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第9話 槍の女神、爆誕

 地上から見上げれば畏怖を感じさせるほどに雄大な山峰ですら、空から見下ろせば唯の景色の部品に過ぎない。

偉大なる山峰も、背後に控える、悠久なる大海の無辺さを際立たせるいろどりに成り下がる。

まるで神になったかのようだ。

いや。私は神に違いない。


 (カモメ)は、久しぶりに空を謳歌していた。


「……。ねぇ……ねぇ、モーちゃんってば! そろそろ降りてきてよ」


ぬ。

いつの間にやら結構な時間が過ぎていたようだ。

俺のためとあらば特に我慢強いシェリーがしびれを切らすほどだ。

俺は慌てて地上へ急降下し、シェリーの左肩へ滑り込む。

ふむ、今日の記録はなかなかのものだ。

羽を畳み、いつものようにカモメ座りで腰を落ち着ける。


「もう、いつまで待たせるのよ」


シェリーが頬を膨らませる。

プチおこだ。

可愛い。

俺は首を伸ばし、シェリーの頭にそっと乗せて甘えるように鳴いた。


「クルルルル…。」


「ああもう、あざといわね。このカモメさんは」


 と言いつつも、シェリーは俺の頭を毛並みに沿って優しく撫でてくる。


――――――


 二人旅立ったあの日から2カ月。

カモメと少女は南へと向かった。

町から町へ馬車を乗り継ぎ、ただひたすら南を目指す。

谷を抜け、草原を駆け、山を越える。

歩みは決して早くはない。

だが、その歩みは二人の世界を着実に広げてゆく。

そして、共に広げた世界は互いの理解を深め、さらには二人の絆に奥行きを与える。

今日もまた、一羽と一人は馬車に揺られていた。


――――――


 馬車の旅。

気づけば、俺の居場所はシェリーの膝の上になっていた。


「シェリーちゃん。リンゴでも食べるかえ?」

「あ、ありがとうございます。いただきます」


 膝上から、羨ましそうに見上げる。


「おお、モーちゃん。あんたもお腹空いたんか?

 お餅でも食べんか」

「うむ。苦しゅうない」


先ほどからこの老婆は、何を思ったのか

カモメの俺にまで食べ物を差し出してくる。


……もはや神に奉納する儀式であろう。

確信した。

我々は神々に違いない。


――――――


 ここは宿場町。

今日の路銀を稼ぐ時が来た。


「さあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。

 世にも珍しい、喋るカモメと美少女の奏でる妙技をご覧あれ!」


――――――


「ハーコック流奥義、サウザンドピークス!」


 シェリーの必殺技が炸裂し、宙に投げられた木札すべてに穴をあける。


………


 暫くの静寂ののち、誰かが呟く。

「……神さまが、舞い降りた……」


 その呟きが伝播し、広場は静かな熱に包まれた。


「槍の女神様……どうかご加護を」

「子どもの病を……」


さっきまで大道芸を見ていた群衆が、

いつの間にか“信者”に変わっていた。


――――――


「ふぅ。今日も結構稼げたわね。

 ちょっと悪い事してる気分になるわ。

 それはそれとして、前から気になってたの。

 技の名前って、毎回叫ばないといけないの?

 なんだか子供っぽくて、

 人前だとちょっと恥ずかしいんだけど……」


「うん。結論から言うとだな、あれは大事なんだよ。

 無言で放たれたら、傍から見てて何をしたのかさっぱり分からんからな」


「ん?

 んんん???」


シェリーが小首をかしげて眉を寄せ、困ったような顔を見せる。

彼女が織りなす数多の表情の中でも、お気に入りの一つ。


「俺のヒロインに課せられた使命だ。

 恥ずかしいのは分かるが、我慢してくれ」


シェリーが俺の体をそっと抱きかかえ、無言で前を向く。

心臓の音が聞こえる。

いつもよりほんの少し、その刻みは短い。


「もう……分かったわよ」

無辺むへんさ:限りなく広がっている などの意

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