると

「少し、悲しいです。」

とアキは言った。


「だったらお母さんとお父さん、みんなを釈放しなさいっ。」

旭はそう言うと

「私は全責任を負っています。わが星にエネルギーを送らなければなりません。」

アキは言った。


「ポテトサラダ作ってあげるから。」

旭が言うと

「仕方ありませんね。」

と言い

あっという間にみな白い光の中へ吸い込まれていった。


「お父さん、お母さん?アキちゃんっ。」

旭が気がつくと旭のとなりにはアキがいた。 

「アキ…ちゃん?」

「私は旭を誘拐してしまいました。」

「いいんだよ、いいんだよ。」


アキはさめざめと泣いた。


「アキちゃんのためにポテトサラダを作ったよっ。」


「おぉ、美味しそうです。」


そしてポテトサラダを並べた。

「これは、おばあさんの味です。」

アキは舌鼓を打った。


「今日はお母さんと絵を描きに行くの。」


「旭、どうか帰って来てください。」

「大丈夫、必ず帰るよ。」


「じゃあ、行ってきます。」


アキは小さくバイバイをした。


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