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カモメ賢者と黒髪の少女  作者: ジャパンプリン
第四章 叡者の導き (帰郷編)
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第38話 転生術の反芻

母アストリッドとシェリー。

二人の手のひらに包まれて、カモメ(モーゼス/ルカ)の感情は静けさを取り戻した。

そして、育ての親を初めて『母』と呼んだ。

その瞬間、母の眉が一瞬上がった。

だがすぐに戻り、今は柔和な微笑みを見せている。


「大分落ち着いたみたいだね、ルカ」


「ああ、すまない。心配をかけたようだ。でも、もう大丈夫だ」


「まあ、これも()の務めさ。気にすることはない。

 それに、シェリーちゃんのおかげもあったしね」


「お母さん……」


アストリッドの微笑みが、今度はシェリーへと向けられた。

対するシェリーも目尻を下げ、モーゼスに続いて母の名を口にした。

これで3人の心が嚙み合ったか、()に生じた乱れや淀みはいつしか霧散していた。



「さて。ルカも元気になったみたいだし、次はシェリーちゃんの番か」


「え?」


アストリッドはカモメから手を放し、胸前で両腕を組んだ。

背筋は伸び、その表情は力を帯びて見える。


「魔法の出力、上げたいんだろう?

 すぐには伸ばせないけど、方法は、ある。」


「本当ですか?」


アストリッドは片口を上げ、不敵な笑みを見せる。

賢者すら導く者、叡者。

その叡者が明言した、()()の存在に、シェリーの声が弾む。


「ああ。基礎訓練のようなものさ。覚えておいて、損はない」


「是非教えてください!」


シェリーは前がかりになり、溢れ出る興味を全身で表現していた。

方やアストリッドは満足げな笑みを浮かべ、静かにうなずく。

そして、答える。


「もちろん、そのつもりさ。

 さあ、そうと決まったらルカ、アンタは外で散歩でもしてきな」


突如として話を振られたカモメ。

体に(うず)めた首を伸ばし、その(くちばし)をアストリッドへ向けて、答える。


「え? なんでまた唐突に。俺も興味あるんだが――」


抗議の声を上げかけたが、叡者の手が伸び、カモメの両目を覆い隠す。

そして、一瞬だけシェリーを見やり、一段低い声を吐き出した。


「ここから先は男子禁制だよ」


「……ああ、そういうことね。

 シェリー、頑張ってな」


カモメは(くちばし)(かたわ)らに伸ばし、シェリーの太ももを(つつ)いた。

彼なりの激励だろう。

 

「うん。任せといて」


婚約者のはつらつとした返事にカモメは頷き、立ち上がった。

そして、ソファから床へと飛び降り、トトトと歩いてドアの向こうへと姿を消した。


――――――


カモメは(くちばし)で器用にドアを開け、叡者の庵の外に出た。

羽を広げてゆっくりと地面を仰ぎ、その体が軽やかに持ち上がる。

そして宙を舞い、最寄りの海縁(うみべり)へと降り立った。

羽をたたみ、地面に座る。


「さて。師匠に教えるなら、準備しとかないとな。ええと……」


眼下の海は、移ろいゆく波間でサファイアのような(きら)めきを放ち続けている。

その(きら)めきを両の(まぶた)で遮り、カモメは意識を自らの内側へと向け始めた。


日の高まりを(まぶた)越しもに感じられる、そんな頃にカモメは再び眼を開いた。

そして、思考を反芻するかの如く、呟き始めた。


「大体整理できたかな。

 まとめると――

 全方向から均等に魔力を流すのが肝心だ。

 その上で、絶えず強さに変化を与える。

 これは、魔法陣に刻んだ転生先と同調させる必要がある。

 また、始めるときは、鋭く短く、鼓動のように。

 転生先との同調は、丁寧に始め、丁寧に終わる。

 ――といったところか」


そんな折、家のほうからカモメを呼ぶ声がする。


「ルカー! そろそろおかえりー!」


アストリッドだ。

カモメは首を回し、声の主を一瞥する。

そして飛び上がり、大きな弧を描いて家へと舞い戻った。

アストリッドが両手を伸ばすと、カモメは羽をはばたかせて舞い降りる。

ちょうどカモメがその胸元に収まったころ、シェリーがドアから姿を現した。

その頬は、ほんのり赤みを帯びている。

そんな婚約者の姿を見て、カモメは少し考えを巡らせた。


(シェリー、またなんかされたのか……。

 いや、きっと筋トレの様なものだろう。

 俺は何にも気付いていない――)


即座にカモメは自己暗示に入り、平静を装って見せた。

彼は知っている。

気づかぬふりをする、それもまた優しさの一つなのだと。


――――――


あれから、弟子(モーゼス)師匠(アストリッド)に転生法を伝え、自らの成長ぶりを示した。

それからは、3人は各々の鍛錬に勤しみつつも、時には揃って釣りに行くなど、濃密な家族の時間を積み上げていった。


そして、3か月が過ぎた。


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