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カモメ賢者と黒髪の少女  作者: ジャパンプリン
第三章 薙刀の達人(弟子入り編)
29/42

第29話 充実の少女

あの日、俺はシェリーとほんとうの意味で心が通じ合った、そんな風に思えた。

あれ以降、シェリーも迷いが消えたのか、集中力を再び取り戻した。

今日は、大闘技会前の最後の鍛錬の日。

いつもの道場で、シェリーはマリアと対峙していた。


槍の穂先と薙刀の切先――といっても練習用の刃を潰したものだが――が触れるかどうかの距離。

二人は中段に構えを取り、静止して見える。

だが、実際には目線、呼吸、足裏への力感など、

微かな変化が行き交う。

これも一種の対話、か。


二人はこの()()を通じて鍛錬を続けてきた。

静かだが、濃密な時間。


対話の終わりは、一瞬だった。

切先がブレたと思った瞬間、シェリーがそれを穂先で止めた。

マリアの動作が遮られた、その一瞬の隙をついてシェリーが柄と柄を絡ませ、

突きを放つ。

これは……入ったか?


いや、マリアが脇で柄を挟み、槍を制している。

あの一瞬で前に出て、タイミングを外したか。

凄い判断力と体捌きだ。

これが、マリアの見せる真の『後の先』。

達人の技か。

良いもの見せてもらった。


「お見事です。

 後の先、習得しましたね」


「いえ、結局先生には止められてしまいました」


「ふふ。それはそれ、ですよ。

 私にも師の意地というものがあります。

 ちょっとだけ本気を出しました」


そうだ。

これまでの修行で、マリアは一貫して先手を取ってきた。

不利を覆す鋭い先手を何度も投げかけ、シェリーに対応を迫る。

そんな稽古の応酬だった。

今日、ついにシェリーは完璧に反応してみせた。

かに見えたが、ちょっとの()()で制してみせた。

この底しれない相手に紙一重とか、アレスのやつ、凄かったんだな。


シェリーは今、心技体ともに充実。

明日からはその集大成、大闘技会が始まる。

正直、負ける要素は見つからない。

問題はあの剣士、キリアンくらいか。

奴がどんな成長を見せてくるか。

だが、今のシェリーであれば相手は関係ない、そう俺は確信していた。


――――――


翌日、俺達は三人で会場に足を運んだ。

会場は闘技場(コロシアム)のような円形の建物で、

その外周の一角に参加者受付がある。

門下生は別行動だ。後から応援に来るだろう。


ここは受付の前。

今日の(カモメ)は、いつもの定位置(シェリーの左肩)ではなく、マリアの腕の中。

会場入りの際、何故かマリアが固執したのだ。

まあ、それで今更ちょっと離れたくらいでどうにかなる俺達じゃない。

マリアの胸元に抱っこされて収まった。

聖母はやはり聖母だったので、まあ良いかと納得する。

首を回して周囲を観察していると、そこら中から静かなどよめきが聞こえてくる。


「おい、あれ。鬼神の……」

「バカ、アレはマリアさんだ。口に気をつけろ」

「なんでカモメ? ペットなのか?」


なるほど。俺は、ゆるふわ感を補強するマスコット枠か。

まあ、『鬼神』なんて呼ばれたら、そうしたくなる気持ちも分からんでもない。

それにしても、この人(マリア)の過去に何があったのか。

いや、考えるのはよそう。

この人は聖母のマリアさんだ。



しばらくすると、シェリーが受付を終えて戻ってきた。


「凄い人だかりね。

 これだけの人が出場するなんて、なんかお祭りみたいでワクワクするわね」


そう。

このイベント、紛れもなくお祭りだった。

年に一度開かれる、闘技の祭典。

出場者は100人超。

本当は予選もあるそうだが、マリアの推薦のおかげでシェリーは本戦からの出場だ。

マリア、本当にこの街の『顔』なんだな。


「さっき、そこでキリアンと会ったわ。

 再戦の約束してきたとこよ」


「そうか。どうだった?」


「相変わらずの雰囲気ね、彼。

 多分、強くなってると思う。

 当たるとしたら準決勝だから、

 それまで負けないように頑張らないとね」


そう言い放ったシェリー。

一切の気負いは感じられない。

自然体だ。

後は、キリアン次第か。


――――――


今日のシェリーは三度の試合を勝ち上がり、翌日へとコマを進めた。

そして今、キリアンの三回戦が始まろうとしている。

俺は、マリアの右肩に座り、観客席から闘技場を見下ろしていた。

場内にはキリアンと髭面のおっさんが二人、向かい合っていた。

おっさんの得物は槍、対するキリアンは長剣。

さながら、仮想シェリーと行った様相だ。

この組み合わせ、キリアンはどう出るか。

見ものだな。


程なくして試合が始まった。

リーチで(まさ)るおっさん。

キリアンは中段の構え。

先に仕掛けたのはおっさんだった。

鋭い突きが、襲う。


その瞬間、キリアンが前に出た。

紙一重で突きを躱し、懐に剣を突き立てる。

そして、おっさんはふっ飛ばされた。

鮮やかな一本。

勝負あり。


それにしても、今の踏み込みは……。

狙っていたのだろうが、どこか昨日のマリアを彷彿させる。

これは、互角、か。


――――――


翌日、二人はともに危なげなく二連勝を飾り、

準決勝へとコマを進めた。


そして迎えた本日の大トリ、準決勝。

シェリーとキリアン――二人の若き才能が、

一か月の時を経て再び対峙した。

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