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第33話 少女の誕生日

結局、舟旅の出発から十日ほどで山脈越えを果たした。

やはり、舟は偉大だな。

本格的な冬の到来を前にここを抜けることができ、ほっと胸を撫で下ろす。

山脈裏側の街で小舟を売り払い、再び馬車を乗り継ぐこと数日。

俺たちは、とある港町へとやってきた。


ヴァルディクから、随分な距離を南下してきた。

山脈を超えたせいもあるのだろう。

この辺りは晩秋と言えど、幾分温かい。

空を見上げれば、雲一つない青空が広がる。

その青は深く、見つめていると心が吸い込まれてしまいそうな、そんな錯覚すら覚える。

柔らかな風が潮の香りを運んでくる。

懐かしいな。


「なあ、シェリー。

 ここらで一度、長めの休みを取らないか?

 ヴァルディクからここまで、慌ただしかっただろう?」


「そうね……」


シェリーの目線がわずかに上を向き、何かを考えている。

左肩から見る、その姿は旅立ちの頃よりも大人びて見える。


「分かったわ。でも、良いのかしら。

 予定では、ここから船に乗るって言ってたわよね。

 今から冬が来ると思うんだけど……」


「ああ。この辺りの海は暖かいし、冬でも穏やかだ」


「それなら安心ね。ちょっと、羽を伸ばしましょうか。

 綺麗な街だし、新婚旅行に来た気分ね」


俺たちは、海辺にほど近い小綺麗な宿に泊まることにした。

宿の扉をくぐるや否や、宿の女将が(カモメ)を追い払おうとしてきた。

ここは、港町だけあってカモメが多い。

野良カモメと間違われたのだ。

だがそこは、俺もシェリーも手慣れたもの。

ちょっと喋って賢いところも見せてやり、魔法で水でも出してみせれば女将も納得した。

部屋を汚さないとの条件付きで、俺たちは滞在を許された。



翌日。俺たちは何の気なしに海辺の公園へと足を運んでいた。

無造作に置かれた石に、シェリーが腰を下ろす。

俺は左肩から飛び降り、膝上で座り直す。

シェリーの左腕が俺を包みこみ、右手は背中を撫でてくる。

言葉はない、二人だけの時間。

微かに聞こえる波の音は、一定のリズムを奏で、心をより落ち着かせる。

彼方には、海と空の境界線が見える。

俺たちは、穏やかに流れる時間に身を任せていた。


しばらくこの時間を堪能した(のち)、俺はおもむろに口を開いた。


「なあ、シェリー。ふと思い出したんだが」


「ん?」


「シェリーの誕生日、そろそろなんじゃないのか?」


「ん~。そう言われてみればそうかもしれないわね。

 旅をしながらだと、気候も変わるし太陽の感じも違うから、気付かなかったわ。

 でも、じゃあ私は今日から17歳ね」


シェリーが抱きしめてきた。

俺の体が胸に押し付けられる。

良い匂いだ。


「どう? 17歳って感じする?」


正直、昨日までと何か変わるはずもないのだが、ここは黙って空気に身を任せるか。

コクコクと首を振り、シェリーに同意する。


「モーゼスと出会ってから、もう4年近く経つのね。

 それとも、まだ4年、かしら。

 出会う前の方が長いはずなのに、

 もう人生の半分くらいモーゼスと一緒に過ごした気分よ」


「そうだな。俺は、カモメになってからだと半分を超えたくらいか」


「ふふっ。じゃあ、私たち、お揃いね♪」


シェリーが上機嫌だ。

だが、よくよく考えて見ると、(カモメ)の体はいつまで持つのだろう。

10年か、いや、20年くらいはいけるか?

ただ、カモメのままではシェリーと添い遂げるのは難しいはずだ。

何とかして人間に戻らないとな……。


ん?

ふと、視界にカモメの姿が入ってきた。

こっちを眺めている。

俺が珍しいのか?


この辺りのカモメは、小柄な個体が多い。

大型のカモメもいるにはいるが、奴らは大体背中が黒い。

カモメとしては大型で、背中が白い俺は、たしかにここでは浮いている。


「「「モケー」」」


鳴き声に気付いて周囲を見渡すと、俺たちは10羽ほどのカモメに囲まれていた。

なんで?


「モーちゃん、これ、どうしたのかしら?」


「俺にも分からん。

 ただ、俺が珍しいのか、俺を抱くシェリーが珍しいのか。

 そんなところだろう」


「お話、出来ないの?」


シェリーが小首をかしげて俺を覗き込んでくる。


「無理だ。何となく感情は伝わるんだが、細かい会話は出来ないな」


「ふ~ん。残念ね。それで、今は何考えてるのか分かる?」


「敵意は感じないな。

 きっとシェリーを、いや、俺達を祝福してくれてるんだろう」


「ホントかしら。モーちゃんは口が上手いから。

 でも、そうね。そうだったら良いわね」


シェリーが微笑み、周囲のカモメに目を向ける。

カモメたちは俺たちを取り囲み、注目の視線を浴びせてくる。

その様は、カモメを従える黒髪の女神、きっとそうだったに違いない。


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