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7/7

◆エピローグ

 季節は巡り、向日葵の季節がまたやってきた。

 油と汗にまみれながら、比呂人は十河の工場で懸命に働いている。その顔つきは精悍で、かつての怯えた瞳はもうない。

 仕事終わりのスマートフォンには、蓮からのメッセージが届いていた。

『今日のボイトレ終わったよ! 今夜の夕飯、ハンバーグでいい?』

 蓮はレストランでアルバイトをしながら、本格的な歌のレッスンに通っている。配信で見せる笑顔は、多くのファンを勇気づけていた。

 二人は質素なアパートで、互いを支え合いながら穏やかに、しかし力強く暮らしている。


 一方、向日葵園

「そうですか。前田さんのところに家宅捜査が」

 長年の幼児虐待容疑と脱税疑惑。警察がついに動いたらしい。

「うちも、向日葵園も、これから資金繰りが大変ですね。」

 そう話す十河と光江だが、その表情はどこか晴れやかだ。

「で、通報したのは十河さん、あなたなんでしょ?」

「お見通しでしたか。あいつへの、少しでも罪滅ぼしになればと思いまして。」

 十河が視線を庭へ向ける。


 園長の光江の声が響く。

「ちょっと、浩太!早くこっちに給食を運んで」

「はい、今行きます!」

 子供たちの賑やかな声の中、慣れない手つきで重たい寸胴鍋を運ぶ浩太の姿があった。

 その左手に、もう手袋はされていない。火傷の痕は消えないが、それを隠す必要のない場所を、彼はようやく見つけたのだ。


 鳥谷動物病院。

 そこには変わらず、鳥谷院長の姿があった。

 彼の脳裏に、あの日、境界の森で交わした神様との会話が蘇る。


「長かったな。」

「はい。」

「七日間だけという約束を破り、帰ってこなかったのはお前たちだけだった。一人は事故にあってしまったが……。人間界での暮らしはどうだったか?」

「幸せでした。できればずっと……。でも後悔はありません。どのような報いがあっても恨みません」


 神様は厳かに、しかし慈愛を含んで告げた。

「では無間地獄の業を申し伝える」

「……はい」

「人間界に戻り、動物の魂を救い続けよ。お前が戻ってきたくなるまで、永遠にだ」


 待合室の動物たちの声が聞こえる。

 鳥谷は白衣を翻し、微笑んだ。

「はいはい、順番だよ」

 彼は今日も、その幸福な使命を果たし続けている。



 どこかの町の産婦人科医院。分娩室に元気な産声が二つ、響き渡った。

「生まれましたよ!双子の赤ちゃん、お兄ちゃんと妹ですよ」

 助産師の声に、優しげな夫は涙ぐみながら、頑張った妻の手を労っている。

「さあ、お母さんですよ」

 取り上げられた小さな赤ん坊たちは、母親の胸の前で元気な泣き声を上げている。


「わあ、可愛い……」

 母親が愛おしそうに呟き、そして驚いたように目を見開いた。

「見てあなた。この子たち、もう手をつないでる」


 お互いの小さな手を、ぎゅっと握って離さない。


 隣のベビーベッドには、すでに夫婦が名付けた二つの名前が添えられている。

 命名「渉」

 命名「美優」


 ひときわ大きく響く二人の泣き声。

 母親が優しく語りかける。

「はいはい、ようこそわが家へ。わたる、みゆ」


 窓の外には、柔らかな陽光が降り注いでいる。

 終わりのない愛の物語が、ここからまた始まる。


 Fin



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