第6話 少女の魔法
魔法を使い始めて判ったのだが、シェリーの魔力は底無しだった。
出力は大した事はない。
反面、いくら使っても枯れる気配を見せない。
その秘密は黒髪にあった。
黒髪自体は珍しくもないが、シェリーのそれは特別だった。
すべてを吸い尽くすような深淵を彷彿させる黒。
それは異次元への扉の象徴。
シェリーはどうやら異次元から魔力を吸い取り行使できる、そんな能力を持っていた。
え? なんでそんなことが判るのかって?
それは俺様が賢者だからだ。
キリッ。
細けぇこたあいいんだよ。
「シェリーの魔力を考えると、
直接使うより、槍と組み合わせた方が良い気がするな」
「ホント?」
「ああ。武器に魔法を付加して使う、
俗にいう魔法剣ってやつだな。槍だけど。
魔力消費が大きいのが難点で使い手は少ないんだが、
シェリーだったら問題ないだろう?」
「そうね。無駄に魔力だけはあるみたいだし」
「早速だがやってみるか。
魔法を放つときと同じ要領で魔力を練って、
放出する代わりに穂先に集中させる感じで……」
「こんな感じかしら?
ん~……。あ、出来た!」
「やっぱ良い筋してるな、シェリーは。
教え甲斐があるぜ」
――――
そんな日々を送りながら二年が経ち、シェリーの魔法槍にも磨きがかかってきた。
シェリーは現在15歳。
あれから少し背が伸びた。
そして、どことは言わないが順調に成長の兆しが見える。
それに伴って魔法の出力も上がってきているようだ。
そろそろ良い頃合いか。
「シェリー。今日は新しい技を授けようと思う。
その昔、ハーコックという槍の達人が編み出したとされる、奥義の一つだ。
その名もサウザンドピークス」
「なんだか格好いい名前ね。どんな技なの?」
奥義と聞いて期待に胸を膨らませたのか、爛々と目が輝いている。
一見必殺、惚れ惚れするようなシェリースマイルだ。
「風と光の魔法を組み合わせて穂先の幻影を無数に作り出し、
幻に紛れて必殺の一突きを放つ、
文字通りの必殺技だ」
「えぇ……。
なんか卑怯じゃない? それって。
そんなインチキじゃなくて、
もっと正統派の技がいいなぁ、私」
シェリーの眼から徐々に光が失われる。
だがな、必殺技なんてものには大抵タネも仕掛けもある。
そんなものだ。
「それがな、この技は傍から見ると、
高速で無数の突きを放っている様にしか見えない。
とても恰好良い技なんだ。
美人のシェリーが使えば、見栄えも文句なしだぞ」
「そうかしら。えへへ……。
モーちゃんがそういうならやってみようかしら」
チョロいな。
まぁこれでやる気が出るなら安いもんだ。
「何か言った?」
「い、いえ。 滅相もございません……」
危ねぇ。
このエスパーの前で余計な事を考えるのはよそう。
――――
そして3か月が過ぎた。
「ハーコック流奥義、サウザンドピークス!」
ブババッと無数の穂先が現れるとともに鋭い突きが繰り出される。
見事だ。
これを初見で防ぐのは不可能に近い。
「見事だ、シェリー。よく頑張ったな。
これならあの面倒な呪いも断ち切ることが出来るだろう」
俺はシェリーの肩に飛び乗り、片羽を広げて頭を撫でる。
「ホントに?
私、ヒキガエルにならずに済むのね。
ありがとう、モーちゃん」
シェリーは破顔しながら俺の脇に顔をうずめてくる。
泣いてるのか?
「グスッ。良かった。私……。
あれから、もう2年も修行ばかりで、
ずっとこのままで……もう解けないんじゃないかって……」
もう片方の羽根も広げてシェリーの頭を包み込み、俺は慰める。
ずっと気丈にふるまってたが、内心は不安で溢れてたか。
そりゃそうだ。
俺に任せろと言ったあの日から今日まで、ずっと呪いを抱えていたんだ。
シェリーはまだ少女だ。
不安でないわけがない。
だが、それももう少し。
もう少しの辛抱だ。
この子を救ってみせる。




