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カモメ賢者と黒髪の少女  作者: ジャパンプリン
第四章 叡者の導き (帰郷編)
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第36話 叡者と賢者

ここは叡者サメロスことアストリッドの住居。

すなわちモーゼスの生家である。

挨拶を終えたシェリーは、アストリッドに中へと(いざな)われた。


リビングに置かれたL字型のソファとローテーブル。

シェリーとモーゼス(カモメ)は横に並び、アストリッドは斜向かいに座る。

たちまち談笑が始まり、アストリッドは矢継ぎ早に質問を投げかける。

義理の息子の「婚約者」への興味を隠そうともしない、そんな姿にシェリーはたじろぎ、眉間を微かに狭めてみせる。

そこに紅茶が運び込まれた。

蜜柑の爽やかさと、それを包み込む蜂蜜の香りが部屋の空気を和らげる。

シェリーの表情や仕草から徐々に力が緩み、柔らかさを取り戻す。


一通りの歓談を終えたところで、モーゼスは割って入り、これまでの経緯(いきさつ)についてアストリッドに語り始めた。



「――というわけで、俺たちは『叡者』の知恵を借りにやってきたんだ」


「ふうむ。

 つまり、シェリーちゃんがルカを連れてきてくれた、ということかね?」


「ええと……その、ありがとうございます。

 そうだといいんですけど」


叡者の()()に再びたじろぐシェリー。

だが、そんな姿とは対照的に、叡者の言葉は明るく、弾みを帯びたものだった。


「そうでもなければこの子は一生立ち寄らんかったかもしれん。

 本当に、私は嬉しいよ。

 ありがとう、シェリーちゃん」


そう言ってアストリッドはカモメの背を撫でる。

いつの間にやらカモメは老婆の膝上へと居場所を変えていた。


「さて。

 話を聞いた感じだと中々難儀そうだし、

 しばらくここでゆっくりしておいき。

 私も出来る限り、力になろうじゃないか」


「はい。ありがとうございます」


「そうと決まれば今日はお祝いだね。

 エイレーネ、とっておきのワインがあったろう。

 あれを出しとくれ」


――――――


叡者の歓待を受けたその晩。

シェリーは部屋をあてがわれ、カモメと並んで寝床に横たわっていた。

月明かりも差し込まない、暗闇の中でシェリーがそっと呟いた。


「ねえ、モーゼス。まだ起きてる?」


「――ん? あ、ああ。起きてるぞ」


「ふふ。ごめんね。せっかく寝かかってたのに」


シェリーは手を伸ばし、横たわったままカモメを小脇に抱える。

カモメは首を体に沈めたままだ。


「ちょっと……気になったんだけど……。

 どうしてアストリッドさんのこと、『おばさん』って呼んでるの?」


「ん? ああ、そうだな。

 元々は、拾われたときにそう呼ぶ様に言われて。

 それで、急に呼び方を変えるもなぁって感じで」


「そう……。

 そういうところは昔から不器用なのね。

 でも、『お母さん』って呼んであげたら、きっと喜ぶわよ。

 私のお母さんにしたみたいに、ね?」


シェリーの指がカモメの頭に添えられ、毛並みに沿って緩やかに滑り始める。


「そうだな……何かきっかけがあればいいんだが。

 まあ、考えておくよ」


「そうね……」


――――――


翌日、モーゼスとシェリー、アストリッドの三人は、再びソファに座り談笑していた。

話題は次第に人間への逆転生へと移る。

そこでモーゼスは、転生術について説明を始める。

過去に、アマルティシアに話した時と同じ内容だ。

まとめると――


転生術は、大別して二つの要素に分割される。


一つは時間操作。

自身の体を一旦分解して、過去または未来へと結像させる。

操作出来る時間の長さは、術に込める魔力量に比例する。


もう一つは転生先の指定だ。

通常、未来の姿は不確定なので、これを指定して初めて術は成立する。

この()()とは、自身の魔力を転生神に捧げ、お伺いを立てる事である。

拒否された場合は未来を結像出来ず、術は失敗する。


過去への時間操作は、()()が無くても行使出来る。

だが、これは神の承諾を得ていないので、その姿で定着出来ず、時間で元に戻る。


――といった具合だ。


「なるほどねぇ。今のままだと、魔力が足りなくて逆転生はできないのか。」


「そうだな。カモメのままだと、出力・容量ともに(かつ)ての10分の1くらいなんだ。

 仮に魔力暴走(オーバードライブ)で出力を上げたとしても、容量が足りない。

 一つ考えたのは、シェリーからの魔力譲渡で不足分を補う方法だ。

 ほら、あの、胸から渡すやつ」


そう。この世界の女性は、胸を通して他人に魔力を分け与えることができる。

ただし、その変換効率は極めて悪い。

常人をはるかに超える魔力量を誇る賢者アマルティシア。

彼女をもってしても、逆転生に十分な魔力を譲渡することは叶わなかった。


ただし、シェリーには黒髪からもたらされる無尽蔵の魔力がある。

これを使えば魔力量の問題も何とかなるのではないか。

それがモーゼスの見立てだった。


「ふうむ。

 シェリーちゃんの黒髪にはそんな力が隠されてるのか。

 でも、今のシェリーちゃんは、あんまり魔法の出力が上がらないんだね?」


「そうなんです。ここが育ってくれば出力も上がるかと思ってたんですけど」


シェリーは自分の胸を指す。


「そうさね。大きさだけ見ると十分そうにも見えるけど……。

 でも、それが全てってわけでもないしねえ。

 そこに関しては、私が面倒見ようじゃないか」


「ありがとうございます。

 よろしくお願いします……アストリッドさん」


シェリーは身を乗り出し、そう答えた。

その目は輝やいて見える。


「ところで、出力の件は良いとして、私も転生法を試してみるかね。

 ルカ、教えてくれるな?」

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