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カモメ賢者と黒髪の少女  作者: ジャパンプリン
第三章 薙刀の達人(弟子入り編)
28/42

第28話 カモメは離さない

(マリア)は今、シェリーと同じ湯に浸かっている。

兄弟子(アレス)の面影を色濃く感じさせる子。

あと何年かしたら、この子は見つめることすら(はばか)られる、

そんな娘になるのでしょう。

シェリーちゃんとは一度一緒にお風呂に入りたいと思っていたから、

その機会をくれたモーゼスくんに感謝しないといけませんね。


さて、そのモーゼスくんの件、早速切り込んでみますか。


「最近、集中できてないみたいですね。

 キリアンくんの、あの言葉ですか?」


眉がピクンと動いたと思ったら、次第に目線が下がってゆく。

しばらくの沈黙ののち、ぽつぽつと話し始めた。


(わたし)……」


その声は低く、落ち着いて聞こえる。


「キリアンに、『綺麗』って言われたとき、ドキッとしてしまったんです。

 それに、なんだか嬉しくて、今日になってもまだ思い出してしまうんです。

 でも、私にはモーゼスがいるのに、何やってるんだろうって」


「それで、自分を、信じられなくなったのかしら?」


「……はい。。。。。。」


ふふ。口元を沈めて、泡を吹いてる。

湯けむりと相まって、可愛い仕草です。

ここでかける言葉は、そうですね……


「そんなこと、気にする必要はありませんよ。

 当然のことです。

 綺麗と言われて喜ばない女など、存在しません。

 それより、貴女が私に弟子入りしたいと言った時、

 何と言ったか覚えていますか?」


「……はい」


シェリーちゃんの目に、力強さが戻ってきたのが分かる。

もう一押しです。


「もう一度、貴女の口から聞かせてもらえますか?」


「私は……

 私は、モーゼスを守れる力が欲しい」


「そうです。

 そのために、今日まで鍛錬に励み、ついには殻を破ってみせた。

 貴女のその行動と成果は、

 一時の感情に揺さぶられるほど軽いものではありません」


流石、(わたし)

威厳のある良い言葉が自然と口から出てきました。


「マリア、せんせい……」


「何も恥じることはありません。

 貴女の思うままに、正直にモーゼスくんにお話ししてみなさい。

 彼ならきっと、受け止めてくれる。

 貴方たち二人を眺めてきた私の眼には、

 そう映っていますよ」


決まりました。

やったね☆


「ありがとう、ございます……。

 一度、モーゼスと、話を、してみます」


「そうね。それがいいわ。

 きっと上手くいく。

 応援していますよ」


よかった。

なんとか責任は果たせたようです。

あとはモーゼス君次第ですか。


「ふふっ。マリア先生、可愛いですよね。

 そういうところ、なんだかお母さんみたいで私、好きですよ」


えっ?

……シェリーちゃん、やっぱりいい子ね。

ウチの子に欲しい。

いや、ダメよ。

余計な事を考えてはいけません。


「そろそろ上がりますね。

 モーゼスと(はなし)しに行きます」



そうですね。行ってらっしゃい。

応援していますよ。



――――――



ううむ。

マリアは任せろといったけど、落ち着かないな。

でも、慌てても仕方がない。

こんな時こそ、何か新魔法のアイデアを試してみるべきだ。


むむむ。

良いこと思いついた。

これやってみよう。


真空断(ヴォイドカッター)の要領で口内に真空を造り出し……


真空噛みつき!


バチン! という音とともに人差し指ほどの枝が嚙み切られ、地面に落ちる。

うむ。いい感触だ。

これで網対策は完璧か。

あとは箱の対策だが、ううむ。



「モーちゃん、何やってるの?」


「ん?シェリーか。

 良いところに来てくれた。

 見てくれ、この枝。

 この太さの枝を一撃で噛み切れた。

 これで網などに遅れを取ることはないだろう」


どや! 褒めて!?

って、あれ?

なんか、微妙な表情だな。


「うん……そうね。

 でも、この枝って、先生が大事にしてた桜の木じゃない。

 私のために頑張ってくれたのは嬉しいんだけど、先生に謝らないと。

 後で、私も一緒に謝ってあげる。

 だから、もうこんなこと、しちゃダメよ☆」


そう言ってシェリーは俺を抱え上げ、赤子をあやすかのように胸元に抱え込む。

むう。今のは、マリアが感染(うつ)ったか。

シェリーがやると確かに可愛いんだが、しかし……。

まあいいか。

何も考えず、抱っこに甘えよう。



「ねえ、モーちゃん。聞いてほしいことがあるの」


来た。本題だな。


「ああ。そうだな。聞かせてくれ」


「ありがとう。

 でも、ここじゃ何だから、私の部屋に行って、それから聞いてくれる?」


そうだな。俺の答えは決まってる。


「もちろんさ、シェリー」



――――――



今、俺はシェリーの部屋にいる。

シェリーはベッドに腰掛け、俺を優しく胸元で抱えている。

いつもの抱っこちゃんだ。

時折背中を撫でるその感触が、どこはかと無く母性を感じさせる。


シェリーも、成長したな。もはや少女とは言えない。

女性未満といったところか。

嬉しいことだがしかし、少し、寂しいな。



「ねえ、モーゼス。

 私は、謝らないといけない」


モーゼスと来たか。この雰囲気で。

これは、俺も真剣に向き合わないと行けないな。

改めて心の襟を正すと、シェリーが続ける。


「私ね、最近おかしかったでしょう?

 この間、キリアンに綺麗って言われてドキッとしてしまったの。

 でも、私にはモーゼスが居て。

 それなのに、何度もあの言葉を思い出すの。

 それで、私は……自分が、しんじ……」


シェリーが言葉に詰まってしまった。

なんとか慰めてやりたい、が、ここは言葉じゃない。

頭をシェリーに擦り付け、精一杯のスキンシップを試みる。


シェリーが抱き返してきた。

彼女の震えが、全身に伝わってくる。

泣いて、いるのか。


「シェリー、俺は……」


いや、ここは言葉だけでは足りない。

この小動物の、守られる体では足りない。

包み込む強さが必要だ。


シェリーの心に届ける必要がある。

とすれば……ここが使いどころだな。



「あっ。モーゼス?」


俺は、シェリーの腕をするりと抜けて飛び降り、カバンを漁りに足を急がせる。

くそう。もどかしい体だ、まったく。


あった。これだ。

急いでティシアのくれた人間化セット――魔力材(ポーション)と魔法陣スタンプを取り出すと、一気に(あお)って床にスタンプを押す。

そして、みなぎる魔力を一気に流し込む。


魔法陣が輝き、俺は一瞬意識を失いかける。

そして、再度取り戻す。


……来た。

久しぶりの、人間の体。

これなら。


「モー……ゼス?」



俺はゆっくりとシェリーに近寄り、正面から抱きしめる。

片手は腰に、もう片手は頭をかき抱くように。

そして、頬を合わせる。


………………


シェリーの震えが収まり、落ち着きを取り戻したのが分かる。

伝えるなら、ここだ。


「シェリー」


「……うん」


「アイツ、格好良かったよな。姿も、言動も。

 悔しいが、俺は逆立ちしてもこいつには勝てないって思ったからな。

 だから、そんなことでシェリーが悩む必要は無いんだ。

 それが事実なら、俺は受け入れよう。

 だが、それでも……」


「……それでも?」


俺は、両手に力を込め、宣言する。


「それでも俺はシェリーを離さない」


「!!!」


シェリーが腰に両手を回し、抱き返してくる。

力強い抱擁だ。

そして、いつもよりも一段と澄んだ、透き通るような声が、

重ねた頭と身体、全身を通じて伝わってくる。


「ありがとう、モーゼス。

 私も、愛しているわ」


ようやく俺達の心は、一つになれた。

後は、体で確かめる。

これで完璧だ。


俺は、シェリーの頭をゆっくりと引き離し、正面から向かい合う。

そして、シェリーがそっと眼を閉じる。

ようやく、この時が、来た。

俺も眼を閉じ、そして……


唐突な浮遊感が俺を襲う!

え? ちょっとまって!?

そんな、無体な。


――――――


「モケー」


俺は言葉を失い、シェリーの足元で立ち尽くしていた。

ふいにシェリーが俺を抱え上げ、再び胸元に抱きしめてくる。

そして、クスクスと笑う。


「残念だったわね、モーちゃん☆」


むう。

まあ、シェリーも元気になったみたいだし、それでいいか。


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