表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カモメ賢者と黒髪の少女  作者: ジャパンプリン
第五章 新たな旅立ち(真の番編)
53/55

第53話 叡者モーゼス

ノエリア学術院・総帥ロリコムの執務室の一角。

ソファが置かれた応接所の傍らで、四人は対峙していた。

白髪の老人ロリコム。

モーゼス(カモメ)を胸に抱く少女、シェリー。

そして、老婆アストリッドだ。

今、この場の主導権は、老婆が握っている。


「さっきも言った通り、新たな叡者、モーゼスのお披露目に来たんだ。

 それで、サメロス権限で認定したい」


モーゼス(カモメ)の母アストリッドは叡者サメロスの称号を持つ。

サメロスの名は当代一の魔法使いに与えられる特別な称号。

それゆえ、総帥ロリコムに対しても同等の発言力を持つ。

アストリッドは、モーゼスの叡者認定を直談判しに来たのだ。


「そういうことか。

 う~む。

 規定では可能だが、カモメが叡者か……」


ロリコムは、顎に手を当て目線を下げる。

思案の様子を無言で見守るアストリッド。

一寸(ちょっと)の間を置き、彼女の見解を述べる。


「そこは私も確認したんだ。

 ”人”じゃないとダメなんて規則は無かったよ。

 それなら、カモメでも良いじゃないか」


老人は顎を引き、眉間に皺を寄せる。

無言で少し息を吐き、そして答えた。


「アストリッド、さすがにそれは揚げ足取りというものだよ。

 とは言え、サメロスが認めたという事実は重い。

 一度、モーゼス君の力量を見せてもらってから判断したい。

 それで良いかな?」


老婆は両目を広く見開き、即座に同意する。


「構やしないさ。

 なあ、モーゼス?」


老婆が横目でカモメを見やった。

カモメは促されるままに、言葉を繋ぐ。


「あ、ああ。それは良いんだが。

 確か、叡者の認定って最終試練が必要なんじゃないのか?

 あの、迷宮を一人で踏破して来るってやつ」


了承の言葉に続き、カモメは老人たちへと疑問を投げかけた。

だが、カモメの疑問に反応したのは少女だった。


「え? ダメよ、モーゼス。

 一人だなんて」


ひと際高い声が、執務室に響き渡る。

少女は目を丸くし、胸元に抱えたカモメを覗き込んだ。

カモメもまた、首を回して少女と見つめ合う。

そこに老婆が舌を鳴らし、左右に人差し指を振ってみせる。

少女とカモメの視線を引き取り、会話に割って入った。


「モーゼス、アンタは叡者サメロスの名の重さを理解してないみたいだね。

 サメロスが認めれば、最終試練は必要ないのさ」


「そういうことか。

 俺はもう、やる気満々で来てたんだが。

 それならシェリーも安心だ……な‥?」


カモメはコクコクと頷き、老婆に答えた。

だが、首を回して少女を見上げた瞬間、言葉が滞る。

彼が見たものは……


目が据わり、表情を失った少女。

その口が、ゆっくりと開かれる。

そして、


「モーゼス、ちょっと」


とカモメに告げる。

低い声だ。

カモメはへなへなと首を縮め、頭を体に(うず)めて押し黙る。

そんなカモメを少女は無言で見据えている。

少しの沈黙を経て、カモメが声を漏らす。


「ハイ……」


突如、少女は表情に力を取り戻し、老人たちに微笑みかける。

そして、軽く会釈をした。


「すみません、少しだけ失礼します」


そう言い残して、少女は廊下へと向かった。

無論、カモメは少女に抱かれたままだ。

少女が退室し、執務室に静寂が訪れる。

無言で顔を見合わせる老人たち。

何やら、壁の向こうから少女の声がする。


|          《「……何でアナタはそんな大事な事……」》

少女の怒号が壁を抜け、微かに響き渡る。

老人たちは、揃って苦笑いだ。


「若いって、良いもんだね」


老婆がそう呟くと、老人も続いて口を開く。


「そうだな。

 モーゼス君は、愛されてるようだ」


老人たちは互いに目尻を下げ、ソファへと腰を下ろした。


しばらくの後、執務室の扉がノックされ、少女が帰ってきた。

カモメを小脇に抱え、羽を固めている。

カモメは頭を体に(うず)めたままの姿勢だ。


「お待たせしました。

 ごめんなさい、取り乱してしまって」


老婆は柔和な笑みを浮かべ、少女に答える。


「いいんだよ。

 それじゃあ早速、実技試験と行こうじゃないか」



――――――


四人は訓練場へとやって来た。

訓練場は、学術院の裏手にある。

広場の様な場所だ。

地面には等間隔に杭が打ち込まれ、案山子(かかし)(てい)を成している。


案山子の一つに、ロリコムが鉄鎧を着せた。

そして鉄鎧から距離を取り、カモメに告げる。


「ではモーゼス君。

 君の魔法を見せてもらおう」


カモメ(モーゼス)はここでも少女の胸に抱かれていた。

だが、ロリコムの言葉を契機に、カモメは飛び降りる。

地面に降り立ったカモメは鉄鎧を一瞥する。

そして、静かに呟く。


「そうだな。

 ここは、アレで行くか。

 危ないから、風の障壁は忘れないでくれよ」


カモメは首を回し、背後の少女と老婆に念を押した。

老婆が頷くと、首を戻して(クチバシ)を鎧に向ける。


風障壁(ウィンドシールド)


カモメが魔法で不可視の障壁を張る。

そして、次なる魔法を行使する。


気化衝弾(キャビティ・ボム)


嘴の先、障壁の向こうに水球が現れた。

水球は宙に浮かんでいる。

それを見たロリコムの口から声が漏れる。


「おお。これは……」


水球はゆっくりと浮遊し、鎧へと向かう。

そして、鎧に当たるや否や、爆発した。

破裂音が訓練場に響き渡る。

一拍遅れて鎧の周囲に土煙が巻き上がった。


時間とともに土煙が薄れ、鎧が再び姿を見せる。

だが、鎧には穴が開き、形もまた歪んでいた。


「すごい……。

 モーゼスの本気、始めて見たかも」


「本気を出せば、まだまだこんなもんじゃないさ。

 でも、あれ以上は危ないからな。

 結構手加減したんだぜ?

 技術を見るだけなら、あれで十分だろ」


少女の上げた感嘆の声に、カモメは胸を張る。

続いて老人が口を開き、その技術を賞賛する。


「そうだな。

 気化衝弾(キャビティ・ボム)か。

 制御の難しい魔法だが、ここまで使いこなすとは。

 見事だ」


「そうなんですか?」


少女の疑問に、今度は老婆が答える。


「ああ、あれはね、風と水の複合魔法なのさ。

 水球の周りを風魔法で覆い、外側に引っ張って水圧を下げるのさ。

 この時、引っ張り方が悪いと途中で水球が破裂するんだよ。

 上手く、均等に引っ張ってやれば、さっきみたいになる。

 繊細な制御が要求される、高等技術だよ」


老婆の解説に少女は一瞬困惑の表情を見せた。

だが、即座に何かを思い直したのか、感嘆の声を漏らす。


「モーゼスって、凄かったのね」


「シェリー……」


少女が漏らした身も蓋もない本音に、カモメは落胆の色を隠せない。

そこに老人の高笑いが響き渡る。


「はっはっは。

 いやはや、大したものだ。

 モーゼス君は、確かに叡者の証を受け取るにふさわしい。

 認めよう。

 カモメの叡者、モーゼスの誕生を」


こうしてモーゼスは、新たな叡者として認められた。


――――――


あれから数日後、俺は叡者の証を授与された。

叡者の証はペンダントの様なものだ。

(カモメ)専用に鎖を縮めたものが、首から下にぶら下がった。

傍からどう見えるか。

俺はそこには興味はない。

だがこの証は、人間に戻るための手助けになる。


そんな想いを胸に、俺たち一行はノエリアの街を後にした。


これにて第五章完結です。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


この後は何度か閑話を挟み、4/1より第六章を投稿する予定です。

閑話はおそらく2,3話程度。

週末の投稿を予定しています。


一旦ペースが落ちることになりますが、引き続きカモメ賢者と黒髪の少女を宜しくお願いします。

また執筆裏話などを活動報告に乗せておきますので、興味がおありでしたら、そちらもご覧ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ