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カモメ賢者と黒髪の少女  作者: ジャパンプリン
第四章 叡者の導き (帰郷編)
35/42

第35話 再会の抱擁

モーゼスとシェリー。

カモメと少女は港町を背に南へと進む。


緑の樹木が点在する、枯れ草色の草原。

乾いた空気と相まって、どこか寂しさを感じさせる。

少女は外套を纏い、フードを被って日差しから身を隠す。

そして、左肩にカモメを乗せ、歩き続ける。

少女の額には汗がにじみ、時折袖で汗をぬぐう仕草を見せる。


港町から一時間ほど行くと、小さな集落が現れた。

集落を遠目に通り過ぎ、そこからほどなく離れた海縁(うみべり)の崖。

その崖下に、小綺麗な一軒家が建っていた。



「ここが、モーゼスの育ったお家なのね?」


「ああ。とはいっても、ここで過ごしたのは10年くらいだけどな。

 15歳くらいまで修行して、その後は旅に出た」


「そう……なんだか緊張するわね」


シェリーは外套を脱ぎ、髪を整え、服のたるみを伸ばす。


「どう? この格好、おかしくない?」


「ああ。どこに出しても恥ずかしくない、最高のお嬢さんだぞ」


「もう。すぐそうやって……。

 でも、ありがと。嬉しいわ♪」


シェリーは微笑み、再びモーゼスを左肩に乗せる。

そして、玄関まで足を進め、ドア横の呼び鈴を鳴らす。

一寸の間を置き、家の奥から足音が近づいてくる。


「はーい」


張りのある声と共にドアが開き、姿を現したのは中年の女性だった。

女性は、意外の訪問者――カモメを肩に携えた少女――の出で立ちにやや面食らった様子を見せる。


「えっと……どちら様でしょうか?」


「こんにちは。

 私は、シェリサンドリカ・ヴェルナードと言います。

 ここに、叡者サメロス様がいらっしゃると聞いて、

 お会いしたくて伺いました」


「おやまあ。これはご丁寧に。礼儀正しいお嬢さんね。

 私はエイレーネ。サメロス様の、身の回りのお世話をしているわ。

 お通しするのは構わないんだけど、その前に用件を教えてもらえるかしら?」


「エイレーネさん、初めまして。

 実は、サメロス様に、義理の息子のルカーヴが参った、

 とお伝えしていただきたくて」


シェリーが口にしたのは、モーゼスがカモメとなる前、まだ人間だだったころの名前、ルカーヴだった。


「ルカーヴ……って、ええ!? 坊ちゃんが? でも、どこに?」


「それが、この子なんです。色々ありまして」


シェリーが肩のカモメに手をやり、背中を(さす)ってみせる。

そこでカモメが口を開く。


「そうなんだ。俺は、ルカが転生した、なれの果てだ。

 アストリッドおばさんに顔を見せようと思って来たんだが」


「え? 喋った?

 それに、どうしてその名を……本物?」


エイレーネは、口に両手を当て、その目を大きく開いてみせる。

そこに、家の中からもう一人の人影が姿を現した。


「なんだか騒がしいね。」


それは、老婆だった。

ウェーブのかかった銀色の髪。

それを後ろで一括りにしている。

紺に縁取りされた白色のローブをまとい、

背筋を伸ばしたその姿は、どこか貫録を携えて見せる。


「あっ。お館様。実は――」


「なんか、ルカの気配がするような。え、そのカモメは、まさか」


「やあ。ルカだよ、おばさん。ただいま」


「ちょ、ちょっと。モーゼス、そんないい加減な」


動きを止め、微動だにしない老婆。

やがて、老婆の両目から雫が溢れ、頬を伝う。

そして、両手を差し出し、静かに呟いた。


「ルカ。おいで」


カモメは無言で飛び立ち、老婆の手のひらに着地する。

老婆はカモメを胸元に抱き寄せ、語りかける。


「ああ。この感じ。間違いない。ルカ……生きてたのかい」


「すまない。ずっと顔を出せなくて」


「良いんだよ。こうしてまた会えたんだ」


「おばさん……」


老婆は瞼を閉じ、カモメを深く抱きしめる。

カモメもまた、その身を老婆に預けている。

しばらくの(のち)、老婆はゆっくりと両目を開き、やや驚いた表情で目線を少女に向ける。


「ところでルカ。このお嬢ちゃんは?」


「初めまして。婚約者のシェリサンドリカ・ヴェルナードです」


「こんな別嬪さんを捕まえて。やるじゃないか、ルカ。

 私はアストリッド・トレイン。ルカの育ての親を自称しておるよ。

 表向きにはサメロスの名で通ってるがね」


そう言って老婆は肩をすくめて見せる。


「ところで、なんでルカはこんな姿に?」


「実は、そのことで叡者サメロス様に相談がありまして――」


シェリーが説明を始めた途端、老婆は何かに気づいたかのように眼を開き、その言葉を遮った。


「ああ、いけない。こんなところで。

 まずは中に入ろう。シェリーちゃん、で良いかい?」


「はい、ありがとうございます。アストリッドさん」


こうして、カモメ賢者のモーゼスとなった(かつ)ての賢者ルカーヴは、25年ぶりに育ての親との再会を果たしたのだった。

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