婚約破棄された公爵令嬢は一子相伝の解放師
どこにも行けないネタを放出したかっただけなのです。
「チェルシー、貴様との婚約を破棄させてもらう」
宮殿での建国記念パーティーの会場でウィリアム王子はミミの腰を抱きながら声高らかに宣言した。
「何故?とお伺い致しましても?」
私達は生まれた時から婚約が結ばれていた。
なので家族的な愛情は合っても恋心的な物は無い。
この国では王家と公爵家、この2家は建国時から光と影のように対になる存在であり、ある秘め事のせいで決して離れてはならないとされている。
血を薄めるのに3代、秘め事を護る限界が5代、つまりその間に産まれる男女は必ず相手方に嫁入りしなくてはならない。
中にはタイミングがずれて、相手が20歳上の年上女房とか40歳上のひひ爺なんてこともあったみたいだけれど、私達は幸い4代目の同い年の男女として生まれたので、生まれながらに婚約が結ばれたのだ。
行ったり来たりと忙しいがそれが王国の柱なのだから仕方ない。
そして秘め事は、王子には知らされない決まりとなっている。
何故かは知らないけれど、昔色々あったらしい。
で、今に戻る訳なのだけれど、
場内はシーンと静まり皆成り行きを見守っている。
建国記念だから各家から集まっている訳だけど、その皆が見ている。
これはもう、何をどう間違っても言い訳なんて出来ない。
「何故だと?貴様は学院で私と仲の良いミミに嫉妬し、ミミの教科書に落書きをした!」
「はあ」
――嫉妬なんてしておりませんし、教科書に落書きなど他人の物であっても無理ですわ
「更にミミを池に落とし、階段から突き飛ばし、王城の塔から突き落とした!」
「「キャー!!」」
「はあ」
――何が「キャー」なのでしょう。塔から突き落とされて無事な方が人間離れして「キャー」だと思いませんこと?
「更に更に、私に付き纏い、ミミに付き纏い、王家の飼い猫タマに付き纏った!」
「「キャー!!」」
「はあ」
――「キャー」要素ございませんわよね?仕込でしょうか?タマは……抱っこしたくて付き纏ったかもしれません。しれませんでは無く付き纏いましたわ
「それら一切を私は行っておりませんわ。ですが婚約は解消いたしましょう」
「見苦しいぞ、これだけの証拠があるのだ!破棄に決まっておろうが!」
タマちゃんを追い掛け回したのは心当たりがございますので、嘘を吐いたことに少々不安になってきました。
「私が行ったという証拠はございますの?」
「ミミがそのように申しておる!」
「私は勇気を出して殿下に申し上げました。怖かったです」
ミミは涙目になり小刻みに震えながらウィリアムを上目遣いで見上げる。
「重ねて私はそのような事を行っておりません」
「証拠はあるのか?!」
「侍女の証言です。常に私に侍っておりますので」
「証言など証拠になるか!」
――理不尽でございますわ
私は理不尽さに小刻みに震えながら二人を見ると、ミミは殿下に抱き着いた。
「殿下、チェルシー様の目が怖いです」
「大丈夫だミミ、あの目は生まれつきだ!」
――生まれつきって……少々凹みますわね
「チェルシー様、私に嫉妬で行った数々の非道をお認めになって、ウィリアム様を解放してあげて下さいまし」
「そうだチェルシー!嫉妬に狂った貴様は将来の王妃に相応しくない!私を解放しろ」
――あ!
慌てて王様と王妃様を見ると、王様は頷き、王妃様は悲し気な顔を浮かべた。
「分かりました。解放致します。少し屈んで頂けますか?」
「そうか、解放して――なぜ屈む必要が?」
「解放するにはウィリアム様の額にデコピンをする必要がございます」
「腹いせか?最後だ、まぁよかろう。元婚約者の嫉妬に塗れた醜い願いを叶えてやろう」
そう言うとウィリアムは一歩近づき少し屈んだ。
「では、少しだけ目を瞑って下さい」
「あなた!最後にキスとかする気じゃないでしょうね!」
「いいえ、デコピンです」
ミミが顔を顰めながら言い募ってきましたが、恋心もない相手にそんな事する訳ありません。
その遣り取りを聞いてかウィリアム様が気持ち悪い笑みを浮かべながらさらに屈んで丁度良い高さに額が来ました。
「では参ります」
右中指を直角に立てて左中指で引っ掛けギリギリと引き絞りました。
ここでのコツは右手を相手に接触させないこと。中指、手首、肘を引き絞る事。
それら全ての溜めを、立てた中指の爪に集約して額に打ち込むのです。
公爵家一子相伝の技と申しますのは、双方同意の上で額にデコピンを当てるとの口伝だけでございますから、途中は何でも構わないのです。
お母様は片手で優しくピンッと弾くだけですが、私は先に述べた技を編み出しました。やるからには全力がモットーなので。
そして、毎晩の素振りのおかげで今では西瓜なら第二関節までめり込みます。
今です!
引き絞った弓から放たれるかの如く、肘、手首、中指に連なる全てを全解放。絞り反動の上にさらに振り抜き動作を加えます。
ふんぬっ!
――あ、少し鼻が出てしまいました
ゴッ!「にゃああああああああああ!!!!!!」
ウィリアム様は変な声を上げながら状態をのけ反らせた後、額を押さえて俯いています。
「あ、あなた!何てことをなさいますの!」
ミミはウィリアム様の元へ駆け寄り、心配そうに額に手を当てながら言いつのります。
が、無視です。無視!それどころではないのです。
私は左足を大きく引き姿勢を低くし、腕を交差させてバッテンを作りその中に顔と胸をしまい込み備えました。
チラリと目を遣ると、両陛下も同様の格好をなされておられます。
「そんな物が、そんな事が解放だなんて仰るのかしら?!」
「はあ」
「はあ?」
「はあああああああ」
ウィリアム様の出すへんな声にミミが振り向きます。
そしてそれは更に高まっていきます。
「ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
来る!引いた脚を踏ん張り、さらに全身を強張せました。
その瞬間、殿下を中心に衝撃波が広がりました。
お願い!耐えて!私のクロスアームガード!
「ぐ、ぎぎぎ」
およそ淑女らしからぬ声が出てしまいましたが、衝撃を耐えきるのに形振り構っては居られません。
しっかりと踏ん張っているのにズリズリと壁の方へ体が押されて行きます。
衝撃波により、ガッシャンガッシャンと音を立てながらテーブルだろうが人だろうが、壁の端まで吹っ飛んで行きます。
控えの騎士達は耐えていますが、何人かはバランスを崩して転倒していました。そうなると装備している金属鎧は引っ掛かりが無い為、絨毯の上をシュルシュルと勢いよく滑って激しい金属音を響かせながら壁に激突するしかありません。
ミミはというと、ゴテゴテのスカートに衝撃波を受けてひっくり返り膝下のドロワーズを剥き出しにして逆立ちのような恰好で壁まで顔で滑って行ったのがガードの下から見えました。
何だか七面鳥の求婚ダンスのようだわ。などとボンヤリと思っていますと、
「ハアッ!!!!」
最後の掛け声と共に、衝撃波が止みました。
「こ、これがオラの力……」
ウィリアム様は掌をニギニギして自分の力を確かめているようです。
「はい、解放が終わりました。ちなみに喋り方は変わりませんよ」
「う、うむ、そうか」
「ウィリアムよ、愚かな事をしてしまったな。本日をもってチェルシー嬢との婚約解消を認め王位継承権を剥奪する」
「父上、何を!」
「王族は解放師に力を解放してもらってこその王族なのだ。そして解放後の力が一番強くなるのは成人になった月の満月の晩。中途半端に解放してしまった貴様では王家を支える事は出来ぬ。今後は辺境の将となり王国の礎を支えよ」
「お待ち下さい父上、私は解放により強くなった。分かるのです」
「いや待たぬ、チェルシー嬢は弟チャールズの婚約者として結びなおす」
「それならチェルシーとの婚約は継続します。そして成人後にもう一度解放してもらえば良いのでしょう」
「いや、解放は人生で一度しか出来ぬ。即刻去れ」
「クッ、ならチェルシーを手に入れれば王位継承を認めざるを得ませんよね」
言うや、ドンッという音と共に殿下の床が窪んだかと思うと、私の真横で伸ばした手首をギチギチと王妃様に掴まれていました。
王妃様の着ていたドレスは超スピードにより焼き切れており、スッポンポンになっていますが、なんと申しますか、つるりとした性別を感じない体型になっておられます。
「ね、王家を支える力はないでしょう?」
「ぐぎぎぎ」
「諦めてあの女と辺境へ向かいなさい」
「あの女?ミミのことか?ミミのことかーーーーー!!!!!」
突如ウィリアム様はドウッという光に包まれて、髪の毛が逆立ち金髪に光り輝き始めました。そういえば元から金髪でした。
これは凄い事です。自分で更なる開放を成し遂げるなんて公爵家の文献にも残っておりません。
気づけば反対の手を私に伸ばしており、その腕も王妃様に掴まれていました。
当然ながら私には王族の動きは一切目で追う事ができません。
「ほーほっほっほ、ずいぶんムダな努力をするのですね……そんなことが私に通用するわけがないでしょう!」
「妃よ、普段そのような笑い方はせぬであろう」
「ウィリアム、因みに私はあと一回変身を残しています。その意味が分かりますね?」
それを聞いてウィリアム様は諦めたのか、立っていた髪は元通りになり、力なく佇みました。
「私には、もう王家を支える力を手に入れる事が無くなった事が分かりました」
「チェルシー済まなかった」
「はあ」
ウィリアム様は目を合わせて謝ってくれました。
「では私は裏で変身を解いてきますわね」
言うと王妃様は目の前から消えた。
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