プロローグ 終末世界にチーズは必須。
よろしくお願いします。
人類が滅びて久しい荒野でも、夕暮れは綺麗だった。
「カノ、この辺りで休みましょう」
そう言って足を止めた少女は、呼吸ひとつ乱していない。
「そうだね」
そう言ったこの声にも、この身体にも、まだ少しだけ慣れない。
大きく突き出た岩の隙間に腰を下ろす。
風は弱く、日差しも岩が遮ってくれている。休むにはちょうどよかった。
俺は鞄から日記を取り出し、今日あったことを書き留めていく。
隣から、その手元を覗き込んでいたロボが口を開いた。
「カノ、そこの文字が違います」
「え?」
「三行前です。『晴天』ではなく『快晴』のほうが適切かと」
「そこ?」
「事実の記録は正確であるべきです」
俺は少しだけ笑って、書いた文字を消して書き直す。
「細かいなあ」
「記録補助は得意です」
指先ひとつ汚さず火を起こす横顔は、こうして見ると本当に人間みたいだ。
その手元を横目に、俺は鞄から缶詰をひとつ取り出した。
「今日は焼き鳥だな。」
缶詰を焚き火の上にセットし温まるのを待つ。
「チーズチーズっと!」
温まり湯気が出始めている焼き鳥の上にチーズを乗せていく。
チーズは週に一度食べれる貴重品だ。
「カノは、本当にチーズが好きですね。」
ロボは俺の様子を見てにこりと微笑む。
「チーズは何にでも合うからな。」
とろけたチーズを焼き鳥に絡め、そのまま口に運ぶ。
「美味い!」
ロボは満足そうに俺の口の周りを布巾で拭いている。
「ロボも食べるか?」
「必要ありません。ですが、匂いの記録は嫌いではありません」
「そっか。」
焚き火の向こう、火の届かない暗がりで、何かがひとつだけ動いた気がした。
「……今、何か見えましたか?」
ロボが珍しく、視線だけを暗闇へ向ける。
けれど次に見た時には、もう何もいなかった。
俺は残りの焼き鳥を食べ切り、空を見上げる。
「ロボ、まだこの世界に生き残っている人達はどのぐらいいるのかな?」
「分かりません。ですが、いるはずです」
「根拠は?」
「カノが探しているからです。」
俺は頷き、日記の続きを書いていく。
「ふぁぁあ」
自然と口からあくびが漏れる。
「カノ、そろそろ寝ますか?」
「うん。」
ロボが正座して、自分の太ももをぽんぽんと叩く。
俺はそこに頭を置きゆっくりと目を閉じる。
「おやすみなさいカノ」
「おやすみロボ」
焚き火の音だけが、静かな夜に小さく残っていた。




