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番外編:【観測】上皇たちの溜息と、最強の二代目

王宮の最深部、限られた者しか入ることを許されない秘密のサロン。


そこでは、かつてこの国の動乱を鎮め、今は一線を退いた「伝説の男たち」が、度数の強い琥珀色の酒を片手に集まっていました。

上皇(前国王)、公爵(セレスティアの父にして特務機関の前局長)、そして騎士団長(ガイルの上司)。


国を支えてきた重鎮たちが、今、一様に深い、深いため息をついている。



「……公爵よ。お前の娘、セレスティアのことだが」

上皇が、チェリーを沈めたグラスを揺らしながら口を開く。


「はっ。……お聞きしたくもありませぬが、また何かやらかしましたか」

「昨日の閣議だ。新王である我が息子が、隣国の外交官を論理の迷宮に引きずり込んで完膚なきまでに叩きのめしていた。その際、息子が漏らしたのだよ。『これはセレスティアが朝食の片手間に考案した、交渉用アルゴリズムの初歩だ』とな。……隣国の外交官、泣きながら帰っていったぞ」


公爵は天を仰ぎ、一気に酒を煽りました。

「……申し訳ございませぬ、上皇陛下。あの子は幼い頃から『効率の悪い会話』を何よりも嫌っておりましたから。……しかし、私の部下だったアンナ(リリアナ)も相当なものです。騎士団長、そちらはどうだ?」



話を振られた騎士団長は、眉間に刻まれた深い皺をさらに深くしました。

「……聞かないでいただきたい。副団長のガイルが、先日、訓練場の裏でアンナに組み伏せられていた。アンナが『最近、隠密行動にキレがないわよ、パパ。娘にすら見つかるなんて恥を知りなさい』と説教しながら、彼の関節を極めていたのだ。……ガイルの奴、顔を赤くして『すまない、アンナ。次はもっと上手くやる』と悦んでいた。我が騎士団の威厳は、あの一家に吸い取られている」




三人の男たちが、再び同時にもう一回、深いため息をつきました。




「……問題は、その子供たちだ」

上皇がボソリと呟きます。


「王太子のルークが、私の隠し持っていた秘蔵の古酒の隠し場所を当ておった。『おじい様の歩き方の重心が、常に北西の貯蔵庫を向いているから』だと。5歳児の言うことか、それが」

「アンナの娘もです」と騎士団長が続ける。

「私の執務室に潜り込み、機密書類の束に『団長のおじいちゃん、甘いものの食べ過ぎはダメだよ』と付箋を貼っていきおった。近衛兵を一度も検知させずにだ……。特務機関の将来は明るいが、私の心臓には暗雲が立ち込めている」


公爵は、空になったグラスを見つめながら、複雑な笑みを浮かべました。

「……陛下。この国は、かつてないほど盤石でございます。外敵が攻めてこようものなら、セレスティアが外交で自滅させ、アンナが裏から喉元を突き、その子供たちが逃げ道を塞ぐでしょう。……我が国を脅かす者は、もはやこの世に存在しませぬ」

「ああ、そうだな。……だが、公爵よ。我ら『男たち』の居場所も、もはやこの国には存在しない気がするのだ」

上皇のその言葉に、全員が沈黙しました。



かつて戦場を駆け、謀略の渦を泳ぎきった英雄たちが、今や娘や孫の「手のひらの上」で転がされている。


「……もう一杯、もらおうか」

「……私もだ」

「……私も」




カラン、と氷が溶ける音が静かな部屋に響きます。

この国は安泰だ。恐ろしいほどに、隙がなく、完璧に。


ただ、自分たちの可愛らしい(はずだった)娘や孫たちが、あまりにも「最強」すぎて――彼らの悩みは、当分尽きそうになかった。

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