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カモメ賢者と黒髪の少女  作者: ジャパンプリン
第三章 薙刀の達人(弟子入り編)
26/42

第26話 突如の横槍

マリアの宣言から二日、明日は他流試合だ。

手配が速い。流石はマリアといったところか。

現在は午前。マリア直接指導の時間だ。

マリア監修のもと、シェリーは先日の感覚を忘れぬようにと素振りを繰り返していた。

壁を超えた実感があるのだろう。

今日の動きは、一段とキレを増して見える。


そんな折、道場に予期せぬ来客があった。

中年の、なんか渋い感じのおっさんだ。


「ブルーノさん、どうしたんですか?

 約束は明日のはずですが」


「すまない、マリアさん。実は……」


――――――


この人はブルーノさん。

ここヴァルディクに居を構える道場主で、

予定ではシェリーの相手となるはずだった。

だが、彼の口から出てきた言葉はそれを否定するものだった。

話によると、昨日、彼は道場破りに合ったらしい。

相手は若者。武者修行の剣士。

正々堂々戦い、敗れたとのこと。

その表情は晴れやかで、特に禍根を残したようには見えない。

珍しいタイプの道場破りだな。

いや、単にブルーノさんの人間性か。


「それで、恥ずかしながら実力不足を実感した。

 申し訳ないが、今回の話は白紙とさせていただきたい。

 それと、彼の口ぶりだと、そう遠くないうちにここにも訪れる。

 負けたから言うわけではないが、若いのに大した実力者だった。

 手合わせするなら彼のほうがいいでしょう」


「そうですか。

 ブルーノさんがそうおっしゃるなら仕方ありません。

 承知しました。」


こうしてブルーノさんは去って行った。

なんか、変わった人だったな。負けた割に妙に落ち着いてるというか。

マリアがシェリーの練習相手に選んだ理由がよく分かる。

嫌みが無くてあっさりした人だった。

そんな彼を負かした若者とは、いったい何者なのだろう。


思案を巡らせていると、またもや来客が。


「たのもう」


「はい。どちら様でしょうか」



そこに立っていたのは青年、いや、その一歩手前の少年だった。

背丈は175cm程度。体の線は細め、まだ出来上がってない感じだ。

シェリーと同年代、いや、少し上か?

薄茶色の髪に青い瞳。そして整った顔立ち。

さわやかな雰囲気を醸し出している。

一言で言うと、イケメンだ。

腰には一振りの剣が差してある。

ということは、この少年が……。


「私はキリアン・フェルクナー。

 武者修行の旅のものです。

 ここに、薙刀の達人がおられると聞き、参りました」


「そうですか。

 私はジークマリア・ハルトマン。

 ここの道場の主です」


キリアンの目が大きく開き、素早くマリアに駆け寄ってくる。


「おお! 貴女がかの高名な『鬼神』、ジーク殿でしたか。

 お会いできて光栄です。

 是非、一手手合わせを願いたい」


!!!


マリアの表情が、消えた。


なんか、ゆるふわヘアーの毛先が逆立ってる。

場の空気が徐々に重みを増すのが分かる。


このさわやか少年、いきなり全力で地雷を踏んできた。

なんてことを。

マズい。このままでは少年に、命の危険が。

咄嗟に俺は口を開く。


「少年、この人はジークじゃない……マリアさんだ。

 マリアさん、な。

 今ならまだ取り返しがつく。

 ほら、一緒に謝ろう」


「……これは、失礼しました。

 マリア殿。

 女性に向かって『鬼神』などと……

 言葉を誤ったようです。

 無礼をお許しください」


おお! このイケメン、顔だけじゃない。

フォローも男前だ。やるな。


マリアの毛先は途端にゆるみ、いつもの柔和なマリアが帰ってきた。

いや、むしろ上機嫌に変わったか?


「はい。私がゆるかわお姉さんのマリアです☆」


うわ……ついに自分で言いやがった。


「モーゼスくん?」


!!!

またエスパーされた!? ヤバい!

誤魔化さないと!


「な、なんでしょう。マリアお姉さん?」


マリアがしなやかな動作で俺に近寄り、

しゃがみこんで頭に手を乗せてきた。

そして、微笑む。

……ゴクリ。


「お姉さん、素直な子は好きですよ☆」


(カモメ)の頭に置かれた手。

ゆっくり、優しく撫でててくる。

生きた心地がしない……。

もう余計な事は考えません。

ごめんなさい。

今回だけは見逃して?


――――――


「練習試合。それで良ければ許可しましょう。

 私ではなく、このシェリーが相手です。」


「な。マリア殿、私は貴女に……」


突如。

再び場の空気が変わる。マリアだ。

その表情に変わりはないが、目の奥が笑ってない。


「キリアンさん。貴方、本気で私の相手になるとお思いですか?」


緊張が走る。

キリアンも気圧された様子だ。

一拍ののち、低く息を吐いてキリアンが答える。


「失礼しました。少々思い上がりが過ぎたようです。

 では、そのシェリー殿との練習試合、宜しくお願いします」


「よろしい、では。

 シェリーさん、挨拶なさい」


呼ばれたシェリーが一歩前に出る。


「シェリサンドリカ・ヴェルナードです。

 シェリーと呼んでください。

 一か月前からマリア先生に師事しています。

 宜しくお願いします」


こうしてシェリーとキリアン、美少女とイケメンの練習試合が始まった。


――――――


道場の中央。

シェリーは槍を、キリアンは剣をそれぞれ構えて睨み合っている。


シェリーの構えは自然体。

重心をやや後ろに落とし、穂先はキリアンに向いている。

剣に向かって構えないのは、後の先の狙いを悟らせないためだな。


対するキリアンは中段の構え。

両手で剣を握り、正中線に沿って切っ先をシェリーに向ける。

剣の基本に乗っ取った、いい構えだ。

こちらも自然体に見える。


これは、互角、か?



先に仕掛けたのはキリアンだった。

一瞬、剣先を持ち上げつつ踏み込み、即座の振り下ろし。


だが、シェリーは冷静だ。

僅かに後ろへ飛びつつ穂先を剣に絡ませ、その軌道を逸らす。

同時に踏み込み、足刀を見舞う。


態勢を崩され、更に不意を突かれたのだろう。

シェリーの足刀はキリアンの胴に吸い込まれ、体ごと吹っ飛ばした。


あれは……魔法槍の応用か。

足裏に光の魔力を乗せたか。あの一瞬で。

練りを浅くして発動を速めた。シェリーの技量は上がっている。

まずは一本。シェリーが先制した。


っと。見とれてないで、キリアンを治してやらないとな。

トトトと速足でキリアンに近寄り、その頭上に乗って羽根を大きく広げる。

鴎の癒し(カモメセラピー)

羽根からぼんやり光が広がり、キリアンを包む。


「うぅ……。これは、一本取られたな。

 そしてモーゼスさん、ありがとう。

 それにしても、治癒魔法とは。

 貴方は一体?」


礼儀正しい少年だ。

見た目良し、性格良し、態度良し。

そして腕も良し。

三拍子どころか四拍子もそろった完璧超人。

こんな奴がいるのか、まだ少年だろうに。

世の中は広いな。


「モーゼスくんは、こんな見た目ですが賢者なのですよ。

 回復は彼が担当します。

 ですから、遠慮なくどうぞ」


おお? マリアの評価が高い。意外だ。

よし、今日は俺も頑張るか。



ふたたび二人は中央で対峙する。

先に動いたのは、またしてもキリアンだった。

シェリー、再び後の先を取りに行く。


が、今度の攻防を制したのはキリアンだった。

キリアンの先手はフェイントで、シェリーが釣られて崩された。

その一瞬の隙をついて一気に間合いを詰め、鋭い突きがシェリーの胸防具を襲う。

避ける間も無く突きが決まり、シェリーは弾き飛ばされた。


今、恐ろしい技を使ったな、コイツ。

上半身は振りに行ったのに、下半身は下がりやがった。

これは高度なフェイントだ。

シェリーには、『居るはずの場所に居ない』、そんな幻惑を与えたことだろう。


いや、そんな事よりシェリーだ。早く治してやらないと。

軽く飛び上がってシェリーに近寄り、定位置(左肩)に着地。

広がった翼はそのままに魔法を唱える。

鴎の癒し(カモメセラピー)


「あ痛たた……すっかり騙されたわ。

 やるわね」


シェリーが好戦的な笑みを見せる。

この二人、いい勝負だな。



ここまで一勝一敗。

そろそろ互いに温まってきたか。

後の先に徹すると思われたシェリーだが、今度は先に打って出た。

これがキリアンの虚を突いたか、打ち合いの主導権を取り、突きが入って一本。


シェリーに積極性が出てきた。

「待ち」があるから「攻め」が生きる。

開眼してきたな。


――――――


あれから20戦。

勝敗は五分。

互いに10本ずつ取り合ったところで練習試合は終了した。

二人とも若いだけあって、気力も体力もまだ余裕がある。

だが、俺の限界が先に来た。


カモメ姿の弱点、魔力が少ないことが原因だ。


「そこまでです。

 これ以上はモーゼスくんが持ちません。

 二人とも、良い仕合いでした。

 モーゼスくんも良く頑張りましたね。

 お姉さん、見直しましたよ☆」


流石に、もう慣れた。

これ以上のツッコミはよそう。

この人はこういう人だ。

それより、珍しくマリアが俺を褒めてきた。

今は、それを素直に喜ぶことにしよう。


「「ありがとうございました」」


シェリーとキリアンが同時に頭を下げ、試合は終了した。


「キリアンさん、お強いですね。

 私は不意を突いたり奇をてらってばかりで、

 正面からは結局一度も決められませんでした」


「いや、シェリー殿。それはこちらの台詞だ。

 私は正面突破に自信を持っていたが、

 一度決まっても即座に対応してくる。

 貴女の懐の深さに感服した」


シェリーとキリアン。

互いに健闘を称え合い、握手する。

美しいな。この二人は良い好敵手になるだろう。



「シェリー殿。貴女は美しいな」


「え? あ、ありがとうございます……///」


!!!

え? ちょっと、シェリーさん。

その反応は……なんで?

それにこのイケメン野郎、

いきなり口説きに来るとか何考えてんだ。


「願わくば、貴女と再びまみえたい。

 私は一か月後の大闘技会に出場する。

 貴女も参加してほしい。

 そこで、今日の決着を付けよう」


……考えすぎか。

コイツに多分、他意はないのだろう。

恐ろしい少年だ。

しかしシェリーのあの反応は……ぐぬぬ。


モヤモヤしているところにゆるふわお母さんの声が響き渡る。


「そうですね。

 今日の決着はそこでつけるのが良いでしょう。

 シェリーさん、貴女が良ければ大会に出場しましょう」


「……はい。

 また会いましょう、キリアン」


「ああ、こちらこそ。楽しみにしている」

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