68. SNS班(真琴)による宣伝撮影会
家庭科室の片隅に、小さな撮影スタジオが出現した。
調理台の上には、試作したばかりの焼きそばとタコス。皿の上で立派に完成したそれらを前に、真琴はスマホを構え、テーブルライトと即席のレフ板を巧みに配置していく。
「はい注目! いい? ただ並べて撮るだけじゃダメ。“食べたい!”って思わせなきゃ意味ないの」
きりっとした口調で宣言する真琴。まるで家庭科室がスタジオに早変わりしたような緊張感が漂う。
「「「おお……プロっぽい!」」」
エプロン姿の部員たちが、カメラマン顔負けの手際に思わず声を上げる。
湯気を上げる焼きそば、色鮮やかなタコス――その一皿一皿が、これからレンズ越しに“文化祭の武器”へと変わろうとしていた。
「じゃあ、あたしも撮ってみよっか」
杏子がスマホを構え、気軽にパシャリ。
だが画面に映った写真は――なんとも微妙。暗くて彩りが沈み、タコスの鮮やかな野菜も焼きそばのソース色も台無しだ。
「……なんか、給食っぽい?」
杏子が眉をひそめると、周りの部員も首をかしげた。
「ほらね、だから言ったでしょ!」
真琴がすかさず身を乗り出す。スマホ画面を指さしながら、プロの講師のような口調で告げた。
「食べ物は光で八割決まるの!照明が足りなきゃ、どんな美味しい料理も“映え”にならないのよ!」
その真剣な声に、部員たちは一斉に「へぇぇ……」と感嘆の声を漏らす。
料理研究の場だった家庭科室が、一瞬で“映え写真講座”の教室に変わっていた。
「よーし、撮るぞ!」
杏子がスマホを掲げ、勢いよくシャッターを切った。
――パシャリ。
画面に表示されたのは、どんよりした照明の下で色味がくすんだタコスと焼きそば。
本来の鮮やかさはどこへやら。まるで給食の献立を記録したような無愛想な写真になっていた。
「……なんか、給食っぽい?」
杏子が首をかしげると、周りの部員も「確かに……」と苦笑。
すると、真琴がすかさず前へ出た。腕を組み、スマホ画面を覗き込みながら宣言する。
「ダメダメ!これじゃ食欲ゼロ!」
「いい?食べ物は光が命なの。照明で八割決まるって言っても過言じゃないんだから!」
真琴の熱のこもった言葉に、部員たちは「おおっ」と一斉に目を丸くした。
家庭科室が、一瞬にして“映え講座”の教室に変わった瞬間だった。
「見てなさい」
真琴が腕まくりし、トルティーヤを手に取った。
彼女はさっと角度を変え、三角形を描くように皿に立てかける。中からのぞくレタスの緑、トマトの赤、肉のジューシーな色合いが鮮やかに浮かび上がった。
次に焼きそば。真琴は紅ショウガをちょこんと添え、あたかも“映えスポット”を決めるかのように位置を調整する。
「最後の仕上げは背景ね」
家庭科室の壁に貼られた文化祭クラブの手作りポスターを、あえて少しぼかして写り込ませる。
――料理と日常がリンクした一枚にするための計算だ。
真琴がスマホを構え、シャッターを切る。
画面に浮かび上がったのは――まるでグルメ雑誌から切り抜いたかのような一枚。
「うわっ、全然違う!」
新入生女子が声を上げ、思わずスマホを覗き込む。
「写真一枚でこんなに印象が変わるのね……」
翔子が感嘆のため息を漏らす。
真琴は得意げにウインクした。
「ふふ、これがSNS班の本気よ」
「写真が揃ったら――次はキャッチコピーよ!」
真琴が黒板を指でコンと叩いた。
部員たちは机を囲んで、まるで作戦会議。
スマホに映る“映え写真”を見ながら、アイデアを次々に飛ばす。
「えっと……“青春の味!文化祭タコス”とか?」
実花が恥ずかしそうに言うと、
「お、いいじゃん!なんか甘酸っぱそう!」
新入生男子がすかさず反応。
「なら私は――“ソースの魔力!焼きそばバズーカ!”!」
杏子が両手を広げ、ノリノリで叫ぶ。
「な、なにそれ!」
教室に笑いが弾ける。新入生女子はお腹を抱え、翔子は呆れ顔でメモをとっていた。
「……まあ、勢いは認めるけど」
翔子が咳払いしながらまとめる。
「大事なのは、“食べてみたい!”って直感させること。そして“シェアしたくなる”響きにすることよ」
「たしかに!」
真琴が頷き、ペンを走らせる。
“かぶりつけ、青春タコス!”
“鉄板から青春直送!焼きそば屋台!”
黒板に次々と候補が書かれていく。
部室は勉強会というより、文化祭前夜の作戦会議のようにワイワイと盛り上がった。
そして最後に、みんなの視線が一枚の言葉に集まる。
「……これだ!」
――文化祭宣伝コピー誕生の瞬間だった。
「よし――じゃあ、投稿するわよ!」
真琴がスマホを高く掲げ、決戦ボタンをタップ。
SNSの画面には、雑誌のグラビアのように映えるタコスと焼きそばの写真が並んでいた。
数分後――。
「……きた! いいね入った!」
新入生女子がスマホを覗き込み、歓声を上げる。
「“美味しそう!”だって!」「コメントがもう十件!」
わいわいと画面を囲む部員たち。
翔子は腕を組み、感心したように呟いた。
「研究の成果を、こうやって広めていくのも……文化祭の一部なのね」
「その通り!」
真琴が人差し指を突き上げる。
「宣伝もまた、“戦い”なのよ!」
「「「おおーーっ!!」」」
家庭科室に響き渡る大合唱。
料理班とSNS班――それぞれの努力が重なり、文化祭プロジェクトはさらに大きなうねりとなって動き始めていた。
レシピ掛け合い会(SNS宣伝版)
真琴:「いい?レシピは“作り方”じゃなくて、“食べたい!”を誘う言葉で伝えるの」
杏子:「じゃあ、焼きそばは――“ジュワッとソース、青春の鉄板BGM!”」
実花:「なにそのノリ……でも、ちょっと美味しそう」
翔子:「私は真面目に。“屋台直送!香ばし麺の黄金比”でどうかしら」
真琴:「うん、フォーマルとポップ、どっちもSNS的にアリね」
実花:「タコスは、“モチ×香ばし!二つの粉の奇跡”とか?」
杏子:「もっとインパクト欲しくない?“片手で世界旅行!文化祭タコス”!」
真琴:「あ、それいい!シェアボタン押したくなる!」
翔子:「……私はやっぱり簡潔に。“青春の文化祭タコス”」
杏子:「シンプルすぎ!でも逆に伝わるかもね」
真琴:「よし決定。写真と一緒に流せば、“映える”+“食べたい”で最強になるわ!」
部員たち:「おおーー!」
文化祭SNS投稿例
ソースの魔力!焼きそばバズーカ!
鉄板から広がる香ばしい香り。
青春の味、ここに完成!
片手で世界旅行!文化祭タコス!
モチっと香ばしいトルティーヤに、
色鮮やかな具材をぎゅっと包みました。
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別パターン
屋台直送!黄金比焼きそば!
ソースの香りが広がった瞬間、気づけば行列――!?
モチ×香ばし=奇跡のタコス!
“手に持てるごちそう”を、ぜひどうぞ!
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