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カモメ賢者と黒髪の少女  作者: ジャパンプリン
第四章 叡者の導き (帰郷編)
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第42話 慟哭

シェリーの愛の宣言から数日後、俺達二人は庭先に居た。

家裏の崖と朝日が織りなす影に包まれ、静寂が支配する。

そんな庭先で、今日もシェリーは槍を片手に魔法の訓練に取り組んでいる。

槍はシェリーの拠り所だし、魔法はあくまで補助だからな。

(カモメ)は後ろで見守る役だ。


真空断(ヴォイドカッター)


シェリーが掌をかざし、そう呟くと、

一拍遅れて掌の指す先に向け、一陣の風が走り抜ける。

ホントは魔法の名前なんかも言う必要はないんだが、

シェリーの声を聞きたいからと、彼女に頼んで声を出してもらっている。


「今日も良い感じだな。

 砂の巻き上がり方が安定してきた」


真空断(ヴォイドカッター)の魔法は俗に言う『かまいたち』だ。

真空の刃を作り出し、それを飛ばす。

この魔法の技術は主に刃の太さにある。

太さが均一なら速度も安定し、遠距離まで届く。

これが不安定だと、刃を形成する真空同士が干渉を起こし、

近距離で霧散する。

真空は空気を吸い寄せて風を誘起するので、

砂の巻上がりを見れば、その質も分かるって寸法だ。

シェリーも大分腕を上げてきたな。


「そう? ありがと。

 こうやって魔法を放てるの、気持ち良いわね。

 それに、この調子で行けば、私も()()が出来る頃には――」


「ああ、そうだな。

 きっと、逆転生に必要な魔力は流せるようになる」


()()とは、成熟した女性のみに許された秘術。

胸を通して他者へと魔力を譲渡できる。

女性の胸には夢――ではなく魔力が詰まってる。

ただし、この秘術は変換効率が悪く、魔力オバケのティシアですら逆転生の必要量は渡せなかった。

でも、黒髪から無尽蔵の魔力を得られるシェリーなら。


「そうね。じゃあ、もうちょっと頑張ろうかしら。

 ――真空断(ヴォイドカッター)


シェリーの伸ばした手の先に、再び風が巻き起こ……ら、ない。


「え……失敗した? 私もまだまだね。

 もう一回。真空断(ヴォイドカッター)


……何も起こらない。

これは、まさか。


「シェリー、ちょっと診せてくれ」


「え? うん……」


俺はすかさずシェリーの肩に乗り、精神を集中する。

魔力感知だ。

女どもの言う、人毎に異なる()()とやらは判らないが、

魔力量だけなら俺にも捉えられる。


むむ、これは。

魔力が殆ど空になってる、それに。

回復速度が、遅い?


いや、しかし。

それでも普通に比べると一段速い。

この意味するところは……?


「どう? 何か判ったかしら?」


「ん? そうだな……。

 魔力が、枯渇しかかってる。

 相変わらず黒髪から湧き出してる感じはあるんだが、なんか遅い、な。

 いや、それでも十分速いんだが」


「それって、どういうこと?」


シェリーの眉間が狭まり、眉毛が山を描く。

小首を(かし)げるその姿は可愛らしく――ってそうじゃない。


「すまない。俺にもよく分からない。

 ただ、あの感じだと、そうだな。

 ちょっと、魔法槍を試してみてくれないか?」


「魔法槍? うん、分かったわ。

 ちょっと離れてもらえるかしら」


俺は飛び降り、距離を取った。

それを確認し、中段の構えを取るシェリー。

穂先の辺りに魔力が集まるのを感じる。

そして、


「ふっ」


鋭い突きとともに、穂先から真空弾が放たれた。

遅れて砂埃が舞い上がり、螺旋(らせん)を描いて槍の指す先へ飛翔する。

魔力制御の技術も高まったか、以前よりも鋭さを増している。


「出来た、わね」


額に滲んだ汗を拭い、シェリーが確認を促す。


「ああ、そうだな。

 とすると、俺の仮説は実証されたことになる」


「仮説?」


「うん。魔法槍を使える程度には、魔力が湧き出してるってことさ。

 黒髪の魔力が失われたわけじゃない」


シェリーの表情が定まらない。

何かを思案している。

数拍の(のち)、声を取り戻した。


「そう……。でも、それって、逆転生法には使えないってことじゃないの?」


「……」


目に見えて意気消沈するシェリー。

そんなシェリーを前に、そして目の前の事態に俺は、かける言葉を見失っていた。

沈黙を経てようやく出てきたのは、気休めにもならない、

虚空を叩くかの如く心の抜けた言葉、いや言葉ですらない、ただの雑音だった。


「多分、今日は調子が悪いんだろう。

 とりあえず、昼飯にするか」


「そう、ね」


――――――


「どうしたのさ、二人とも。そんな暗い顔をして」


母も交えて三人で昼食を済ませた後、母が問いかけてきた。

まあ、分かるよな。

俺たちの雰囲気が沈んでることくらい。


「お母さん。私……」


言いかけて、シェリーの言葉が詰まる。

表情は、見ていられない。

その瞬間(とき)


(アストリッド)が、シェリーを抱きしめた。

頭、そして肩を抱き、シェリーは胸元に顔をうずめている。

一寸の間を置き、声を漏らし始めた。


「ぅぅ…」


泣いている。


「やっと……やっと、ここまで来たのに……どうして?

 どうして、こんなこと……」


母の胸に抱かれ、ついに少女が裸の心をさらけ出した。


「うわぁぁん」


シェリーの慟哭(どうこく)

少女が初めて見せた、心の一端。

無理もない。

気丈な振る舞いと、大人びた言動に覆われていた。

だが、当たり前だ。

シェリーはまだ17歳。

彼女もまた、不安と戦っていたのだ。



俺は、無力だ。

こんな時に、何も助けになってやれない。

とんだ婚約者もあったものだ。


だが、この場に母が居てくれたのは幸いだった。

母がシェリーの気持ちを受け止めてくれる。

それだけが救いで、俺は唯の、傍観者に成り下がっていた。


次話で第4章完結です。


叡者が、救いの手を差し伸べます。

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