第15話 雪解けの瞬間
私たちは暫くの間、体のぬくもりを肌で感じるままに、無言で抱き合っていた。
私は、20年ぶりに涙を流すことができた。
もう枯れたと思ってたけど、泣くのって気持ちのいいものね。
ずいぶんと心が軽くなったのがわかるわ。
シェリーは泣きじゃくっていたけれど、今は大分落ち着いてきたみたい。
体の震えは収まり、呼吸も安定してきた。もう少しね。
腰を包んだ華奢な腕が、ふと思い出したかのように力を増す。
その都度私は無言で応える。
時に抱きしめ、時には優しく撫でる。
言葉は無い。
それでも会話はできる。
女って、いいわね。
でも、そろそろ声の出番が来たかしら。
私はゆっくりと口を開き、語りかける。
「ねえ、シェリーちゃん」
彼女は首を使って、無言で返事をする。
声を取り戻すには、もう少し時間が必要かしら。
でも、もう聞く準備はできている。
「彼のこと、愛してくれて、ありがとう。
あなたが彼を救ってくれた。
だから私も救われた。
本当に感謝しているわ」
「そんな……こと」
「あるわよ。
でも、もう少しだけ、私の心の整理がつくまで。
彼のこと、ルカって呼ぶの、許してほしいの。
私の中の、ルカの幻影が、もう少しだけ居させてって、言ってるの。
だから……」
私が再び言葉を失うと、少女が優しく背中を撫でてきた。
私のせいで、あんなに深く心を痛めて、
それでも慰めようとしてくれる。
本当に、ずるい子ね。
……景色が滲んで、ぼやけてゆく。
やっと、前を、向けそうね。
――――――
あれから二人で顔を洗い直し、
二度目のお風呂でようやく心が落ち着いた私たちは、
他愛もない話をしながら流れる、優しい時間に身を任せていた。
「ねえ、シェリーちゃん。
いつもは――モーゼスちゃんと一緒にお風呂入ったり、してる?」
「え? そそそんかこと……できません。
。。。。。」
ふふふ。こんな、顔を真っ赤にして。
それに、困ったら顔を沈める癖も。
愛らしい子。
「むかし、まだ、
モーゼスがうちに来てすぐくらいのとき、
一緒に入ろうと、したんです。
でも、『俺は紳士だからやめとく』って」
「『紳士』ねえ。
ふふっ。 じゃあ、私の勝ちね」
「ええ? なんですか、それ!」
「内緒。」
私がはにかんでみせると、シェリーは口を尖らせる。
納得行かないって顔、すねた仕草も可愛らしい。
ルカーヴが光を取り戻せたのも納得ね。
ありがとう。
「じゃあ、そろそろ上がりましょうか」
――――――
脱衣所の扉を開けると、廊下の曲がり角が、ピカピカ光って見える。
ルカーヴね。何やってるのかしら。
青、緑、紫、水色、赤、青……
なんだか賑やかそうだけど。
徐々に光が大きくなって。
来る……!
『でーでーでーでっででーでっででー』
なんだか威圧感のある音楽とともに、ソレは姿を現した。
タマちゃんの上で、得意げに仁王立ちするカモメが見える。
あのクソ鳥! 何やってんのよ!
「ちょ、ちょっとモーちゃん!
何してるの!?
ダメよ! 降りなさい!」
「フハハハハ! ネコどもへの宣戦布告だ!」
「モーちゃんやめて!」
「ヤツらの名前を『リクネコ』、いや、『陸カモメ』に変えてくれるわ!」
「そんなの無理よ!」
………………。
……私は……こんなヤツのために……20年も……。
悔しい。
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………………↵
………………↵
………………⮐
水噴っ!
「ぶっ!
グェェ……」
――――――
あの後ティシアにメチャクチャ怒られました。
もう……足……しびれた……ゆるして?
ぐすん。




