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カモメ賢者と黒髪の少女  作者: ジャパンプリン
第五章 新たな旅立ち(真の番編)
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第47話 自然の摂理

ノエリアの街を一望する丘で、シェリーはカモメに懐かれ、ソフィアの名を与えた。

翌日。

(カモメ)とシェリーは朝から港へと向かった。

港にカモメは付き物だ。

そこへ行けば、ソフィアにまた会えるだろう。

そんな確信めいた期待を胸に、俺たちは抱いていた。

俺はもちろんいつもの定位置(シェリーの左肩)だ。

シェリーは右利きだから、右肩だと邪魔になるからな。


倉庫が並ぶ路地を抜け、港に辿り着いた。

石造りの岸壁と倉庫。

岸壁からは、何本もの浮桟橋が伸びている。

そして、カモメ。

港の随所にカモメが鎮座し、中を飛び交うものも居る。

ここは、カモメの楽園だ。


木箱に腰かけ、周囲を見渡すシェリー。


「あっ、居た」


宙の一点を差し、シェリーが声を上げる。

その先には、優雅に宙を舞う、ソフィアが居た。

ゆっくり大きく翼をはためかせ、こちらへ向かってくる。

そして、シェリーの足元に着地した。


羽を畳み、(くちばし)を天へと向けたソフィア。

嘴の奥から昨日と同じ、甘えた声でささやき始める。


「スピー。スピー」


シェリーは両手で頬を挟み、どこか(とろ)けた笑みを浮かべている。


「か、可愛い……」


「そうか? 俺はシェリーの方が――」


「もう、茶化さないで。

 あっ、それよりパンあげないと」


傍らの袋からパンを取り出し、小さくちぎるシェリー。


あ、シェリー。

ここでそれは……。


「「「「モケー」」」」


周囲のカモメが一斉に鳴き声を上げ、シェリーめがけて飛んできた。


「きゃっ」


思わず飛び退くシェリー。

ついでに俺も、飛び降りた。

その拍子にパンが手から離れる。

だが、それは正解だ。

なぜなら……


カモメたちの関心は、地面のパンへと向けられた。

我先にと一斉に飛び込んでくるカモメたち。

あるカモメが、見事一番乗りを果たす。

素早くパンを咥えると、即座に飛び立ち離脱を図る。

だか、他のカモメが一斉に追い立てる。

これがカモメの日常だ。

哀れな獣の(さが)か。

こと食べ物となれば、奴等に協調性など存在しない。


カモメの嵐が過ぎ去り、俺たちの周囲に突如の静寂が訪れる。

そこに、木箱の影から一羽のカモメが姿を現した。

ソフィアだ。

ソフィアも難を逃れたか。

トトトと走ってシェリーの足元に駆けつける。

そして再び天を仰ぎ、スピーと鳴き始めた。

コイツ、知ってるな。

シェリーの手に、ちぎったパンが握られていることを。


やるな……。


――――――


一口分のパン切れをシェリーに貰い、小刻みに羽を震わせるソフィア。

満足気だ。

でも、本当に足りたのか? あの量で。

いや、シェリーが手にしたパンを食べた。

その事実がソフィアの心を温めたのだろう。

流石はシェリー。

女神の二つ名は、伊達じゃない。


シェリーが地面に膝をつき、ソフィアと目線を同じくする。

そして、ゆっくりと下から手を伸ばし、ソフィアの首に当て、親指で優しく、毛並みに沿って撫で始めた。

ソフィアもまた首を曲げ、シェリーの手首に絡ませる。

絵になるな。


……なるほど。

俺とシェリーは、こんな風に見えてたのか。

悪くない。


一通りのスキンシップを終えて満足したのか。

ソフィアがシェリーの手を離れ、明後日の方へと歩き出した。

ふと周囲を見渡すと、港の端々にカモメの姿が見える。

いつものカモメの楽園が、帰って来た。

と、そこでソフィアが翼を広げ、飛び立った。

海へ向かっている。

その先には、一羽のカモメが見える。

あれは、兄弟か。はたまた番なのか。

ソフィアは、孤独なカモメでは無かったのだ。


帰る場所がある。

それは、生き物にとって大事なことだ。

そして、俺の居場所は。

心の居場所はシェリーの胸にある。

変な意味じゃなくてな。


太陽の光が、温かみを、増すのがわかる。

俺とシェリーは今、同じ表情をしているに違いない。

心の表情に、種族の壁はない。

同調を――感じる。


ソフィアが、波間に揺れるカモメの側に降り立った。

二羽が並んで揺れている。

彼女らもまた、同調している。

俺たちと、お揃いだな。



と、思ったその瞬間、水飛沫が上がった。


!!!


飛び出したのは、灰色の魚だ。

デカい。

同時にカモメが飛び立つのが見える。

だが、あれは、一羽だ。

ソフィア?


いや、違う。まさか……。


目線を海に戻すと、そこには何事もなかったかの様に移ろう小波(さざなみ)が、無機質な調べを奏でていた。

その周囲は《くれない》紅に染まり――羽根が、大量の羽根が浮かんでいた。


「うそ……」


シェリーが両手で口を塞ぎ、囁く様な声を漏らした。

続く言葉は、無い。


シェリーが、おもむろに桟橋へと歩き始めた。

そして、桟橋の端で膝を立て、しゃがみ込む。

海面に手を伸ばし、何かを手に取った。

羽根だ。

摘んだ羽根を、無言で見つめるシェリー。

その頬に、二筋の光が走る。


いつまでそうしていただろう。

気が付けば、俺の体はシェリーの脚に触れていた。


「……自然って、

 厳しいのね」


シェリーがそっと、壊れ物でも扱うかの様に羽根を海へと浮かべた。

そして、傍に佇む俺を抱き上げ胸に抱く。

俺の背中に顔を(うず)めてくる。


「モーゼス……」

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