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カモメ賢者と黒髪の少女  作者: ジャパンプリン
第三章 薙刀の達人(弟子入り編)
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第24話 少女の決意

「まずは私の家で、貴女の話を聞かせてください。

 私は、ジークマリア・ハルトマン。貴女は?」


ジーク……? この顔で?

この国特有の、やたら硬い語感は理解に苦しむな。

ん?


!!!


なんか今一瞬、女性からすごい殺気が発せられたような。

思わず鳥肌立ったぜ。

これは禁句か。

刻んでおこう、この(カモメ)に。

女はエスパー……女はエスパー……っと。


「……すみません。

 この子、ちょっと失礼なとこがあって。

 私は、シェリサンドリカ・ヴェルナードです。

 そして、この子はモーゼス」


「……そのようですね。

 私のことは、『マリア』と呼んでください。

 『ジーク』と呼ぶのはよして下さいね」


ん? 二人とも、変な間が入ったな。

(カモメ)は現在シェリーの腕の中。

素早く首を回し、二人の顔を観察する。


「私のことも、シェリーでお願いします。マリアさん。

 ほら、モーちゃんも」


「ああ。俺はモーゼス。

 見た目はこんなだが、中身はれっきとした……魔法使いだ。

 さっきは助かった。

 改めて礼を言う」


「シェリーさんとモーゼスくんですね。

 早速だけど、行きましょう。

 ついて来てください」


そう言ってマリアは颯爽と歩き始めた。

俺は定位置(シェリーの左肩)へと飛び移り、二人遅れずついて行く。


――――――


「それで、なぜ弟子入りしたいと思ったんですか?」


俺たちは今、マリアの家で歓談していた。

いや、()()だな、これは。

まずは俺の抱える事情、二人の関係、旅の目的について説明した。

そして、一通り聞き終えたマリアから、核心を突く質問が投げかけられたところだ。


シェリーは一呼吸置いて、口を開く。


「今日、危ない目に会いました。

 きっと私一人だったら、あのまま捕まってたでしょう。

 でも、モーゼスが、網に捕らわれてでも私を助けてくれて、

 そこにマリアさんが現れて、やっと何とかなりました」


「そうですね。

 でも、貴方達だったら二人だけでも切り抜けられたと思いますよ。

 モーゼスくんは只物じゃないみたいだし、

 シェリーさんも、あの魔法槍、それに判断力、

 素晴らしかったと思います。

 私が割って入ったのは、万が一のことを考えて、ただそれだけです」


「ありがとうございます。でも、それじゃダメなんです。

 私、気付いたんです。モーゼスの強さに甘えて、依存してたって」


シェリー……。

それは俺の、当然の役目だ。


「でも、モーゼスだって万能じゃない。

 今日みたいな事だってある。

 そう思ったら私、今のままじゃダメだって。

 私は、モーゼスを守れる力が欲しい」


俺は万能ではない。そうだな。

この(カモメ)では、魔法が俺の生命線だ。

封じられた途端に弱点を晒してしまう。

そのことを忘れて油断して、危機がシェリーにまで及んだ。


本人はああ言ったが、シェリーはすでに十分強い。

相棒の強さに甘えていたのは、俺の方だ。

それなのに自分(シェリー)に理由を求め、克服を目指す。

シェリーが俺に向ける、その愛情は本物だ。


「マリアさんを一目見て分かりました。

 この人は只物じゃないって。

 私も、貴女みたいになりたい。だから…

 お願いします。私を導いてください」


「……あなたの気持ちは受け取りました。

 そうですね。」


マリアがシェリーを見つめる。

全てを見透かすような目。

シェリーは……真っ向からその視線を受け止めている。

暫くの沈黙ののち、マリアが表情を緩める。


「良い覚悟です。

 貴女は今、少女から女性へと羽化する直前に居るのですね。

 その最後の一押し、これも何かの因果というものでしょう。

 私が手助けすることは、やぶさかではありません。

 ただし、期限は二ヶ月。

 それで良ければ引き受けましょう」


「はい。よろしくお願いします」


シェリーの心は決まった。

だとすれば……俺も負けてはいられないな。


――――――


シェリーの想いを、マリアが受け止めた。


場の空気はゆるみ、話は雑談へと移る。

その最中、マリアが唐突に切り出した一言が、再び空気を変える。


「ところで、シェリーさん。

 もしかして、貴女のお父さんは剣聖って呼ばれてませんでしたか?」


「え? もしかして、知ってるんですか?

 父はアレス。アレサンドロ・ヴェルナードです。」


俺もシェリーも目を丸くする。

ハトが豆鉄砲を食らった顔だ。――カモメだが。

そんな俺たちを見てマリアは微笑み、続ける。


「やっぱり。そうじゃないかと思っていました。

 見た目だけじゃなくて、その心の強さも。

 お父さんにそっくりですね」


「お父さんを知ってて、薙刀……。

 それじゃあ、あなたが父をコテンパンに負かしたっていう」


なるほど。話がつながった。

あのアレスを制したと聞いて、てっきり男だと思ってたが、

このゆるふわお姉さんが相手だったか。

人は見かけによらないな。


「コテンパン……ですか。

 あの人はそのように娘に伝えてたのですね。

 そういうところは昔から変わりませんね」


マリアが視線を外し、俺達の向こうへと焦点を移す。

その表情は穏やかだ。


一拍置いて、再びマリアの口が開かれる。


「最後に勝負したとき、勝ったのは確かに私でしたけど、

 それは本当に紙一重の差、薄氷の勝利でしたよ」


――――――


マリアの口から出た言葉。

それは、アレスが語った『事実』とは大きく異なるものだった。

その意味するところは……そうか。

父への憧れを捨てさせ、娘に槍を選ばせるための方便か。

得物を変えれば、体格で不利な娘でも父を超えて行ける。

目の前の達人のように――か。


男前だな、アイツも。

空気とか言って悪かった。



「でも、なんでマリアさんはお父さんと勝負なんかしたんですか?

 二人とも、そんな血気盛んな人には見えないのに」


……ん? 今一瞬だけマリアの眉が動いたか?


「それはですね――」


マリアの表情が真剣みを帯びてゆく。

高まる緊迫感に、シェリーの口が引きずられる。


「それは?」


突如、硬い表情から一転。

マリアはニコッと笑い、告げる。


「内緒☆」



………………。

なんだこれ?

さっきまでの貫禄はどこへ?

達人の変貌ぶりに言葉を失った俺達。


その一瞬で、達人は表情を戻す。

そしてつぶやく。


「アレスは私の、兄弟子だったのです。

 その関係で、ちょっと、色々ありまして」


本日二度目の豆鉄砲を食らった俺とシェリーは、

状況を理解するのにしばらくの時間を要した。



一足先に頭の制御を取り戻した俺は、もう一つの疑問を口にする。


「修行の期限は二ヶ月、と言ったが、

 その理由について教えてくれないか?」


「それは……本当に私の事情なので申し訳ないのですが。

 私の夫と息子が、二ヶ月、いや三ヶ月後には帰って来ます。

 彼らは今、西の隣国で武者修行をしているところです」


なんと。

達人は、ゆるふわお姉さんではなく、お母さんだった。

流石に豆鉄砲も三度目となると、心も慣れる。

言葉は失わない。


「年頃の男女が一つ屋根の下で暮らす。

 母として、それは見過ごせません。

 シェリーさんには、守りたいものがあるのでしょう?

 余計な波風は立てたくありませんもの☆」


マリアの顔が再び笑顔に変わり、ウインクして見せる。


……なるほど。

これは修行の都合というより、大人の事情というやつか。

それにしても、このウインク、決めポーズか?

わざとらしくて、なんか殴りたくなる顔してるな。


「わかりました。よろしくお願いします」


ここでスルー!

強い。ナイスシェリー!



こうして、シェリーの修行の日々が始まった。


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