84. 打ち上げで後輩が涙のスピーチ
文化祭が終わったその夜。
料理部の部室には、差し入れのピザやジュース、お菓子の山が机いっぱいに並べられていた。
昼間の喧騒が嘘みたいに静まり返った校舎の中で、ここだけは明るい笑い声が響く。
「おつかれー!」
翔子が紙コップを高々と掲げる。
「完売って、最高の響きね!」
「……もう腕が棒だけどな!」
杏子が苦笑しながら、自分の肩をぐるぐる回して見せる。
その動作につられて部員たちが笑い、コップを合わせる。
プラスチックの軽い音がぱちんと重なり合い、なんだか胸の奥まで響いてくるようだった。
「ふふ、でも……達成感ってこういうことを言うんだね」
実花が静かに微笑み、炭酸ジュースを一口。
肩に残る疲れも、足の重さも、今は不思議と心地いい。
それよりも胸に広がるのは、やり遂げた者だけが味わえる甘い余韻だった。
「いやぁ……焼きそばの鉄板地獄は忘れらんねぇな!」
杏子がピザをかじりながら豪快に笑う。
「翔子先輩、まるで戦場の司令官だったもん!」
「ちょ、やめてよ……! 汗と煙で顔ぐちゃぐちゃだったんだから」
翔子は頬を赤らめ、ジュースでごまかすように口をつける。
「私はやっぱり、タコスの味直し大作戦かな」
実花が思い返すように言う。
「小さな違いでも積み重なると大きな差になる……でも、全部、みんなで力合わせたから乗り越えられたんだよね」
その言葉に、部室の空気が少し柔らかくなる。
後輩たちがぽつぽつと声をあげた。
「先輩たちが真剣に動いてくれてたから、私たちも必死についていけました」
「背中がすごく頼もしかったです!」
突然、椅子の音がぎこちなく鳴った。
立ち上がったのは、1年生代表の女子部員。両手をぎゅっと握りしめ、視線を床に落としたまま、震える声を絞り出す。
「わ、私たち……最初は不安でいっぱいで……」
部室の空気がすっと静まり返る。さっきまでの笑い声が嘘のように消え、みんなの視線が彼女に集まった。
「でも……先輩たちがいつも一緒にいてくれて……だから私たちも頑張れました」
言葉を重ねるごとに、彼女の声は涙でかすれていく。
「今日、全部売り切れたのも……2位になれたのも……ぜんぶ、みんなで掴んだ宝物です……」
そこで堪えきれなくなったのか、後輩の目からぽろりと涙がこぼれ落ちた。
水を打ったような静けさ。
その涙の一粒に、部員たちは言葉を失った。
胸の奥がじんわり熱くなる――そんな沈黙が、部室をやさしく包んでいた。
涙をこらえきれず、声を震わせる後輩の姿に、部室の空気はさらにしっとりとした温もりを帯びていく。
翔子は思わず口元をほころばせ、肩をすくめながら言った。
「もう……泣くなって! でも……正直、嬉しいわ」
杏子は照れ隠しのように頭をかき、「おいおい、泣かせにくるとか反則だろ!」と苦笑する。
けれどその目尻も、うっすらと赤く濡れていた。
実花はハンカチを取り出しながら、そっと微笑む。
「ほんとに……いい後輩たちに恵まれたね」
その言葉に、全員が小さくうなずいた。
じんわりと胸に染みるような温かさが部室全体を満たし、涙と笑顔が入り混じった空気の中で――料理部の絆は、より一層強く結ばれていった。
涙も笑いも一段落したあと、翔子が立ち上がり、グラスを高く掲げた。
その瞳は、文化祭の熱気をまだ残したまま、未来を真っすぐに見据えている。
「来年は、今年以上にすごい料理部を見せよう!」
力強い声が部室に響く。
次の瞬間、部員たちは一斉に拳を突き上げた。
「おーっ!!!」
歓声とともに、笑顔と涙が入り混じる。
その瞬間、ただの打ち上げではなく、確かに青春の一幕として心に刻まれていった。
窓の外にのぞく夜空は、どこまでも澄んでいる。
その星明かりが、料理部の未来を優しく照らしているようだった。
掛け合い:未来への決意
翔子:「来年は、今年以上にすごい料理部を見せよう!」
杏子:「おっしゃー! 次は売上1位、絶対取るぞ!」
実花:「ふふ、でも無理はしすぎないでね。みんなで楽しく頑張ろう」
後輩A:「来年も、先輩たちと一緒にやれるの楽しみです!」
後輩B:「今度は私たちが、先輩を支えます!」
翔子:「頼もしいわね……じゃあ、料理部の未来に!」
全員:「おーっ!!!」
(グラスを掲げ、笑顔と涙が混じる瞬間――青春の一幕が刻まれた)




