65. メニュー会議で意見が割れる(焼きそばorタコス)
家庭科部の部室。
黒板には大きくチョークで書かれた文字――
「文化祭出店候補:焼きそば/タコス」
白い粉のかすがまだ宙に舞っていて、部屋の空気にちょっとした緊張感が走る。
「カレーは決まりとして、もう一品をどうするかだけど……」
実花がチョークを持ったまま振り返ると、部員たちの視線が一斉に集まる。
「庶民派なら焼きそばでしょ!屋台の定番だし!」
机に手をバンッと置いて、杏子が即答する。口元には得意げな笑み。
「でも、他のクラスも被る可能性大よ」
翔子は腕を組み、冷静な口調で反論する。「個性を出すならタコスの方がいい」
「タコス……?」
新入生たちが首をかしげると、部室の空気がじわりと熱を帯び始めた。
焼きそばか、タコスか。
――文化祭のもう一品を巡って、意見のぶつかり合いが始まろうとしていた。
「大鍋で炒めれば大量生産できる! 調理も早いし、文化祭といえば焼きそばでしょ!」
杏子は勢いよく身を乗り出し、机をドンッと叩いた。彼女の声にはもう確信しかない。
「そ、ソースの匂いって……文化祭の雰囲気そのものですよね!」
新入生男子がすかさず同調する。目を輝かせて、まるで焼きそばの湯気を想像しているかのようだ。
「そうそう!あの香ばしい匂いで人を呼び込めるし、腹ペコな人を一瞬で惹きつけられるのよ!」
杏子はさらに力説する。両手を大きく広げ、焼きそばの波を空中で炒めるかのようにジェスチャーを加えた。
実花も頷きながら言葉を添える。
「手間が少ないのも魅力だね。材料を切って炒めるだけだし、提供も回転率も良さそう」
「でしょ!? もう決まりでいいんじゃない?」
杏子の声が弾む。
ソースの匂い、鉄板のジュワァッという音、そして行列のできる光景――。
部室の中にいる全員が一瞬、文化祭当日の賑わいを思い浮かべた。
「タコスなんて聞いたことない人もいるし! それに片手で食べにくいでしょ!」
杏子が勢いよく机を叩いた。焼きそば派の代表として、一歩も引かない。
「そ、そうですよね!」新入生男子もすかさず賛同する。
「焼きそばなら紙皿でパパッと食べられるし、文化祭らしいっす!」
対する翔子は眉一つ動かさず、鋭い視線を返した。
「でも焼きそばは被る確率が高いわ。どのクラスも同じこと考えるでしょ? 結局、目立てなかったら意味ない」
「目立つ目立たない以前に、食べてもらえなきゃ意味ないんじゃない?」杏子がすぐさま反論する。
「だいたい、タコスなんて食べ慣れてない人、買ってくれると思う?」
「挑戦しなければ印象に残らない。せっかくの文化祭よ。ここで安定策に逃げてどうするの」
二人の視線がぶつかり合い、火花が散るような空気が部室を覆った。
新入生たちも息を飲み、思わず椅子の背に身を引く。
笑い声が飛んでいたはずの部屋が、いつの間にかピリッとした議論の場に変わっていた。
「はい、はい! 二人とも、ちょっとストップ!」
パンッと手を叩いたのは実花だった。
部室に張りつめていた空気が、その音で一瞬ゆるむ。
「……両方にメリットがあるから、迷ってるんだよね」
実花は笑顔を作りつつ、みんなの顔を順に見渡す。
杏子はまだ頬をふくらませ、翔子は腕を組んだまま視線を逸らしている。
けれどその間に立った実花の声は、不思議と部屋全体にすっと染み込んでいった。
「だったらさ、実際に作って食べてみようよ。試食会で味も手間も比べてみれば、一番納得できる答えが出せるはず!」
「……なるほど!」新入生男子が勢いよく手を挙げる。
「それなら公平ですね!」と新入生女子もにっこり。
「ふん、まぁ、それなら仕方ないわね」翔子が小さく肩をすくめる。
「よーし! 食べ比べで勝負だね!」杏子もにやりと笑った。
次の瞬間、張りつめていた空気は一気に解け、部室には笑いと活気が戻ってきた。
こうして「焼きそば vs タコス」対決は、試作会という形で次のステージへ進むことになったのだった。
レシピ掛け合い会
部室の机にノートを広げ、メンバー全員が集まる。
黒板には大きく「焼きそば」「タコス」と書かれていた。
杏子(焼きそば派):「焼きそばなら簡単! 麺、キャベツ、豚肉、それにソースがあれば十分! 鉄板でジュワ~っと炒めるのが文化祭っぽいんだよ!」
新入生男子:「ソースの香りだけで人呼べますよね! 絶対、列ができますって!」
翔子(タコス派):「でもそれ、ほとんどのクラスが考えてるわよ。個性ゼロ。タコスならトルティーヤにひき肉、レタス、チーズ。彩りも抜群で、SNS映え確実」
新入生女子:「確かに! 自分で具を選べるの、めっちゃ楽しいと思います!」
杏子:「でもさぁ、タコスって皮から作るの? それとも市販?」
翔子:「皮は市販でいいの。むしろその方が均一で失敗がない。問題は具材の管理ね。トッピングは種類が増えるほど仕込みも大変」
実花(仲裁):「うーん、焼きそばは“回転率の速さ”が強みで、タコスは“見た目のインパクト”が魅力かぁ……」
杏子:「そうそう! 焼きそばは大鍋一つで一気に作れるから、効率最強!」
翔子:「でも、お客さんの記憶に残るのはどっちかしら。私はタコスに一票」
杏子:「むむむっ……!」
新入生男子:「じゃあ! どっちが勝つか、試作会でガチンコ勝負だ!」
実花:「はいはい、だからそのためにレシピまとめようってば!」
焼きそば(文化祭仕様)
材料(10人分)
中華麺(蒸し麺) … 10玉
豚こま切れ肉 … 400g
キャベツ … 1/2玉
にんじん … 1本
もやし … 1袋
サラダ油 … 適量
青のり・紅しょうが … 適量
ソース
ウスターソース … 200ml
オイスターソース … 50ml
醤油 … 大さじ2
砂糖 … 小さじ2
作り方
野菜はざく切り、にんじんは細切りに。
大鍋または鉄板を熱し、油をひいて豚肉を炒める。
野菜を加えて強火で一気に炒める。
麺を入れ、ほぐしながら炒める。
ソースを回しかけて全体に絡める。
仕上げに青のり、紅しょうがをトッピング。
文化祭ポイント:
大量生産しやすい。
匂いで集客効果抜群!
回転率が高く売りやすい。
タコス(文化祭仕様)
材料(10人分)
トルティーヤ(市販) … 10枚
合いびき肉 … 400g
玉ねぎ … 1個(みじん切り)
ニンニク … 1片(みじん切り)
レタス … 5枚(千切り)
トマト … 2個(角切り)
ピザ用チーズ … 適量
タコミート調味料
ケチャップ … 大さじ4
ウスターソース … 大さじ2
チリパウダー … 小さじ1(辛さ調整可)
塩・胡椒 … 少々
作り方
フライパンに油を熱し、ニンニク・玉ねぎを炒める。
ひき肉を加えて炒め、調味料を加えて煮詰める。
トルティーヤを軽く温める。
トルティーヤにタコミート、レタス、トマト、チーズをのせて包む。
文化祭ポイント:
見た目がカラフルで写真映え。
具を選べる“セルフ式”にすると盛り上がる。
提供に少し手間はかかるが、思い出に残る。




