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第9話  翔子、包丁で小さな怪我&衛生講習

――放課後の料理部部室。

窓から差し込むやわらかな光の下、まな板やボウルがずらりと並んでいた。今日は新歓で出す予定のサンド用具材を切る練習日だ。


「じゃあ私は野菜の下ごしらえやるわ」

翔子は袖をまくり、キャベツを手に取る。包丁を握る姿は堂々としていて手際も早い――が、そのスピードは少し危なっかしい。


「私はパン担当。せっかくだからウサギ型に切っちゃおうかな」

杏子はニコニコしながら型抜きを取り出した。パンの端をくりぬいては「かわいい〜」と満足げだが、進捗はカメの歩み。


「じゃあ私は具材の味付けね」

実花は落ち着いた動作でハムを並べ、ドレッシングを混ぜ始める。リズムは一定で、無駄がない。


「今日は包丁の使い方も再確認な」

佐伯先輩が腕を組んで見回す。

その言葉に、翔子は「はいはい」と軽く返事をし、杏子は「はーい」と片手をひらひらさせ、実花は「了解」と微笑んだ。

――この時は、すぐあとにちょっとした事件が起こるなんて、誰も思っていなかった。


――トントントン、と軽快な音が調理室に響く。

翔子の手元では、鮮やかな緑のレタスがみるみる千切りになっていく――そのはずだった。


「……っ」

一瞬、包丁の動きが止まり、翔子が眉をひそめる。

指先から、赤い色がじわりと滲み出した。


「翔子!?」

実花がすぐに声を上げ、救急箱へ走る。


「あ、血って映える色だけど……って言ったら絶対怒られるやつだよね」

杏子が半分冗談で口を開き、すぐに両手で口を押さえた。


「ほら、動くな」

佐伯先輩がすっと翔子の手を取り、消毒液を染み込ませたコットンで丁寧に押さえる。

「調理中にケガしたらすぐ作業を離れろ。血は絶対に食材に触れさせない――これ、基本だ」


「……はい」

翔子は少しバツが悪そうにうなずき、指に小さな絆創膏が巻かれていくのを見つめた。

まな板の上のレタスは静かにその場に置かれ、作業の手は完全に止められた。

部室に漂う空気が、ほんの少しだけ引き締まった瞬間だった。



調理室のドアが軽く開き、宮原先生が顔をのぞかせた。

「何やら慌ただしいわね……あら、翔子さん、指?」


「ちょっと切っちゃって……」と翔子が苦笑する。

先生はすぐに状況を把握し、ふっと頷いた。


「いい機会だから、衛生の話をしましょうか」


テーブルの上に包丁を置き、先生は指を軽く立てて話し始める。

「まず包丁の持ち方。親指と人差し指でしっかりと刃の根元を支え、残りの指で柄を握る。手元は常に見て、食材を押さえる指は猫の手に。――これは基本中の基本です」


「はい……」と翔子が神妙にうなずく。


「次に、作業台と食材の清潔管理。まな板は肉・魚・野菜で分けること。調理中は手洗いをこまめに。清潔が守れないと、味以前に食べられないものになります」


そのとき、杏子が手を挙げた。

「じゃあ先生、包丁持つ前にネイルは……?」


「禁止です」――間髪入れずに返され、杏子が「やっぱり」と肩を落とす。


翔子は指をさすりながらぼそっと言った。

「わかってるけど……痛いのは嫌だな」


「でも翔子ちゃんがちゃんと学んでくれたら、私も安心だよ」

実花が笑顔でそう言い、翔子は少しだけ表情を緩めた。

部室の空気が、また柔らかく戻っていった。


翔子は絆創膏の貼られた指先を見下ろし、軽く息をついた。

「……よし、リベンジだ」


まな板の上に包丁を置き、代わりにピーラーを手に取る。

シャッ、シャッ――レタスの芯を削ぎ落とし、葉をきれいに整えていく。

「これなら安全で速いじゃん」

思わず口にした言葉に、横から杏子が顔をのぞかせた。


「じゃあ私も飾り切りは別の日にしよ。今日はスピード重視!」

その宣言通り、杏子はパンのカットを手際よく進め、実花も具材をさくさく調味していく。


やがてテーブルの上には、具材たっぷりの彩りサンドがずらり。

「……よし、無事完成!」

翔子がそう言って笑うと、全員がほっと息をつき、達成感に満ちた空気が部室に広がった。


流し台で皿をすすぎながら、杏子がふと翔子の手元を見てニヤリとした。

「でもさ、指にバンドエイドつけて料理してると、なんか“プロっぽい”よね」


「いや、ケガはしない方がプロだ」

即座に返す翔子の真顔に、実花が笑いながら頷く。

「ほんとそれ」


部室には、洗い物の水音と三人の笑い声が混じり合い、夕方の柔らかな光が差し込んでいた。


【9話・サンド用具材下ごしらえ&安全調理レシピ】


佐伯先輩「今日は新歓サンドの具材切り。包丁の持ち方も再確認な」

翔子「任せて。…って、ちょっと急ぎすぎた」

杏子「あっ、血は映える色だけど…(口を押さえる)」

実花「はい救急箱! ほら、絆創膏と消毒」

佐伯先輩「ケガしたら即離脱。血は絶対に食材に触れさせない」


宮原先生「いい機会だから衛生の話を。包丁は猫の手、作業台は常に清潔。ネイルは禁止」

杏子「やっぱり…?」

宮原先生「当然」

翔子「もう痛いのは勘弁だな」

実花「翔子ちゃんが学んだら、私も安心だよ」


翔子「じゃあピーラーとキッチンばさみでいくか」

杏子「私も飾り切りは別の日にしよ」

実花「じゃ、具材揃ったし試作いこう!」


材料(サンド具材用・2〜3人分)


レタス 3枚


トマト 1個


きゅうり 1本


ハム 4枚


卵 2個(ゆで卵)


マヨネーズ 大さじ3


塩・こしょう 少々


手順


洗う:野菜は流水でよく洗い、水気をしっかり切る。


切る:安全第一。包丁は猫の手で。指を怪我している場合はピーラーやキッチンばさみを活用。


混ぜる:ゆで卵をつぶし、マヨネーズ・塩こしょうで味付け。


盛る:パンに具材をバランスよく並べ、サンドイッチにする。


杏子「でもさ、バンドエイドして料理すると“プロっぽい”よね」

翔子「ケガしない方がプロだ」

実花「ほんとそれ」







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