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カモメ賢者と黒髪の少女  作者: ジャパンプリン
第四章 叡者の導き (帰郷編)
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第43話 叡者の導き

シェリーの泣き声が響く室内で、母アストリッドはシェリーを胸に抱きしめ、

彼女の悲痛な心の叫びを受け止めていた。

もう、ずっと頭を撫でている。


ここが()()()の使いどころかと、一度部屋に戻りかけた。

だが、母の目が俺を制した。

確かに、俺が少し人間化したところで気休めにしかならないだろう。

だが、どうやってシェリーの心に再び灯をともすか。

俺にも当たりが無いわけではないが……ここは母に任せるか。


10分ほどだろうか。

結局、俺は抱き合う二人を傍らで見守ることしかできなかった。

そして、ようやくシェリーの震えが収まってきた。

そこに、母が語りかけた。

ゆっくりと、落ち着いた声色だ。


「シェリーちゃん、辛かったね。

 ずっと、不安だったんだろう?

 でも、大丈夫。お母さんに任せて」


「はい……でも……どうやって?」


その瞬間、母の瞳がその奥行きを増した。

あれは、全てを見通す叡者の目だ。

しかし表情は対照的に、少女に向ける(いつく)しみを滲ませている。


「そうさね。

 そんな気はしてたんだが、こうして抱きしめてみて確信した。

 この黒髪から湧き出す魔力、この感じは神域だね」


「しん……いき…?」


「ああ、転生神のところさ。

 こないだ転生術に失敗したろ?

 あの時、私は神域からの返事を聞いたのさ。

 その、魔力波とシェリーちゃんの黒髪の感じ、似てるんだよ」


シェリーが、僅かだがこくりと首を動かした。


なるほど。黒髪の魔力の出どころは、神域なのか。

だとすると、無尽蔵に沸いていたのも納得できる話だ。

それにしても……、そうか。


「そういえば、シェリーの昔の痣も転生神の眷属が絡んでいたな。

 シェリーと転生神には、何か関係があるのか?」


「ああ、おそらくはね」


ここに来てすぐの頃、この話は母に伝えていた。

何せ、俺たちの馴れ初めにまつわる話だしな。

あの時は気にも留めていなかったが、ここでこう繋がるとは。

だとすると、俺が次に向かうべき場所は……


「転生法の聖地。きっとそこに、答えがある」


「せい、ち……。でも、そこで……何もわからなかったら……」


「大丈夫。その時は、私が命に代えてでもなんとかしてあげる。

 お母さんに、任せときな」


そう言って、母が再びシェリーを抱きしめた。

一拍の後、シェリーは小さく頷き、声を漏らす。


「ありがとう、ございます……お母さん」


その声は、破断寸前の(ロープ)の如くか細いが、声色からは僅かに張力の緩みが伺える。

よかった。

シェリーの心は、間一髪で破断を免れた。

その様子に、俺もほっと胸を撫で下ろす。


それにしても、『命にかえても』か。

おそらくは、魔力暴走(オーバードライブ)の様な術だろう。

魔力暴走(オーバードライブ)はせいぜい疲労と、多少の体の傷み――筋肉痛の様なものだな――を伴うだけだが、

母のそれは、恐らくもっと消耗が大きい。

それこそ、寿命を削るレベルで負担がかかる、そんな代物だろう。

その覚悟はありがたいが、流石にそこまでさせるわけにはいかない。

これはあくまで俺、そしてシェリーの問題だ――


頭に柔らかいものが当たる。

母の手だ。

叡者、いや母には何でもお見通しか。

敵わんな。


頭を通して伝わる心地良さに(ほだ)されて、

心に芽生えた棘や(ひび)が徐々に(なら)されてゆく。

俺は目を伏せ、五感を通して感じるままに、身を任せることにした。


――――――


暫くして、俺の心は修復を終えた。

それを察知したかのように、頭から母の手が離される。

同時に、再び母の声が室内に響き渡る。


「よし。そうと決まれば、善は急げだ。

 早速旅の準備をするかね。

 さあ、ルカもシェリーちゃんも、いつまでも湿ってないで、顔を上げな。

 お母さんが何とかして見せる。

 だから安心しな」


「え? もしかして、母さんも来るの?」


唐突な母の宣言に、思わず俺は顔を上げ、聞き返した。

母は片口を上げ、鼻で笑ってみせる。

そして、問う。


「当ったり前じゃないか。

 私がいなかったら、ダメだった時にどうするのさ?」


「そりゃあ、もう一回、帰ってくればいいじゃないか」


当たり前の事だ。


「甘いね。ここから聖地まで、どれだけかかる? 言ってみな」


「そうだな。ここからだと馬車で4,5か月。

 あ、でも水路なら3か月くらいには縮められるか」


母は目を伏せ、(かぶり)を振る。


「どうもアンタはその辺の機微ってやつが、足りないね。

 その旅、シェリーちゃんにさせるのかい?

 ダメだって分かった後に」


む。そういうことか。


「分かったよ……。

 でも、母さんの年齢で、ホントに長旅に耐えられるのか?」


!!!

クチバシが……掴まれた。


「女の歳には触れるんじゃないって、言ったろ?」


母の目線が俺に向き、目尻が上がる。

これは……タカの目だ。マズい。

その手に込められた力が増した!?

いたたた。わかったよ。


こころに、きざみます。

だから、はなして?


そう目で訴えると、ふんと鼻を鳴らしてして母の手が離された。

途端に母の表情は穏やかなものへと変わる。

一寸(ちょっと)の間を置き、母は再び口を開く。


「私はね、二人にはちゃんと番になって、幸せになって欲しいんだよ」


その口調は柔らかく、どこか慈しみを滲ませる。

だが、即座に母は目元を研ぎ直し、続けた。


「そのためなら、何だってやってやるさ」


表情だけではない。

その言葉と声色もまた、母の覚悟を物語っている。

そこには、紛れもない、()の姿があった。



「あの……お母さん、本当に良いんですか?」


シェリーの言葉が、ついに聞こえた。

よかった。平静を取り戻したか。

未だ母の胸に頭をうずめているが、その声色は先ほどまでとは違う。

張りのある、透き通った声。

俺の心を惹きつける、シェリーの声が還ってきた。


「あぁ、構わないさ。

 それに、私教えた出力訓練でこうなったのかもしれない。

 私の責任だよ。ごめんね」


俺のクチバシを掴んだ母の手が、今度はシェリーの頭を髪越しに撫でるのが見える。


「そんなこと……」


そう言いかけたシェリーの声を遮り、母は宣言する。


「心配しなくていい。

 シェリーちゃん、アンタはもう私の娘だよ。

 これも、親の務めってやつさ」



――――――



こうして俺たちは叡者の庵に別れを告げ、転生法の聖地に向けて旅立った。

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