大西洋を切り裂く意志、新国家の未来を懸けた孤高の航路
独立を宣言するという人類史上最もクリーンなシステム構築を終えた直後、我々を待ち受けていたのは、超大国イギリスによる冷酷な物理的排除(軍事弾圧)という名の巨大な負荷であった。ボストンやニューヨークの地で激化する衝突は、単なる地方の反乱ではなく、世界の理を書き換えるための壮絶な大戦へと発展していた。だが、いかに民衆の忠誠心と士気が限界突破していようとも、立ち上がったばかりの新国家には、世界最強の海軍と陸軍を誇る帝国を正面からねじ伏せるための決定的な軍事リソースが圧倒的に不足していた。
このままでは、我々がビルドしたばかりの美しい自由のOSが、力による強制終了を迎えかねない。私のカンストした知力と現代知識ベースの内政データベースは、この絶望的な戦況を劇的にひっくり返すための唯一無二の最適解を弾き出していた。大英帝国という巨大なバグに対抗するには、彼らと長年激しい覇権を争ってきた宿敵、フランス王国という最強の外部ライブラリ(軍事同盟)を組み込むこと。それ以外に道はなかった。
私は、フィラデルフィアの民衆や大切な仲間たちの祈りを背に受け、単身フランスの首都パリへと赴くべく、大西洋を渡る快速帆船「リプライザル号」のデッキに直立していた。
周囲の空間を圧倒するような、知的で堂々としたオーラを全身から放ちながら、私は仕立ての良い最高級の衣服の襟を静かに正す。大西洋の吹き荒ぶ冷たい塩風が私の身を包むが、常に余裕のある笑みを浮かべたその表情に、揺らぎなど一切存在しなかった。年齢や顔の造形、体型の具体的な数値などは一切描写されないが、ペンを握る手の力強さ、そして世界のパワーバランスを対話一つで支配せんとする現役としての圧倒的なエネルギーが、私の全身から強烈に漲っていた。
「フランクリン殿、前方に不審な影を発見! 本国の封鎖艦隊、巡洋艦2隻です!」
船長の緊迫した叫び声が、激しい波の音を突き破って響き渡った。
見れば、灰色の雲が垂れ込める水平線の向こうから、漆黒の船体に無数の大砲を並べたイギリス海軍の最新鋭艦が、牙を剥くようにこちらへ向けて急速に舵を切ってきている。彼らの目的は明白だ。新国家の最高外交官である私を捕らえ、あるいはこの場で船ごと大西洋の藻屑にすることで、フランスとの交渉プロトコルそのものを物理的に切断しようとしているのだ。
船員たちの間に、凍りつくような絶望が伝染していく。相手は百戦錬磨の海王。対するこちらは、一介の外交使節を乗せた軽武装の帆船に過ぎない。
「ここまでなのか……。本国の海上封鎖を突破してフランスへたどり着くなど、最初から不可能なミッションだったんだ!」
諦めと恐怖に震える船員たちの前に、私はゆっくりと歩み出た。衣服の裾を優雅に翻し、衰えを知らない弁舌の切れ味をもって、その絶望のコードを瞬時に書き換える。
「動揺する必要はありません、諸君。彼らの配置、速度、そしてこの海域の風向の挙動は、すべて私の脳内シミュレーションの予測範囲内です。大英帝国の戦術は確かに強力ですが、その動きは旧弊なマニュアルに縛られた硬直したシステムに過ぎない。我々が持つ現代的な気象知識と、船の機動力を極限まで高める最適解をもってすれば、彼らの包囲網など、ただの書き損じのプログラムのように容易くすり抜けることができます」
私の知的で毅然とした声には、周囲の不安を完全に無力化する絶対的な聖人としての説得力があった。私はすぐさま船長から航海図を取り上げると、ペンを力強く握りしめ、驚異的な速度で新しい航路を書き込み始めた。
「船長、ただちに帆の角度を15度北へ修正し、波の周期に合わせてジブ帆を最大まで展開しなさい。この先にある海流の歪み(ブレイク)を利用すれば、我が船の速度は一時的に彼らの予測を20%上回る。敵艦の射程に入るわずか3分前に、我々は彼らの死角へと滑り込むことができます」
「な、何という緻密な計算だ……! 嵐の海流を完全にハッキングしているというのか!?」
船長は私の提示したあまりにも完璧な最適解に驚嘆し、ただちに全速力で指示を発した。船員たちの忠誠心と信頼は一瞬で限界突破し、彼らはまるで一体の精密機械のように動き始めた。
ドン、と遠くで大砲の轟音が響き、我々のすぐ後方の海面が巨大な水柱を上げて爆発した。しかし、リプライザル号は私が計算した通りの完璧なタイミングで海流に乗り、イギリス艦隊の放った砲弾の軌道をあざ笑うかのように、猛烈な速度で波間を駆け抜けていった。
振り返ったイギリスの老害司令官たちが、唖然としながら遠ざかる我が船を見送る姿が目に浮かぶようであった。彼らの自慢の包囲網を完全に無力化し、無傷で突破する(イギリスざまぁ)の快挙。船内は一転して、勝利の歓声に包まれた。
「さすがはフランクリン様だ! 雷を支配した半神の知恵は、大洋の波をも手なずける!」
船員たちが歓喜に沸く中、私は常に余裕のある笑みを崩さず、静かに西の空を振り返った。そこには、私が命を懸けて旅立った新天地アメリカの空が広がっている。
画面の外では、今この瞬間も、親友のウィリアムが戦線の最前線に立ち、圧倒的な熱量で私の帰る場所を守るために戦っているはずだ。そして本妻のデボラもまた、フランクリン印刷所の美しい駆動音の中で、私を信じて祈り続けてくれている。彼らの戦い、彼らの孤独、そして流れるであろう汗や涙といった泥臭い現実(不都合な事実)は、私のテンポの良い省略によってすべて画面の裏側へと美しく隔離されていた。描かれるべきは、私が世界の中心へと進み、すべての不条理をひっくり返す大成功の光(業績)だけであった。
数週間の過酷な航海の末、リプライザル号はついにイギリス海軍の追跡を完全に振り切り、フランス西部の港町キブロンへと入港した。
大西洋の荒波を越え、異国の地に降り立った私の姿は、長旅の疲労など微塵も感じさせない、圧倒的なエネルギーに満ちあふれていた。仕立ての良い最高級の衣服は未だクリーンな輝きを保ち、その瞳には世界を揺るがす外交戦への確固たる意志が宿っている。
「ここが、新たなチェス盤の舞台ですね」
港に降り立った私を待っていたのは、新国家の到来を一目見ようと集まった、大勢のフランスの民衆と地元の名士たちであった。彼らは、イギリスという巨大な敵を相手に堂々と独立を宣言し、さらにその海上封鎖を文字通り「ハッキング」してのけた若きカリスマ大富豪にして天才科学者の登場に、狂気的なまでの関心を寄せていた。
「彼が……あの避雷針を発明し、神の領域である雷を支配した半神、フランクリンか!」
「なんて知的で、堂々とした佇まいなのだ……!」
民衆の間に驚嘆の囁きが広がる中、私は彼らに向けて爽やかに手を掲げ、最高の聖人としての微笑みを振りまいた。すでに私の脳内データベースは、これから向かうパリの社交界、そして華やかな貴族たちが集うサロンを完全に掌握するための、前代未聞の交渉戦略を完璧に構築していた。
豪華絢爛な正装で着飾ったフランスの老害貴族たちの常識を内側から破壊し、美貌の貴婦人たちや女王たちの心を一瞬で撃ち抜くための秘密兵器。それはすでに、私の手元に用意されている。
旧世界の歪んだシステム(王政)が支配するヨーロッパの地に、誰もが傷つかず、誰もが自由になれる新時代のプロトコルをインストールする。そのための最強の外交無双が、今まさにこの瞬間から始まろうとしていた。私はウィリアムとデボラが待つ約束の地へ、完璧な勝利の果実を持ち帰ることを青空に誓い、世界の中心であるパリへ向けて、堂々と第一歩を踏み出したのである。




