第31話 並び立つ二人
「私と、立ち会ってください」
そう言い放ったキリアンは、真剣な面持ちで俺を見据えている。
なるほど。納得がいかない、というわけではなさそうだ。
むしろ、カモメの身で本当にシェリーを守れるのか、
そこを確かめたい、といったところか。
いいだろう。カモメの実力を見せ――
「お待ちなさい」
む? マリアか。あっ。
マリアが俺を両手で抱え、右肩から胸元へと抱き直す。
「見ての通り、モーゼスくんはカモメの身。
練習用の木刀でも、まともに入ったら即死でしょう」
確かに。とは言え俺には土魔法での防御もあるし、たぶん大丈夫だけどな。
それにしても、マリアが俺に優しい。
これが母性というものか。
「シェリーさんの師として、
万が一にも彼女が悲しむような結末を招く、
そんな勝負は見過ごせません。
よって寸止め。
これを守れるなら 許可しましょう」
シェリーの付属品か、俺は。
あ、いや。マリアの手が、頭に添えられる。
そして首元へと優しく撫でてくる。
これは、マリアなりの照れ隠し、か。
「わかりました。では、その条件で。
ありがとうございます」
「モーゼスくんも、それで良いですね?
あと、貴方も危険な魔法を使ってはいけませんよ」
「ああ。任せてくれ」
「えっと……マリア、先生? わたし――」
「大丈夫。仮に負けたからと言って、
貴女がキリアンくんに靡く必要はありません。
ただ、モーゼスくんの面子が潰れるだけです」
さらっとヒドい。
でも、たしかにマリアの言う通りだ。
そして、潰れて困る面子は、俺には無い。
「では、明日の決勝の翌日。私の道場の中庭で。
二人とも、それで良いですね?」
「はい」「ああ」
こうして、俺とキリアンの立ち合いが、約束された。
――――――
翌日の決勝、シェリーは危なげなく勝利し、優勝を飾った。
鬼神の弟子に恥じない活躍だ。
そして、優勝賞金を得たのが大きい。
これで今後の旅も安心だ。
シェリー優勝の歓喜の翌日。
俺は、キリアンと向かい合っていた。
ここは中庭。屋内だと自由に魔法を使えないからな。
「モーゼス、怪我だけはしないでね」
シェリーが心配してる。無理もない。
キリアンの強さは彼女が一番よく分かってる。
だが。
「大丈夫だ」
こんな身でも俺は、かつて剣聖と肩を並べて戦った、賢者だ。
俺の本気、見せてやろう。
「では、改めて。
キリアンくんは寸止め。
モーゼスくんは、危険な魔法は使わない。
いいですね?」
「はい」「ああ」
「では、始め」
!
早速。
振り下ろしだ。
咄嗟に風魔法を自分に当て、横跳びで避ける。
「なっ!?」
側面を取った。
ここで繰り出す技は……これだ。
「!!!」
無数の穂先の幻影が突如現れ、同時にキリアンを襲う。
そして、高圧水。
高速で吐き出された水流が、キリアンの手首に当たる。
急所だ。
鈍い音と共にキリアンの木刀が地面に落ちる。
「そこまで!」
マリアの声が、中庭に響き渡る。
同時にシェリーが駆け寄ってくる。
「よかった。怪我が無くて」
しゃがんで俺を一撫でし、満足げな顔を見せる。
そして、告げる。
「どう? キリアン。
私の未来の旦那様、強かったでしょう?」
「……ああ。凄い速さだった。
それに、その後の連携も。
モーゼスさんを試そうなどと、思い上がりが過ぎたようだ。
許してほしい」
未来の旦那様、か。
口に出されると、なんか照れるな。
っと。シェリーが持ち上げてきた。
そのまま左肩に運ばれる。
「ふふん。分かればいいのよ。
ねえ、モーゼス?」
「ああ、そうだな」
シェリーが頬を寄せてくる。
俺も、首を伸ばしてそれに応える。
「……参ったな。これは、完敗だ」
流石のキリアンも、苦笑いだ。
丸く収まったようで、何よりだな。
――――――
キリアンとの立ち合い。
その後、俺たちはマリアに出立の意を告げた。
それから三日間、シェリーとマリアは別れを惜しむかのように、残された時間を過ごしていた。
時に稽古、時には街へと繰り出し、さらには入浴など、これまで以上に二人の仲が深まった様に見える。
今、俺たちはヴァルディク外門内側の待合所に居る。
マリアと、何故かキリアンも一緒だ。
キリアンは、シェリーと入れ替わるように、マリアに弟子入するそうだ。
年頃の男女が一つ屋根の下で――などと以前も言っていたし、マリアが気を使ってくれたのだろう。
馬車が、来たようだ。
名残惜しいが、別れの時が来た。
俺はいつもの定位置でカモメ座り。
シェリーはマリアとキリアン両者と向かい合っている。
「マリア先生。
この二か月間、ご指導ありがとうございました。
これからは、自信を持ってモーゼスと並んで歩いて行けそうです」
美しく、透き通った声でシェリーが告げる。
完全に自信を取り戻したな。
「シェリーさん……」
マリアが手を伸ばし、シェリーの黒髪をそっと撫でる。
そして、頭を抱え込み、頬を合わせる。
俺は反対側。仲間外れだ。
解せぬ。
「この二ヶ月、娘が出来たみたいで私は幸せでした。
礼を言うのは私の方です。
それと、アレスに会ったら宜しくお伝えください。
エリュナさんにも、ね」
結局、アレスとの因縁については誤魔化されたままだったな。
まあ、そこは大人の事情か。
他人が気軽に踏み込むものではないだろう。
む。抱擁が終わったか。
マリアが身体を離し――ん?
「モーゼスくん。こっちにいらっしゃい」
両手を差し出し、俺を誘う。
促されるままに掌に飛び乗ると、マリアは両手で俺を抱え込む。
この人は、やはり聖母だ。
「モーゼスくん。
あなたは不思議な存在ですね。
憎たらしいかと思えば可愛らしい。
あまりふざけてシェリーさんを心配させてはいけませんよ。
人間に戻れたら、一度顔を見せにいらっしゃい。
その日を楽しみにしています」
一通りの愛撫と小言が終わり、俺はシェリーに返却される。
「それでは二人とも」
「はい」
「仲良くね☆」
……最後にこれか。
まあ、マリアらしいと言えばマリアらしい。
最後まで良く分からん人だったな。
キリアンとシェリーが握手してる。
まあ、それくらいは許してやろう。
元気でな。
――――――
ここから師匠の下まで、まだ遠い道のりだ。
まだ見ぬ困難が待ち受けることだろう。
だが、今の俺たちなら、恐れるものは何もない。
本話にて第三章、完結です。
ここまでお読みいただきまして、心より感謝します。
本章の執筆テーマは「アクション」でした。
第四章では再び新たなテーマに取り組みます。
今後の投稿予定ですが、1~2話ほど閑話を挟み、第4章開幕を予定しています。
基本的な投稿ペースは、これまで通り隔日の予定です。
ただし、近々どこかのタイミングで一時的に週一回更新に切り替えます。
おそらく第4章の途中になると思います。
その際は、切り替え前のエピソード後書きにてその旨触れますので、どうかご容赦頂きたく存じます。
それでは、引き続き本作にお付き合いいただけますよう、宜しくお願いします。




