71. 商店街夏祭り出店(かき氷&唐揚げ)
蒸し暑い夏の午後。家庭科室に、顧問の先生がプリントを持って入ってきた。
「商店街からのお誘いよ。夏祭りに、部活ごとで屋台を出してほしいんだって」
その一言に、部員たちの目が一斉に輝いた。
「夏祭り!?」
「屋台!? マジで!?」
「え、部活動で参加できるんだ!」
ざわめきの中、冷静に眼鏡を押し上げる翔子が口を開く。
「……これは文化祭のシミュレーションにうってつけね」
部員たちがピタッと静まり返る。彼女の分析は、いつだって核心を突いていた。
「夏祭りという実戦の場で、調理の段取り、接客の流れ、材料管理……全部試せる。文化祭前にこれほどの実地経験はないわ」
その真剣な口調に、逆にワクワクが倍増する。
「で、何を出す?」
実花が身を乗り出すと、すぐに案が飛び交う。
「夏といえばかき氷でしょ!」
「いやいや、ガッツリ系も欲しいって!唐揚げとか!」
議論の末、両方採用に決定。
「出し物は――手軽で夏らしい“かき氷”と、ボリューム満点“唐揚げ”!」
翔子が黒板に大きく書き出した瞬間、部員たちのテンションは最高潮に達した。
「やったー!お祭りだー!」
「氷ガリガリ係やりたい!」
「唐揚げ揚げまくるぞ!」
家庭科室に歓声が響き、夏の青春イベントが幕を開けた――。
夏祭り前日の家庭科室。窓の外では蝉が鳴き、扇風機が回る中、部員たちはまるで本格的な屋台チームのように動き始めていた。
「まずはかき氷のシロップからね!」
実花が両手を腰に当てて元気よく宣言する。机の上には色とりどりの材料が並んでいた。市販のシロップだけでなく、フルーツや砂糖、抹茶の粉までそろっている。
「どうせなら手作りシロップに挑戦してみようよ!」
実花の提案に、真琴がスマホで調べながら補足する。
「果汁を煮詰めれば、写真映えも抜群ね。いちごの赤とか、ブルーハワイの青なんてSNS的に最強じゃない?」
鍋から漂ってくる甘酸っぱい香りに、新入生たちは「わぁ、ジャム作ってるみたい!」と目を輝かせた。
一方、唐揚げ班では別の熱気が立ち込めていた。
「よし、こっちはニンニク醤油ベースで!」
「いやいや、塩麹で柔らかさ勝負!」
二つのボウルに漬け込まれた鶏肉が、ジュワッと油に投入される。家庭科室中に香ばしい香りが広がり、腹の虫が騒ぎ出す。
「……あ、うまっ! やば、これ止まんない!」
案の定、杏子が試食係に収まり、アツアツを次々と口へ運んでいた。
「杏子先輩、それもう“試食”じゃなくて“本食”です!」
新入生男子がツッコミを入れるが、杏子は笑顔でごまかす。
そんな様子を横目に、翔子は冷静に黒板へメモを書き込む。
「当日は大量調理だから、“段取り”の練習も必要よ。氷を削る係、シロップをかける係、唐揚げを揚げる係……役割分担を今のうちに決めておきましょう」
部員たちは思わず姿勢を正す。夏祭りを楽しむだけじゃなく、これは文化祭へつながる“実戦訓練”。その意識が、家庭科室の空気を少しだけ引き締めた。
夏の夕暮れ、商店街には提灯が灯り、浴衣姿の人々でごった返していた。
通りの一角、特設テントに「家庭料理研究会」の屋台が堂々と並ぶ。
「いらっしゃいませー! 冷た~いかき氷、揚げたて唐揚げどうですかー!」
杏子が法被をひらひらさせながら、まるでベテラン屋台店主のような声を張り上げる。
氷を削るゴリゴリという音が響くたび、子どもたちが「ブルーハワイ!」「いちごー!」と駆け寄ってくる。
実花がカラフルなシロップをかけると、「わぁ!」と歓声が上がり、小さな手に渡っていった。
一方で、唐揚げの屋台からはジュワッと油が弾ける音。
揚げたてを紙コップに入れて差し出すと、浴衣姿の大人たちがビールを片手に「これ、うまっ!」と頬をほころばせた。
「やっぱ夏祭りといえば唐揚げだよなぁ」
「子どもはかき氷、大人は唐揚げ、いい分担ね」
翔子は調理しながら冷静に状況を分析していた。
そんな中、真琴はスマホを片手に、次々と写真を撮影。
氷の山に滴るシロップ、湯気の立つ唐揚げ、笑顔で商品を受け取るお客さん――。
「よし、これをリアルタイムで拡散っと!」
彼女の指先が画面を叩く。
《#夏祭り #冷たい #揚げたて #青春屋台》
投稿ボタンを押した瞬間、すでに通知が鳴り始めていた。
「すごっ! もう“いいね”来てる!」
新入生女子が目を輝かせる。
賑やかな呼び込み、漂う香り、SNSに広がっていく情報。
屋台の前には、いつしか小さな行列ができていた――。
「……あれ? 氷が出ない!?」
実花の声に、屋台の空気が一瞬止まった。
かき氷機のレバーをガチャガチャと動かすが、刃が空回りするだけで氷は削れない。
「ど、どうしよう! 子どもたち、並んでるのに!」
実花が半泣きで振り返る。
「落ち着いて。氷の入れすぎよ」
翔子が冷静に氷室をのぞき込み、手際よく量を調整する。
ガリッ――と音が戻り、再び白い氷片がふわふわと受け皿に積み上がった。
「わぁ! 出た出た!」
子どもたちが目を輝かせる中、実花は胸を撫で下ろす。
「ほっ……文化祭前に心臓止まるかと思った……」
一方その頃――。
「唐揚げ追加いきまーす!」
油の弾ける音に混じって、杏子が紙コップを次々と差し出す。
しかし、唐揚げの山はみるみる減っていく。
「ちょ、ちょっと待って! あと二回揚げたら材料なくなる!」
翔子が青ざめて叫んだ。
「えっ!? もう!?」
新入生男子が慌てて周囲を見渡す。
「よし、買い出し班、走って!」
掛け声とともに数人が汗だくで商店街のスーパーへ駆け出した。
残ったメンバーは必死で屋台を回し、呼び込みの声もさらに大きくなる。
「いらっしゃいませー! 今揚げてます! もうすぐ追加できます!」
バタバタと走り回る足音、飛び交う声、笑いと焦りが入り混じる空気――。
でもその混乱さえも、まるで青春の一場面のように、きらめいていた。
夜空に色鮮やかな提灯が灯り、祭りの喧騒がいっそう華やかさを増していた。
汗と油にまみれた一日の屋台も、ついに「完売御礼」の札を下げる。
「やったー! 完売!」
真琴が両手を広げて叫ぶと、部員たちから歓声が上がった。
「ふぅ……立ちっぱなしで腰が砕けそう……でも楽しかったー!」
実花が椅子に座り込む。頬は疲れているはずなのに、笑顔はまぶしかった。
翔子は片付けを終えた手で額の汗をぬぐいながら、満足げに頷いた。
「今回の経験、文化祭の本番に必ず活きるわ。人の流れも、調理の段取りも、ぜんぶ勉強になったもの」
「そうそう!」杏子は唐揚げの空のトレイを恨めしそうに眺めながら言う。
「でも……やっぱりもう一回、唐揚げ食べたい! 揚げたてのやつ!」
「食欲だけは祭りが終わっても衰えないのね」
翔子が苦笑すると、周囲からどっと笑いが起こった。
その後、残った氷とシロップを使って、皆で小さな打ち上げ。
「乾杯ー!」と紙コップに山盛りのかき氷を掲げ、口いっぱいに冷たさを頬張る。
――パァンッ、と夜空に大輪の花火が咲いた。
「わぁ……!」新入生たちが見上げ、瞳を輝かせる。
唐揚げの香り、シロップの甘さ、浴衣姿で行き交う人々のざわめき。
すべてが混じり合い、この夏だけの一枚の思い出となる。
「……青春って、こういうことかもね」
誰かがぽつりと呟いたその言葉を、夜風がやさしくさらっていった。
商店街夏祭り出店 ― レシピ掛け合い編
【舞台:家庭科室、仕込みの最中】
実花:「かき氷シロップ、どうする? 既製品もあるけど……やっぱり手作りしてみたいよね!」
翔子:「果汁を煮詰めれば、オリジナルの“いちご”や“ブルーハワイ風”が作れるわ。コストはちょっと上がるけど、祭りで差別化できる」
新入生女子:「わー!手作りシロップとか、めっちゃ映えそうです!」
杏子(ボウルを覗き込みながら):「それなら私は唐揚げ担当で!ニンニク醤油ベースと塩麹ベース、どっちが人気出るかなぁ」
新入生男子:「唐揚げって大量に揚げると難しいんですよね。温度が下がるとカリッとならないし」
翔子:「そう。だから二つの鍋で揚げて、交代で油を休ませるのがポイント。段取り勝負よ」
真琴(スマホを構えながら):「“手作りシロップのかき氷と二種の唐揚げ”……もうハッシュタグが見えてる。#冷たい #揚げたて #夏祭り青春」
杏子(つまみ食いしつつ):「うん!こっちの塩麹、めっちゃ柔らかい!でもニンニク醤油も食欲そそるなぁ……両方やろう!」
実花:「結局、全部食べたいだけじゃん!」
(全員大笑いしながら、夏祭りへ向けて仕込みが進んでいく――)
かき氷シロップ(手作り版)
材料(各約4~5杯分)
いちご:200g(冷凍でも可)
砂糖:80g
水:100ml
レモン汁:小さじ1
ブルーハワイ・メロンは色シロップを加えて同じ手順でOK。抹茶は粉末+砂糖+水で溶かして使う。
作り方
小鍋にいちご・砂糖・水を入れ、中火で煮る。
果実が柔らかくなったら潰しながら煮詰める。
レモン汁を加えて混ぜ、粗熱を取って冷蔵保存。
唐揚げ(ニンニク醤油ベース)
材料(4人分)
鶏もも肉:500g
醤油:大さじ3
酒:大さじ2
おろしにんにく:小さじ1
おろし生姜:小さじ1
片栗粉:適量
揚げ油:適量
作り方
鶏肉を一口大に切る。
醤油・酒・にんにく・生姜に20分漬け込む。
片栗粉をまぶし、180℃の油で揚げる。
二度揚げするとカリッと仕上がる。
唐揚げ(塩麹ベース)
材料(4人分)
鶏もも肉:500g
塩麹:大さじ3
酒:大さじ1
ごま油:小さじ1
片栗粉:適量
揚げ油:適量
作り方
鶏肉を一口大に切る。
塩麹・酒・ごま油で30分漬け込む。
片栗粉をまぶして揚げる。
麹効果でふっくら柔らかく仕上がる。
文化祭・夏祭りのポイント
かき氷は「手作りシロップ+市販シロップ」の二本立てにすると回転が早い。
唐揚げは2種を「ハーフ&ハーフ盛り」で提供すると人気メニュー感が出る。




