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カモメ賢者と黒髪の少女  作者: ジャパンプリン
第五章 新たな旅立ち(真の番編)
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第45話 至福のカモメ

(カモメ)を肩に載せ、シェリーは丘縁(おかべり)の小高い(いただき)へとむかう。


「あっ、見て。すごい!」


頂上へと辿り着いた俺たち。

眼下にはノエリアの街、そして遠く水平線へ続く海原が広がっている。


「まるで、空から見下ろしてるような気分になるな」


「へぇ~。

 じゃあ、モーゼスっていつもこんな世界を見てたのね。

 ……いいなあ」


む。なんかちょっと、シェリーの反応が変わったか。

さっきの抱擁で、シェリーもまた何か思うところがあったのか。

この感じなら、カモメ話を続けても良さそうだ。


「そうだな。

 実際、俺もカモメにされたときは戸惑ったが、

 空を飛ぶのが事の外楽しくてな」


そう言って地面に飛び降り、羽根を広げて見せる。

っと、風が強いな。

身体が勝手に、浮きそうだ……。


慌てて羽を畳み、事なきを得た。

危ない危ない。

しかし、ちょっと羽根が暴れてるな。

羽を小刻みに動かし直していると、(カモメ)の頭に手が乗せられる。

後ろでシェリーがしゃがみこみ、笑みを浮かべている。

振り向かずとも見える、カモメの視界だ。


「ふふっ。モーゼスはおっちょこちょいね。

 でも、カモメの姿も面白そうね。

 いっそのこと、私もカモメになるのはどうかしら?」


え。そんな……。

シェリーみたいな美少女が、何て勿体ないことを。

そこまで想ってくれるのは(カモメ)冥利に尽きるが、それはさすがに……。


「う~ん…‥俺は、シェリーにはシェリーのままでいて欲しいな。

 カモメになんてなったら、せっかくの美人が台無しだぞ」


シェリーが大きく目を見開き、一寸(ちょっと)の間を置いて目尻を下げ始める。

そして、俺の頭をゆっくりと(さす)り始めた。

俺も、首を回して(くちばし)をシェリーに向ける。


「ふふっ、ありがと。

 でも、私だって年を取るし、いつかはオバサンになるのよ。

 それでもモーゼスは、私を、愛してくれる?」


そう言って、はにかんだ表情を浮かべるシェリー。

さっきの台詞が気恥ずかしかったのか?

普段は涼し気な、紫陽花の如き美少女が、俺にだけ見せてくれる。

その姿はどこかいじらしく、可愛さと美しさが黄金律で溶け合った芸術作品の(よう)

シェリーの放つ輝きは、本物だ。

そして俺は、幸せ者だ。

答えは決まってる。


「勿論さ、シェリー」


――――――


俺たちは、頂付近に突き出した、丸みを帯びた岩に腰かけた。

と言っても、俺はシェリーの隣でカモメ座りな訳だが。

世界を眼下に従え、神になった気分で昼食を楽しむことにする。

いや、実際シェリーは女神だしな、俺の。

俺も神だし、人間に戻れたら、転生神の所にカチコミに行ってやろうか、まったく。


「――ぇ。ねぇ、モーゼス?」


「ん?」


「どうしたのよ、急に黙り込んで。

 目つきも鋭いし、何かあった?」


シェリーが小首を傾げ、覗き込むように見つめてくる。

可愛い……。

やっぱ、こういうところは年相応だよな。

沈黙を続ける俺に困惑したか、きょとんとした顔へと色彩を変える。

その表情がまた……


「あ、ああ。ちょっと転生神の事を思い出して、な」


するとシェリーは目線を上に向け、何か考え込む仕草で俺に答える。


「転生神ねぇ。お母さんも、何か声を聞いたって言ってたわね」


透き通った、でも奥行きも感じさせる。

美しい声だ。

っと。見とれてないで返さないと。


「ああ。だとすると、会話はできるってことか。

 そんな方法が、聖地で見つかれば良いんだが……」


「そうね……」


語尾を濁した俺の背に、シェリーの手が置かれた。

そして、親指だけで小さく擦り始めた。

繊細な動きだ。

シェリーの愛情を感じる。

俺は、首をシェリーの太ももにもたげ、瞼を上げ、閉じた。


いつまでそうしていただろう。

時間を忘れ、愛撫の心地良さに身を任せていた。

おもむろに指の動きが止まり、ぽんと背中を叩かれた。


「おしまいっ」


やはり、美しい。

シェリーの声は、その外見以上に俺を惹きつけてやまない。

瞼を開き、首を戻して見上げると、シェリーが優しく微笑んだ。


「そろそろ、ごはん食べましょうか」


――――――


俺とは反対側の、傍らに置かれた背嚢からパンを取り出すシェリー。

小さくちぎって差し出してくれる。

しかも、皮は外して内側の柔らかい部分だけ。

そんな心遣いが甲斐甲斐しく、そしてまた、愛おしい。


掌を突かぬよう、慎重にパンを(ついば)む。

視界の端で眺めたシェリーの顔は、目尻は下がり、頬も緩んで見える。

これで俺が、カモメの姿でなかったなら――


と、そこへ一羽のカモメが舞い降りた。


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