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カモメ賢者と黒髪の少女  作者: ジャパンプリン
第五章 新たな旅立ち(真の番編)
44/55

第44話 カモメの誓い

諸事情により、一話のみ先行公開します。

詳しくは後書きをご覧ください。

春の日差しに促され、日を追うごとに青草が姿を現わす。

その色彩と香りは、生命の帰還を声高に告げる。


そんな日の朝、俺たちは母アストリッドの庵に別れを告げた。

目的地は転生法の聖地。

ここからだと、水路を進んでも3ヶ月はかかる、長旅だ。

陸路でも良いが、(カモメ)やシェリーはともかく高齢の母には厳しいだろう。

その点船旅なら心配は少ない。


まずは大型の交易船に乗り、最寄りの大都市ノエリアを目指した。

ノエリアは別名、学術都市。

魔法都市アステロンと並ぶ、叡智の都だ。

ここに何か、俺の逆転生についてのヒントがあるのだろうか。

俺は定位置(シェリーの左肩)に座り、思案を巡らせていた。


やがて、針路前方に陸地が現れ、遅れてノエリアの街が水平線から姿を現わした。

カモメの目を持つ俺には、ここからでも街が良く見える。

水際の港から背後の丘に至るまで、大小様々な建物が乱立している。

所々に建てられた、白く荘厳な建物の数々がこの街の歴史を物語る。


気が付けば港は目前に迫り、甲板(こうはん)から錨が投げ込まれた。

しばらくの(のち)、船がその歩みを止める。

そして、ゆったりと左右に揺れ始めた。

到着だ。


――――――


小舟に運ばれ、俺達三人はノエリアの港に降り立った。

とはいえ俺はいつも通りシェリーの左肩に座っている。

これを立ったと言っていいものか。

いや、シェリーと俺は一心同体だ。

だから、立ってるな。

などと考えていると、シェリーが話を振ってきた。


「やっぱり、船を降りた後は地面が揺れる気がするわね。

 何度乗っても慣れないわ。

 モーゼスはどう?」


「俺はまあ、カモメだから。

 特にそういうのは感じないな」


「あ……そっか」


しまった。カモメの体の話は禁句だったか。

シェリーの目線が下へと向かうのが分かる。

マズいな。何か言わないと。


「すまない……」


思わず口にした言葉は、会話の火種になるどころかダメ押しの水かけ。

ここから再び火を灯すには――

その時ふと、背中に慈しみを感じた。

シェリーの手だ。


「もう。なに謝ってるのよ。仕方がないわね」


シェリーの肩が僅かに動く。

背筋を伸ばしたか。


「元気出して。さあ、行くわよ」


そう言ってシェリーが歩き始めた。

その仕草は一見はつらつとして見える。

だが、シェリーは無理をしている。


若干17歳の、少女の気遣いが俺に向けられる。

片や、俺の姿はカモメと言えど、中身は45歳のオッサンだ。

本来であれば、支えるのは俺の役目だ。

何とか、しないとな。


――――――


あの後宿へと移った俺たちは、船旅の疲れを癒すがごとく、早々に就寝した。

そして翌日、朝食の席。

俺たちは再び一同に会した。


四角いテーブルを挟んで母とシェリーが向かい合う。

俺はシェリーの横で、椅子の上に置かれた木箱に座る。

テーブルに座るのは行儀が悪いし、椅子の上では高さが合わない。

もはや定番となった俺の食事スタイルだ。

木箱の上でパンを(ついば)んでいると、母アストリッドが本日の予定を伝えてくる。


「私は後で、学術院に行ってくるよ。

 サメロスの名を返上してくる」


ノエリア学術院。

ここノエリアの叡智を司る、最高学府だ。

叡者とは、叡智を極めしものに授けられる称号。

特にサメロスの名は当代一の魔法使いに渡される、特別なものだ。

それを返上してまで旅に付き合うという。

“命に代えても”と言い放った母の覚悟を改めて思い知らされる。


「本当に、いいのか?」


母の目元が僅かに緩み、ちらとシェリーへと目を向け、再び俺へと目線を戻す。


「いいんだよ。母に二言はない。

 それに、私はもう、長いこと弟子も取ってなかったしね。

 ここらが潮時さ」


優しい口調だ。

もはや、かつての師の面影は成りを潜め、

その姿は、紛れも無く母そのものであった。


「夕方には帰るから、アンタら二人は観光でも行ってきたらどうだい?」


「……そうだな。

 行きがけに立ち寄った時は、そんな時間も取れなかったしな」


そう。

俺たちはここノエリアで船を乗り換え、

アストリッドの待つ島へと向かったのあった。

あの時は、良くも悪くも船の乗り換えが上手く行き、

滞在は一泊のみと、文字通りノエリアの街を通り過ぎたのだった。


「それなら、丘上の遺跡がちょうど良いんじゃないか。

 あそこなら、行って帰るだけでも良い運動になるし、

 丘上からの景色もなかなかのものだよ」


丘上からの景色か。

俺は何度も空を飛んだから、正直見慣れてるが、

上から世界を見下ろす気分は格別だからな。


「シェリーはどう思う?」


首を回してシェリーを見上げると、彼女もまた俺に目をやり瞼で合図する。

そして、口を開いた。


「そうね……昨日の船旅でちょっと体も鈍ったし、行ってみましょうか」


同時に彼女の手が伸び(カモメ)の背中を擦ってくる。

柔らかな手つきとは裏腹に、彼女の向ける眼差しはどこか物憂げだ。


「決まりだね。それじゃあ、準備にかかるか」


母の言葉でその場は締まり、一旦お開きとなった。


――――――


宿を出て、丘を登ること約一時間。

俺とシェリーは、丘の頂上付近にある神殿遺跡に辿り着いた。

ここの丘は、街から登るには険しく、裏側から迂回して登る必要がある。


「ふう。やっと着いたわね」


額に滲む汗を拭い、シェリーが呟いた。


「確かに。鈍った体を(ほぐ)すには、ちょうどいい運動だったろう?

 って、痛てて」


羽根引っ張られた。


「それ、あなたの台詞じゃないでしょう?

 ずっと肩に乗ってたくせに、もう」


「いや、ほら。(カモメ)ってやっぱり飛んでナンボだから。

 歩くの向いてないんだよ」


「……そう、ね」


しまった。

またカモメの話題になってしまった。

何とか話を逸らさないと……。


「なあ、シェリー。まずは昼飯にしないか。

 ほら、あそこにちょうど良い岩がある。

 あそこに座って、景色でも見ながら、な?」


「……何よ、モーゼス。

 座ってただけなのに、もうお腹が空いたの?

 仕方ないわね」


どこか呆れた様な口調とは裏腹に、シェリーの顔には微笑みが浮かんでいた。

彼女もまた、意識して明るく振舞おうとしているのだろう。

その気遣いが、健気で、愛おしくて……。

それなのに、抱きしめてやることも出来ない。

せめてもの慰めにと、俺は羽を広げてシェリーの頭を覆い、体を頬に寄せた。


「ちょっと、モーちゃん。暑いわよ」


そう言いながらも頬を寄せてくるシェリー。

彼女の手が、俺の体に添えられる。


俺は、無力だ。

だが、今はそれでもいい。

いつの日か、必ず人の姿を取り戻してみせる。

俺はそう、固く心に誓った。

4/1まで休むと宣言しながら舌の根も乾かぬうちに最新話投稿と、呆れてらっしゃる方も居るかもしれません。

この辺りの事情について、活動報告でご説明しております。

宜しければ、私の作者ページから閲覧いただけると幸いです。


ジャパンプリン

https://mypage.syosetu.com/2986383/

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