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カモメ賢者と黒髪の少女  作者: ジャパンプリン
第二章 過去と向き合う旅(再会編)
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第13話 少女の震え

 ティシアに連れられて、隣の部屋に移動した。

この部屋は、先ほどの部屋より大きいな。

槍を振り回しても大丈夫そうだし、何ならちょっとした演舞くらい出来そうだ。

しかも、先ほどまでの樹海とは打って変わって物が無い。

文字通り、何もない。

あるのは床と壁、それと申し訳程度の小窓が少々。

ここはおそらく演習場か何かなのだろう。


「ここは、実験室よ」


首を回して観察していると、ティシアから正解が告げられる。

いや、クイズじゃないんだからさ。 

先に言ってくれよ。



「さて。どんな魔法陣を使ったのか知りたいから、

 一度ここに書いてもらえるかしら?」


そう言ってティシアはペンとノートを差し出してくる。

さっきの部屋から持ってきてたのか。


「良いけど、俺が書いたのはもっと大きくて、

 直径一メートルぐらいだったぞ」


「縮小版で良いわ。見れば大体分かるから」


確かに、魔法陣の効果にサイズはあまり関係がない。

ただ、小さくなると、その分流し込む魔力に繊細な制御が必要になる。

俺が以前使ったときは魔力暴走オーバーロード状態だったので、制御で楽をするために大きい魔法陣を必要としていた。


俺はクチバシでペンを受け取り、床に置かれた紙に器用に書いてゆく。

……はずだったが現実は無常。

カモメの身でペンを扱うには無理があったようだ。

10枚の落書きを生み出した末に、クチバシにインクを取って直接書くことに。



 ようやく完成した。

ティシアは完成した魔法陣を手に取ると、何やら難しい顔をしながら魔法陣を眺めている。

いや、分析しているのだろう、あれは。

時折、「あ~」とか「ん~」といった声が聞こえくる。

そして、


「ねえ、ルカーヴ。

 ここ、ちょっと教えて欲しいんだけど」


「どれどれ。

 そこの記述は時間操作の中核を担う部分だな。

 中央のΨ字が……」


「モーちゃんが真面目な話してる……。

 ホントに賢者みたい」


約一名、婚約者の評価が酷いが、そこは聞かなかったことにしよう。

これはあれだな。

空気にならないよう気を使ってくれたんだろう。

相変わらず聡い子だ。



「なるほど。分かったわ。

 これなら何とかなりそうね。

 実験の準備してくるから、ちょっと待ってて」


そう言ってティシアは研究室へと向かった。

実験室に残された一羽と一人。

シェリーがおもむろに口を開く。


「ねえ、モーちゃん」

「ん?」


婚約者の口から出たいつもの呼び名。

だがその声は、普段通りの親愛の情ではなく、様々な感情が入り交じったもののように聞こえた。

修羅場の、予感が、する。



――――――



「ねえ、モーちゃん。

 ティシアさんとの関係、教えてくれる?」


あ~、やっぱそれか。

あのティシアの反応を見た後では、『ただの友人』で済むはずはないよな。

この話は墓まで持って行くつもりだったが、そうだな。

ここまで俺のすべてを受け入れてくれた、シェリーになら。

隠し事は、無しだ。


……

……

……


「モーちゃん……辛かったのね」


俺は現在、シェリーの腕の中。

やわらかい()()に挟まれて、至福の時を過ごしていた。

辛かったのはとうの昔。

現在の俺は、幸せそのものである。


「過ぎた話だ。今はもう立ち直ったし、それに。

 シェリーが傍に居てくれるなら、これ以上の幸せは無いさ」


たまには本音で語り合う。

これが夫婦円満の秘訣だと、アレスは言っていた。

シェリーが俺のために心を痛めてくれている。

目の前の、その事実が俺の心を浄化してくれる。


「ホントに? 無理しなくていいのよ」


「ああ。シェリーがこうやって慰めてくれたから、俺の心は無事救われた。

 今の俺は、いつものエロ可愛いカモメ賢者だ。

 だから安心してくれ」


「モーちゃん……」



 決まった。

この雰囲気ならもう少し踏み込んでも許されるはず。

好機、来たる。

天命は我にあり。

今だ!


「ちょ、ちょっと。どこ触ってるのよ!

 ちょっと待って、こんなところで。

 何するのよ!」


!!!

痛てぇ!


グーパンされました……。

そんな無体な。


――――――


シェリーにされて星の海を漂っていると、扉がガチャリと開いてティシアが帰ってきた。


「二人とも、いいところだったみたいね。

 お邪魔だったかしら。

 でも、実験の準備が整ったわ。

 早速始めましょう」


「邪魔じゃ、ないです。

 それに……ティシアさん。

 その前に、一つ、聞かせて欲しいことが、あるんです」


シェリーが真剣な表情で問いかけた。

珍しく言葉に棘がある。

これは、修羅場の予感。

こっちが本命か。

俺はさりげなくシェリーの後ろに退避する。


「どうして……

 どうしてモーゼス。

 いや、ルカーヴさんの気持ちに応えてあげなかったんですか?」


足元から見上げるシェリーの背中は、小刻みに震えていた。

声は静かなのに、肩だけが、必死に堪えるように揺れている。

その姿は、いつもより少しだけ、縮んで見える。

対するティシアはシェリーの言葉を受け、その瞳をわずかに広げる。

だが、答えない。

そこに、消え入るような声でシェリーが続ける。


「それに、出会ってからずっと、ルカって呼んでる。

 モーゼスに、昔を思い出させるような事。

 やめて……ください」


泣いているのだろうか。

表情は見えない。

俺は見ない方が良いだろう。


ティシアはその瞬間、ぴたりと動きを止めた。

表情が少しだけ沈み、それから、何事もなかったように穏やかな笑みを作った。

そして、ゆっくりと口を開く。


「……そうね。その話は、ここじゃ何だから家に帰ってからしましょうか。

 実験は、明日ね。

 それと、しばらく滞在するんでしょ?

 私の家に、是非泊まっていって」



シェリーは沈黙を続けている。

俺は、そっと左肩に飛び乗り、右の羽を広げて頭を包み込む。

今度は俺が慰める番だ。

そして、代わって答える。


「ああ。ここはしばらくかかりそうだし、

 泊めてもらえると助かる。

 しばらく世話になるぜ」


「もちろん。

 あなたたちなら、いつまででも大歓迎よ」


そう返したティシアの表情は、先ほどの緊張が嘘のように穏やかなものに感じられた。



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