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学校を10歳で中退した俺、実家を追放されるが知識チートで生き抜く

実家を追放されたその日、ボストンの冷たい風が俺の首筋を撫でた。

手元にあるのは、わずかな小銭と、着の身着のままの衣服。そして、誰にも奪うことのできない、この頭脳に詰まった膨大な知識だけだ。


「おい、ベンジャミン! お前のような口生意気な役立たずは、もう我が家の敷居を跨ぐな! 学校をたった2年間通っただけで中退した落ちこぼれが、偉そうに父親の家業に口を出すなど、100年早いのだ!」


背後で頑固な父親、ジョサイア・フランクリンの怒声が響き、重い木製の扉が大きな音を立てて閉ざされた。

俺の実家は、ボストンの片隅で蝋燭と石鹸を製造するしがない家内工業だ。17人兄弟という、現代の感覚からすれば信じられないほどの大家族の中で、俺は15番目の子供、男としては10番目の息子として生まれた。


家計が逼迫しているのは、子供の目から見ても明らかだった。

俺は8歳の時に文法学校へ入れられ、一時は将来の牧師候補として期待されたものの、膨大な子供たちの養育費に圧迫された父親は、わずか1年で俺を退学させた。その後、別の読み書き算盤の学校へ転校させられたが、そこも10歳の時に中退。俺は実家の蝋燭製造業の手伝いに駆り出された。


だが、毎日毎日、獣の脂を煮詰め、型に流し込み、芯を通すだけの単純作業。

そんな非効率で生産性の低い労働に、俺の魂が満足するはずがなかった。

前世の記憶――現代の高度に発達した経済学、経営学、そして合理主義的な思考回路を持つ俺にとって、実家のやり方はあまりにも前時代的で、無駄に満ちていた。


「作業工程を3つに分類し、動線を最適化すれば、労働時間は3割削減でき、生産性は2倍になります。さらに脂の精製方法を改良すれば、煤の出にくい高品質な蝋燭が作れる。なぜそれをやらないんですか?」


10歳の俺が放った極めて真っ当な経営コンサルティングは、古い職人気質の本分に生きる父親の逆鱗に触れた。彼らにとって、子供は労働力であり、従順な駒でなければならなかったのだ。

結果として、俺は「実家の和を乱す生意気な小僧」として、家を追い出されることになった。


だが、歩き出した俺の唇からは、自然と不敵な笑みが漏れていた。


「……ふっ、非効率な血縁コストが向こうから消えてくれたか。むしろ好都合だ」


大家族というシステムは、個人のリターンに対してあまりにも分配の負担が大きすぎる。実家に縛られ、あの薄暗い工房で一生を終えることに比べれば、このボストンの街に放り出された方が、俺の知識を何倍、何十倍もの富と名声に変換できるチャンスがある。


俺は自らのステータスを確認するように、これまでの歩みを思考の海で整理する。

学校を中退させられてからの2年間、俺はただ無為に蝋燭を作っていたわけではない。

実家の退屈な労働の合間、そして誰もが眠りについた深夜の数時間、俺は狂ったように本を読み漁った。


家にあるわずかな宗教書から始まり、小遣いを全て注ぎ込んで買い集めた歴史書、哲学書、そして世界の論文。ジョン・バニヤンの『天路歴程』、プルタルコスの『英雄伝』、ダニエル・デフォーの『プロジェクト論』……。

それらの知識を前世の現代的な論理思考フィルターに通し、完全に自分の血肉へと昇華させてきた。

数学の素養、緻密な文章構成力、人間心理の動向を予測する行動経済学の基礎。俺の知識ステータスは、このボストンの地において、すでに他の追随を許さないレベルにまでカンストしている。


問題は、この溢れる知識をアウトプットし、最速で資本に変換するための「乗りプラットフォーム」がどこにあるかだ。


答えは、最初から決まっていた。

この大航海時代から近代へと移り変わる激動の世紀において、最も強力な武器。

それは剣でもなければ、魔法でもない。

「情報」だ。

正式な国の軍隊すら持たないこの植民地アメリカにおいて、大衆の脳内にダイレクトに言葉を流し込むことのできる唯一の最強スキル――それこそが「印刷」である。


俺には12歳上の兄、ジェームズ・フランクリンがいる。

彼は数年前にイギリスのロンドンへと渡り、最新の印刷技術を学んで、このボストンの街に自前の印刷機を携えて帰国したばかりだった。ちょうど、新しく印刷所を立ち上げるための人手を探しているはずだ。


「蝋燭の芯に火を灯す仕事は終わりだ。これからは、言葉という光で世界を照らすとしよう」


俺は足取りも軽く、兄ジェームズが構える印刷所へと向かった。

ボストンの港に近いその一角からは、独特な油性インクの匂いと、重いプレス機が擦れ合う金属音が響いていた。

扉を開けると、そこには大量の紙に囲まれ、額に汗を浮かべて不気嫌そうに活字を拾っている兄の姿があった。


「兄貴、人手が足りないって聞いたから来てやったよ。俺をここで雇ってくれ」


ジェームズは手を止め、怪訝そうな顔で俺を見下ろした。実家を追い出されたばかりの、手荷物も持たない弟の突然の来訪だ。当然の反応だろう。


「ベンジャミンか。親父と大喧嘩して飛び出してきたそうだな。だが、ここは遊び場じゃないぞ。印刷ってのはな、気の遠くなるような職人の世界だ。お前のような学校を中退した小僧に、文字の並んだ活字ケースのルールが理解できるか?」


「ルール? ああ、アルファベットの頻出度に応じて、ケースの配置を最適化するあのシステムのことか? 英語の文章において最も使われる文字は『e』であり、次いで『t』『a』『o』『i』『n』となる。それらの活字を手元に最も近い、広いスペースに配置し、逆にほとんど使われない『q』や『z』を端に追いやる。そうすることで、職人の腕の移動距離を最小限に抑え、タイピングスピードを極限まで引き上げる……。違いますか?」


俺がよどみなく、現代のエルゴノミクス(人間工学)に基づいた配置の最適化理論を突きつけると、ジェームズは目を見開いたまま完全に硬直した。


「お前……なぜそれを知っている? それは俺がロンドンで、1流の親方から叩き込まれた極秘のノウハウだぞ……!」


「本を読めば書いてありますよ。まあ、書いていなくても、自分で数冊の洋書を解体して文字の出現確率を計算すれば、小学生でも導き出せるただの統計学です」


俺は不敵に微笑みながら、作業台の上に置かれた未完成の印刷原稿に目をやった。

そこには、誤字脱字の目立つ、実に見苦しいレイアウトの地方広告が並んでいた。


「それに、このインクの調合は粘り気が強すぎて、紙に色移りしやすい。プレスする際の圧力の分散も不均一です。俺なら、油と煤の比率を1対0.28に調整し、プレスのレバーにテコの原理を応用した補助器具を取り付けることで、今の半分の力で、2倍の鮮明さの印刷を可能にしてみせますよ」


ジェームズは、手にした活字をポロポロと床に落とした。

彼の目には、目の前にいる弟が、ただの「学校中退の少年」ではなく、何か底知れない知識の化け物に見えているに違いない。


「……信じられん。だが、もしその言葉がハッタリでなければ、お前は最高の丁稚アプレンティスになる。よし、契約書を書こう。9年間の徒弟契約だ。飯と寝床は保証してやるが、給料は出せん。職人の技術は、それほど価値のあるものだからな」


9年間の無給労働。まさにこの時代のブラックな徒弟制度そのものだ。

普通の内政チート転生者なら、ここで「理不尽だ!」と怒るかもしれない。

だが、俺の計算は違った。


「いいですよ、その条件で契約しましょう」


俺は即座に承諾した。

給料など、今の俺には1文も必要ない。

俺が欲しかったのは、合法的に印刷機という「最強の情報拡散兵器」に毎日触れることのできる環境と、その機材を動かすための紙とインクの調達ルートだけだ。

このブラックな契約の枠組みすらも、俺の圧倒的な知識があれば、裏からハッキングして莫大な利益を生み出すための隠れ蓑に過ぎない。


契約書にサインを交わした瞬間、俺の脳内で新しい時代のファンファーレが鳴り響いた気がした。

実家の蝋燭職人という狭い世界から、文字による無限の荒野へ。

ここから、俺の印刷スキルを用いた、世界の常識をひっくり返す無双劇が幕を開ける。


俺はジェームズに向かって、これまでで最もクリーンで、最も余裕に満ちた笑みを浮かべてみせた。


「さあ、始めましょうか、兄貴。このボストンの街のメディアを、俺たちのインクで塗り替える作業を」

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