73. 夏休み特別活動①カレー合宿(後輩チーム対決)
夏の陽射しがまぶしく照りつける午後。
学校から少し離れた森の奥に建つ貸別荘風の合宿所に、料理研究部の面々は到着していた。木造の建物からは涼しい木の香りが漂い、隣には広々とした調理場まで備え付けられている。
「ふむ、いい環境だな。ここなら思い切り実験……いや、研究ができる」
顧問の先生が腕を組み、満足そうにうなずく。
そして一同を見回しながら高らかに宣言した。
「この夏休み特別活動として、“料理合宿”を正式に認める!」
「やったー!」
「合宿って響き、なんか青春っぽい!」
部員たちは一気にテンションが跳ね上がる。
そんな中、部長の翔子がすっと前に出る。
彼女は黒板代わりのホワイトボードに「合宿一日目」と書き、くるりと後ろを振り返った。
「今回の主役は――後輩チーム! 先輩たちは基本、審査員に回るわ」
「えっ!?」
「い、いきなりリーダーやれってことですか!?」
新入生たちの顔に驚きと不安が走る。しかし、翔子のまっすぐな視線に背中を押されるように、次第にやる気が火を灯した。
「……面白そうじゃん! やってみます!」
「よーし、俺たちのカレーで先輩たちを驚かせますよ!」
夏休み特別活動――“カレー合宿”。
料理研究部の新たな挑戦が、いま始まろうとしていた。
調理場に集まった後輩たちは、ホワイトボードを前に真剣な表情を浮かべていた。
翔子が「今回はチーム対抗でやってもらうわ」と告げると、空気が一気にピリッと引き締まる。
「それじゃあ、リーダーを決めるわね。男子チームは――あなた」
「え、俺ですか!? ……わ、わかりました!」
呼ばれた新入生男子は、緊張で声を裏返しながらも胸を張った。
「女子チームのリーダーは、あなたにお願いするわ」
「はいっ! 任せてください!」
対する新入生女子は、瞳を輝かせながら即答する。
こうしてチームが決まり、両陣営は早速“テーマ会議”へ。
「俺たちは王道でいこう! やっぱカレーといえばチキンだろ!」
Aチーム男子リーダーが拳を握ると、仲間たちも「確かに」「間違いない!」と頷いた。
一方、Bチームの女子リーダーは腕を組んでにやりと笑う。
「ふふん。王道に逃げるなんてつまらない! 夏なんだから、ズッキーニとかナスとかトマトを使って“夏野菜カレー”よ!」
「それいいですね! 隠し味に何を入れるかで差がつきそう!」
「ちょっと変わり種で、先輩たちの度肝を抜いてやろうじゃない!」
「王道か、個性か……これは面白い勝負になりそうね」
翔子が腕を組んで頷き、実花や杏子、真琴もそれぞれニヤニヤしながら審査員席に腰を下ろす。
「わたしたちは味見役か~! いっぱい食べられるのは嬉しいけど、責任重大だね!」
杏子の言葉に先輩たちが笑う。
こうして決定した。
Aチームは「王道チキンカレー」。
Bチームは「夏野菜カレー+隠し味」。
夏合宿の勝負の幕が、ついに切って落とされた――。
合宿所のキッチンは、朝からすでに戦場のような熱気に包まれていた。
ジュワァッと油の弾ける音、炒められる玉ねぎの香ばしい匂い、そしてスパイスの刺激的な香り――。
夏の強い日差しに加え、コンロの熱が加わり、まるでサウナのようだ。
Aチーム(王道チキンカレー)
「うわっ、玉ねぎが焦げそうだ!」
新入生男子リーダーが慌てて木べらをかき回す。
「もっとゆっくり! じっくり飴色になるまで我慢なんだって!」
仲間が横から声を張り上げるが、鍋の中ではすでに煙がちらほら。
「ひぃぃ……っ、飴色っていつなんだ!?」
先輩席から見ていた実花は、くすっと笑ってつぶやいた。
「がんばれ~、その先においしいカレーが待ってるよ!」
一方で鶏肉班は、下味付けに奮闘中。
「ヨーグルトに漬けると柔らかくなるんだって!」
「俺は塩麹派だな、旨味が段違いだ!」
「……じゃあ半分ずつやって食べ比べてみる?」
「それだ!」
真剣な顔で袋を揉む姿は、まるで部活の練習そのものだった。
Bチーム(夏野菜カレー)
「さぁ行くわよ! トマト! ナス! ズッキーニ! カラフル野菜の力を見せてあげる!」
女子リーダーが次々と野菜を切っては鍋に投入するたび、彩りが鮮やかに広がっていく。
「わぁ~、夏っぽい! 見た目がすでに華やかだね!」
横で手伝っていた仲間が感嘆の声を漏らす。
そこへ、どこからともなく杏子がひょっこり顔を出した。
「隠し味はチョコでしょ! カレーといえばチョコ!」
「えぇ!? そんなの入れたら甘すぎちゃうじゃん!」
「いやいや、案外コクが出るんだってば!」
「……やめて、うちの勝負カレーをお菓子鍋にしないで!」
女子リーダーが慌てて鍋をガードし、杏子は「ちぇーっ」と舌を出して退散。
キッチン全体は、もうカオスそのものだった。
玉ねぎの香ばしさ、揚げ焼きされた鶏肉の香り、野菜の甘酸っぱさ……そしてスパイスの刺激。
それらが入り混じり、合宿所はまるで巨大なカレー屋になったかのよう。
翔子は腕を組み、じっと両チームの奮闘を見守っていた。
「ふふ……やっぱり料理は熱気と勢いね」
真琴はスマホを構えながら微笑む。
「この混沌……映えるわね」
後輩たちの真剣な表情とドタバタな声が、夏の空気に溶けていった。
テーブルの上に、2つのカレーが並べられた。
左には湯気を立てる黄金色の 王道チキンカレー。
右には彩り鮮やかな 夏野菜カレー。
「さぁ、先輩たち! 審査お願いします!」
後輩たちがゴクリと喉を鳴らし、視線を注ぐ。
Aチームのカレー
翔子がスプーンを手に取り、王道カレーを一口。
「……うん。飴色玉ねぎの甘みと鶏肉のジューシーさがよく出てる。まさに定番の安心感ね」
実花も続けてパクリ。
「うわ、これ毎日食べたい! ヨーグルト漬けの肉、すっごく柔らかい~」
「よっしゃあ!」
Aチームが思わずガッツポーズ。
Bチームのカレー
次は夏野菜カレー。
真琴がスプーンを差し込み、スマホで写真を撮ってから口へ運ぶ。
「……! トマトの酸味とズッキーニの甘さが爽やか。見た目も華やかだし、これは絶対SNS映えする」
杏子は頬張りながらにっこり。
「うんまっ! 夏のエネルギーが詰まってる感じ!」
Bチームは「やった!」と顔を見合わせ、互いの手を叩き合った。
だが――評価は割れた。
「毎日食べるならAかな」
「でも文化祭の出し物ならBのほうがインパクトあるよね」
意見が分かれ、場がざわつく。
そこで翔子が口を開いた。
「……どちらも文化祭で出せるレベルよ。ただ大事なのは――“誰に届けたいか”を考えること」
「誰に……?」
後輩たちは首をかしげる。
「そう。家族連れ? 学生仲間? それともSNSで写真を撮りたい人たち? 届けたい相手によって、正解は変わるわ」
真剣な眼差しに、後輩チームは一斉に「なるほど!」と声を上げた。
こうして、ただの勝敗ではなく「ターゲットを意識した料理づくり」という新たな学びを得たのだった。
夕暮れの合宿所。
カレー鍋はすっかり減っていたが、まだおかわりを求めて列ができていた。
「おかわりー!」
杏子が真っ先に手を挙げる。皿に山盛りのご飯をよそい、豪快にカレーをかけて笑った。
「やっぱりカレーは無限に食べられるんだよね!」
「杏子先輩、今日もう三杯目ですよ!」
新入生女子が苦笑しつつも、スプーンを止められない。
みんなでワイワイ言い合いながら囲む食卓。
スパイスの香りと笑い声が、夏の夜の空気に溶けていく。
外に出れば、澄んだ夜空に星が広がっていた。
真琴がカメラを構え、シャッターを切る。
「……こういう時間も青春、だよね」
カメラの液晶に映る光の粒を見つめ、彼女はぽつりとつぶやいた。
翔子は腕を組んで、後輩たちの楽しげな姿を見渡す。
「後輩が育ってくれて、本当に頼もしいわ」
その横顔は、普段の厳しさとは違い、どこか柔らかい。
「ねえ、次はどんな特別活動になるんですか?」
新入生男子の問いかけに、先輩たちが顔を見合わせる。
実花がニヤリと笑った。
「ふふっ、それはお楽しみでしょ」
カレーの鍋を囲む輪はいつまでも途切れず、夏休みの合宿は温かな余韻を残したまま夜更けへと続いていった。
カレー合宿レシピ掛け合い会
Aチーム(王道派)
新入生男子:「よし、王道のチキンカレーでいこう!玉ねぎをじっくり炒めて、甘みを出すのが基本だ!」
杏子:「じっくりって、どれくらい?」
新入生男子:「最低でも20分!あめ色になるまで!」
実花:「でも焦げやすいから、火加減は弱めね」
Bチーム(変わり種派)
新入生女子:「こっちは夏野菜カレーよ。トマト、ナス、ズッキーニを入れて彩りアップ!」
真琴:「映えポイントはそこね。写真にしたら絶対かわいい」
杏子:「で、隠し味はチョコ?それともコーヒー?」
新入生女子:「むしろ味噌とか、和風に寄せてみるのもアリじゃない?」
翔子:「隠し味は“入れすぎない”ことがコツ。個性は控えめに活かすのよ」
調理アドバイス
Aチーム:鶏肉は塩麹かヨーグルトに漬けると柔らかくなる
Bチーム:夏野菜は炒めすぎず、食感を残すのがポイント
杏子:「え、もう勝負決まったでしょ。だって……カレーは全部おいしいから!」
全員:「それ言ったら元も子もないー!」
Aチーム:王道チキンカレー
材料(4人分)
鶏もも肉 … 400g
玉ねぎ … 2個
人参 … 1本
じゃがいも … 2個
ニンニク … 1かけ
生姜 … 1かけ
サラダ油 … 大さじ2
カレールウ … 1/2箱(約100g)
水 … 600ml
【下味用】塩麹(大さじ2)またはヨーグルト(大さじ3)
作り方
鶏肉を一口大に切り、塩麹またはヨーグルトに30分ほど漬け込む。
玉ねぎを薄切りにし、弱火で20分ほど炒めてあめ色にする。
ニンニクと生姜を加えて香りを出す。
人参・じゃがいもを加え、軽く炒めたら水を加えて煮る。
鶏肉を投入し、火が通ったらルウを割り入れて溶かす。
とろみがついたら完成!
ポイント:玉ねぎをしっかり炒めることで甘みと深みが出る。
Bチーム:夏野菜カレー
材料(4人分)
玉ねぎ … 1個
トマト … 2個
ナス … 1本
ズッキーニ … 1本
パプリカ … 1個
ニンニク … 1かけ
サラダ油 … 大さじ2
カレールウ … 1/2箱(約100g)
水 … 500ml
【隠し味】チョコレート(1かけ)or 味噌(小さじ1)
作り方
夏野菜を食べやすい大きさに切る。トマトはざく切り。
玉ねぎとニンニクを炒め、トマトを加えて水分を飛ばす。
水を入れ、煮立ったらカレールウを加える。
ナス・ズッキーニ・パプリカを炒めてから加える(食感を残す)。
隠し味を最後に加えて味を整え、完成!
ポイント:野菜は煮すぎない。彩りを残すと映え度UP。




