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カモメ賢者と黒髪の少女  作者: ジャパンプリン
第三章 薙刀の達人(弟子入り編)
30/42

第30話 勝負の行方

シェリーは、この一ヶ月の特訓を思い出していた。

マリアとの鍛錬に加えて行った、モーゼスとの特訓。

それは、新たな必殺(インチキ)技の習得だった――


「これはな、今から千年以上前に存在したと言われる達人、

 ムンライが用いたとされる技を模した、凄い技だぞ」

「凄い技、ねえ」

「聞いて驚くな。

 これは、槍の穂先に土魔術で小型の盾を作り、

 それで相手の得物の始動を止める。そんな技だ」

「なるほど。穂先で止めたと思わせるのね。

 相変わらず搦め手というか、そういうの好きよね、モーゼスは」

「伝承によると始祖は魔法無しでやってたそうだ」

「えええ? 流石にソレは無理があるんじゃ」

「まあ、千年以上前の話だからな……」


――この必殺(インチキ)技でキリアンの刃、その振出しを制して隙を突く。

マリア相手には、最後の稽古で成立させた。

ならば、キリアンにも通用するはず。

だが、槍と剣のリーチの差を考えると、

互いに五分の状態から先手を誘うのは難しい。

そこで、かつてキリアンが見せたフェイントを応用することにした。

先に仕掛けてキリアンを誘い、そこを後の先で仕留める。

これが、シェリーの狙いだった。


――――――


試合開始の合図とともに、シェリーとキリアン、ともに構えを取る。

そして、どちらからともなく間合いが詰まり、二人は中央で対峙した。

シェリーはいつもの中段の構え。

キリアンも同じく半身の姿勢。片手で長剣を持ち、正面に突き出した構えだ。


多くの観客の目には、二人が静止して見えるだろう。

だが、マリアとの稽古を見てきた俺には、

二人が()()を続けていることが見て取れる。

(カモメ)はマリアの右肩に座り、固唾を飲んで見守っていた。

そして、


「そろそろ、始まりますよ」


そうマリアが予告するや否や、シェリーが仕掛けた。

三連突きだ。

牽制なのか、荷重移動は最低限。

キリアンは、これを紙一重で見切った。

と、同時にキリアンが仕掛ける。

三発目の引きに合わせて踏み込み、背中側から突きを放つ。

鋭い。これは……


躱した!?

シェリーの位置が、斜め後ろに変わってる。

素早くキリアンが剣を引き戻し、横斬りがシェリーを襲……わない。

シェリーの槍、その穂先が剣を止めている。

横斬りの始動に()()()を合わせたか。


出鼻をくじかれたキリアン。

僅かにバランスを崩し、隙を見せる。

その瞬間、無数の穂先が現れキリアンを襲う。

サウザンドピークスだ。


本命の一撃がキリアンの胸元に吸い込まれる。

その瞬間、キリアンが吹っ飛ばされた。

地面に横たわるキリアン。

シェリーは未だ、構えたままだ。

そこに審判の声が響き渡る。


「そこまで!

 勝者、シェリサン…ドリカ・ヴェルナード」


舌噛んだな。

だが、シェリーの勝ちだ。見事。



「今の攻防、シェリーはどうやって突きを躱したんだ?

 瞬間移動して見えたが……」


「三回目の突き。

 あの時すでに、シェリーさんは荷重移動を終えていたのですよ、モーゼスくん。

 キリアン君が以前見せたフェイント。

 その応用です」


「応用?」


「はい。二人の間には、距離がありました。

 あの距離で下半身が動くと、人の目は騙せません。

 そこで、荷重移動だけに留めたのです。

 もう一つ見事だったのは、斜めに避けたことです。

 あのおかげで、後手に回っても突きを躱し切り、

 五分の状態に戻せました。

 あとは、見ての通りです」


そうだったのか、そんな高度な攻防が起きてたとは。

そして、それを一目で見抜く。

この人は、役者が違うな。


それにしても、サウザンドピークスで決めたか。


ありがとう、シェリー。


――――――


俺とマリアは、シェリーを称えるべく選手控え所に移動した。

もうすぐ来るはず……来た。


「あ、マリア先生、それにモーゼスも」


シェリーが小走りで駆け寄ってくる。


「私、勝ちました。二人のおかげです」


シェリーが満面の笑みを浮かべていたが、はしゃぐ様子はない。

その佇まいには、もはや少女のあどけなさは感じられなかった。


「シェリーさん。これは、貴女が自分で勝ち取った勝利です。

 私たちが果たしたのは、ただの手伝いです。

 謙遜する必要はありませんよ」


そうだな。

結局は、マリアの教えを吸収して、瞬く間に武芸者の階段を駆け上がった。

それは、まぎれもなくシェリーが獲得した、実力だ。


「シェリー。マリアさんの言う通りだ。

 見事だったな。それに、あの決め技。

 ありがとう。使ってくれて」


「感謝するのは私の方よ、モーゼス。

 でも、やっぱり技の名前は叫べなかった。

 ごめんね」


「いや、いいんだ。

 そもそも、そんなことしてたら間に合わなかっただろう?」


「ふふっ♪ 確かにそうね」


よかった。もう、俺たちの間にわだかまりは無い。

以前よりも絆が深まった。

そう実感できる。


――――――


シェリーに遅れてキリアンが姿を見せた。回復措置を受けていたのだろう。

見た目におかしなところはない。

元気そうだ。


「見事にしてやられた。相変わらず強いな、シェリー殿は」


素直に負けを認めるか。

相変わらずの男前だな、こいつは。


「今回も不意打ちだったけどね。

 ごめんね、私の技ってあんなのばかりで」


「いや、あの、最初の仕掛けの時、私は勝ちを確信した。

 でも、貴女はそこから姿を消した。

 それだけじゃない。あの穂先で剣を止めたの、すごいな。

 一瞬だけど魔法槍だろ。アレだけタイミングを合わせるのはすごい。

 それに、最後の技も凄かった。

 完敗だ」


敗者が送る、賞賛の言葉。

美しいな、好敵手というものは。


シェリー「……ありがとう。嬉しいわ」


そして、その賞賛を誇るでもなく、ただ受け入れる。

これは、完全に殻を破ったな。


「ところでシェリー殿。

 私の……妻になってくれないか?」


!!!

この野郎、ここでまた爆弾を落としてきやがった。

余計なことしやがって。

カモメブレスで髪の毛焼いてやろうか。


いや、待て。

シェリーが全く動じてない。


「ありがとう。キリアン。

 ちょっとびっくりしたけど、嬉しいわ。

 そう言ってもらえて。

 でも、私にはモーゼスが居るから、貴方の気持ちには応えられないの。

 ごめんね」


「モーゼスさん? 

 二人の絆は分かる。

 でも彼はカモメじゃないか。

 貴女はまさか、カモメと結婚する、そう言ってるのか?」


そう。どこまで行っても俺はカモメ。ただの小動物だ。

ペットにしか見えないのも無理はない。

本気の男を説得する言葉は……


「そう。モーゼスの姿はカモメだけど、本当は人間なの。

 でも、かならず人に戻す手段はある。

 そう信じて私たちは旅を続けてるのよ」


「……そうだったのか。いや、でも!」


む。まだ食い下がるか。

本当にまっすぐな男だ。

若いのに、尊敬に値する。

それでも。


シェリーは俺のだ。

お前には渡さん。


などと考えていると、キリアンの声が割って入る。


「モーゼスさん、私と、立ち会ってください」


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