72. 翔子、唐揚げ揚げすぎて完売危機
家庭科室には、またしても油のはぜる音と香ばしい匂いが満ちていた。
夏祭り出店の熱気がまだ冷めやらぬ一週間後、料理研究部は次なる試練――文化祭に向けた“仕込み練習”に取り組んでいた。
「文化祭は夏祭りよりも客数が多いの。だから今日のテーマは“効率的な唐揚げの大量調理”!」
気合十分な翔子がエプロンの袖をまくり、トングを握る。
彼女の手際は、まるで業者の厨房さながら。鶏肉を下味に漬け、粉をまぶし、油の中へ投入。その一連の流れをノンストップで繰り返す。
「すごい……!」
「さすが翔子先輩、プロの動き!」
部員たちは目を輝かせながら、そのスピードに感嘆の声を上げる。
油面から弾けるパチパチという音が、次第に部室全体を包み込んでいく。
黄金色に揚がった唐揚げが次々とバットの上に積み上がっていき――その光景は、まるで“唐揚げの山脈”が形成されていくかのようだった。
翔子は汗をぬぐいながら、満足げにうなずいた。
「この調子なら、文化祭当日も完璧に回せるはず!」
部員たちは一斉に拍手。
「おおー!」
「頼もしすぎる!」
……その時は、まだ誰も知らなかった。
この“業務用スピード”が、やがて小さな事件を招くことになるということを――。
気付けば、家庭科室の作業台いっぱいに唐揚げが積み上がっていた。
バットからあふれんばかりの黄金色の山。熱気と匂いで、教室全体が“唐揚げ屋台”と化している。
「……翔子先輩、これ……何人分ですか?」
トングを持つ手を止めた実花が、呆然とした表情で問いかけた。
「え?」翔子は首をかしげる。「まだ半分よ!」
その一言に、部員たちが一斉に固まった。
「「「は、半分……!?」」」
バットに山積みの唐揚げ。さらに調理待ちの鶏肉が机の端に整列している。
これ以上揚げ続けたら――まさに唐揚げの雪崩。
「だって、効率化を意識すると手が止まらなくて……」
翔子は涼しい顔で次の肉を油に投入しようとする。
「ま、待ってください!冷蔵庫も保存容器も、もうパンパンですよ!」
新入生男子が慌てて冷蔵庫の扉を押さえ込む。中では既にぎゅうぎゅう詰めの唐揚げが、詰め込みすぎの本を押し返すようにぎしぎし音を立てていた。
「はふっ、あちっ……でも、美味しいから止まらない……!」
その横で杏子は汗をかきながらも試食を続けている。しかし、いくら食べても山はびくともしない。
「このままじゃ……売り物になる前に部室が唐揚げで埋まっちゃう!」
実花が悲鳴を上げると、部員たちは顔を見合わせ、状況の深刻さにようやく気づいた。
文化祭のシミュレーションが、まさかの“唐揚げ完売危機”に直面するなんて――誰が想像できただろうか。
「このペースだと……文化祭前に“完売”しますよ!」
新入生男子が叫ぶようにツッコミを入れる。
「ちょ、ちょっと待って。“完売”って……まだ文化祭始まってすらないのに!?」
実花が顔を青ざめさせる。
「映え写真にするにしても……量が多すぎるわ!」
真琴はスマホを構えながら嘆息した。レンズの中に収まりきらない唐揚げの山。まるで異世界のモンスターの巣窟だ。
揚げたての香ばしい匂いが部室を埋め尽くし、換気扇を回してもまったく追いつかない。
すると――。
「ねえ、なんかいい匂いしない?」
「唐揚げだ!絶対唐揚げ!」
隣のクラスから、ひょっこり顔を出す生徒たちが現れ始めた。鼻をひくひくさせ、まるで誘われるように家庭科室へ。
「うわぁ!ほんとに唐揚げだ!」
「すげー!山盛りじゃん!」
気づけば教室の前には小さな人だかりができていた。
部員たちは顔を見合わせ、苦笑い。
「……これ、もうプチ試食会になっちゃってるわね」
翔子が額に手を当てる。
「いただきまーす!」
見学に来た生徒が一口かじり、「あっつ!でもうまっ!」と笑顔になる。
その瞬間、唐揚げの山は“文化祭シミュレーション”から“突発イベント”へと変貌した。
部員たちは慌てながらも、次々と押し寄せる「お客さん」たちに唐揚げを渡す羽目になっていくのだった。
「……仕方ないわ」
腕を組んでいた翔子が、ふっとため息をつきつつも決断した。
「今日は“効率的に揚げる練習日”じゃなくて――“食べ切る練習日”に変更!」
「食べ切る……練習!?」
実花が目を丸くする。
「要するに、唐揚げのアレンジメニューを試してみるのよ。売るだけじゃなく、どう減らすかも練習に入れればいい」
翔子の提案に、部員たちの顔が一気に輝いた。
「なるほど! じゃあ私は唐揚げ丼!」
新入生男子がご飯をよそい、揚げたて唐揚げを豪快にのせる。
「私はサラダにしてみるわ。レタスとトマト、マヨネーズで彩りプラス!」
真琴がテーブルを華やかに整えながら盛り付ける。
「じゃあ私は唐揚げサンド! パンに挟んでみよっと!」
実花はふわふわの食パンを取り出し、唐揚げを挟んで「ジャンキーだけど最高!」と笑った。
アレンジが進むたびに、部室は屋台どころかファミレス状態に。
テーブルには唐揚げを使った色とりどりの“試作料理”がずらりと並んでいく。
「うわー、どれから食べよう!」
新入生女子が目を輝かせる。
その中で――。
「やっぱ唐揚げ最強!」
杏子は丼もサンドもサラダも、次から次へと平らげていく。頬いっぱいに詰め込みながらも、笑顔で親指を立てた。
「杏子先輩……まさか今日だけで売上分を一人で消費する気ですか……?」
新入生男子の冷静なツッコミに、部室は爆笑の渦に包まれた。
こうして“唐揚げ揚げすぎ事件”は、まさかの“唐揚げフェスティバル”へと変わっていくのだった――。
――夕方。
部室のテーブルの上は、空になった丼と皿の山。
そしてその周りには、唐揚げを食べ尽くした部員たちがぐったりと沈んでいた。
「……もう一個も入らない……」
実花が机に突っ伏しながら呻く。
「唐揚げサンド三つは、やりすぎだったかも……」
真琴もスマホを置いたまま、完全に戦闘不能。
唯一、杏子だけがまだ余韻に浸るように満足げな顔。
「はぁ~……幸せ……」
その様子を見て、翔子は小さく咳払いをした。
「……次は、“計画的に揚げる”練習をするわ」
「ですよね!」
新入生男子が即座に頷き、実花が苦笑しながら追い打ちをかける。
「翔子先輩も、いったん熱中すると止まらないんですよね」
「っ……!」
言い返せずに目を逸らす翔子。
その姿に、堪えていた部員たちがついに爆笑。
「アハハハハ!」「確かに!」
唐揚げの香りと笑い声が、夏の夕暮れの部室にいつまでも響いていた。
――準備も大事。効率も大事。
でも何より大事なのは、この“青春のドタバタ”そのものかもしれない。
レシピ掛け合い:唐揚げアレンジ編
翔子:「基本の唐揚げは鶏もも肉を一口大に切って、醤油・酒・にんにく・生姜で下味をつける。まずはここから」
実花:「漬け込み時間はどのくらいですか?」
翔子:「最低でも30分。理想は一晩。文化祭本番では時間がないから、午前に仕込んで午後に揚げる感じね」
杏子:「はやく揚げて~!もうお腹が鳴ってるんだけど!」
真琴:「写真用に盛りつける分は残しておいてよ?」
新入生男子:「よし、まずは片栗粉で衣をつけて……って、翔子先輩、何キロ分仕込んでるんですか!?」
翔子:「十人前くらい……のつもりが、気づいたら三十人前になってたわ」
実花:「完全に揚げすぎですって!」
杏子:「じゃあ、食べ切るしかないね!」
翔子:「待ちなさい。せっかくだからアレンジするわよ。唐揚げ丼、唐揚げサラダ、唐揚げサンド!」
真琴:「いいじゃない。丼はレタス敷いて唐揚げ乗せ、マヨと甘辛タレをかければ映える」
新入生男子:「サラダは一口サイズに切って、ポン酢ドレッシングでさっぱり……」
杏子:「サンドはパンにレタスとマヨと一緒に挟めば最強!」
実花:「……って、どんどんバリエーション増えてません?」
翔子:「これも研究の一環よ」
部員たち全員:「結局食べすぎる流れじゃん!」
① 唐揚げ丼(ガッツリ系)
材料
唐揚げ … 好きなだけ
ごはん … 丼1杯分
レタス … 1枚(千切り)
マヨネーズ … 適量
甘辛タレ(醤油・砂糖・みりん各大さじ1を煮詰める)
作り方
丼にごはんを盛り、レタスをのせる。
唐揚げをのせ、甘辛タレをかける。
マヨをかければ完成!
② 唐揚げサラダ(さっぱり系)
材料
唐揚げ … 3~4個(一口大に切る)
レタス・トマト・きゅうりなど … 好きなだけ
ポン酢 … 大さじ2
ごま油 … 小さじ1
作り方
野菜を食べやすい大きさに切って皿に盛る。
唐揚げをのせ、ポン酢+ごま油を回しかける。
お好みで七味をふっても◎
③ 唐揚げサンド(映え系)
材料
唐揚げ … 2個
食パン(またはバンズ) … 2枚
レタス … 1枚
マヨネーズ … 適量
作り方
食パンをトーストする。
レタス・唐揚げをはさみ、マヨをかける。
ラップで包んで半分に切ると映える!
まとめ
唐揚げ丼 → がっつり派に人気
唐揚げサラダ → さっぱり派に人気
唐揚げサンド → 手軽で持ち歩き◎




