59. 春の洋食実習:グラタン
集合・今日のテーマ発表(家庭科室・放課後)
放課後の家庭科室は、春の日差しが窓から差し込み、柔らかい光に包まれていた。机の上には耐熱皿やチーズの袋、そして新鮮なアスパラや新玉ねぎが並んでいる。
白衣姿の実花がホワイトボードに「春の洋食実習:グラタン」と書き、ぱんっとペンを置いた。
「今日は春野菜のグラタンを作ります!」
その声に、新入生たちの目が一斉に輝く。
すかさず杏子が、にこりと笑って手を挙げた。
「見た目も大事! チーズの焼き色がキレイにつけば、食欲も写真映えも倍増だよ♪」
「ただし、浮かれてばかりじゃダメよ」
翔子が冷静に補足する。腕を組んで、まっすぐ新入生たちを見渡した。
「作業順序と安全を守れば、手際よく仕上がる。包丁とオーブンは扱い方を間違えると危ないから、そこはしっかり守って」
緊張と期待が入り混じった空気の中、新入生たちは顔を見合わせて声を上げた。
「グラタン作るの初めて! 楽しみ〜!」
にぎやかで少し温かい笑い声が広がり、家庭科室は一気に活気づいていった。
材料確認・下ごしらえ
包丁の音が、トントンと心地よく響く家庭科室。
机の上には洗いたての春野菜が並び、みずみずしい香りが漂っていた。
新1年女子は玉ねぎを薄くスライスしながら、ぱっと顔を上げて言う。
「形を揃えると見た目もきれいですね!」
透き通るように重なった玉ねぎの輪が、光に透けてきらめく。
一方で、新1年男子はアスパラを前に首を傾げていた。
「アスパラって、茹でるタイミング難しいんですよね……柔らかすぎても、硬すぎてもダメそうで」
その悩みに答えるように、実花が手本を見せながら微笑む。
「根元はちょっと固いから切り落としてね。軽く下茹でしておくと、火の通りが均一になるんだよ。炒めても、オーブンに入れても、失敗しにくいの」
実花の包丁さばきに、新入生たちは思わず息をのむ。
下ごしらえのひと手間が、完成後の味を左右する――その大事さを、目の前で実感していくのだった。
ホワイトソース作り
鍋に落としたバターが、じゅわっと音を立てて溶けていく。
黄金色にきらめくそれに、小麦粉を振り入れると、ふわりと香ばしい匂いが広がった。
翔子が真剣な表情で鍋をのぞき込み、短く指示を飛ばす。
「焦がさないように火加減注意。弱火をキープして、手を止めないこと」
木べらを握った新入生男子は、必死にかき混ぜながら小声でつぶやく。
「け、結構力いりますね……」
その横で、杏子がにこりと笑い、粉とバターが一体化していく様子を指差す。
「ほら、この段階で粉っぽさを残さないのが大事。ここで手を抜くと、仕上がりがざらっとしちゃうの」
牛乳を少しずつ加えると、最初は固まりかけていた生地が、徐々にクリーミーなソースへと変わっていく。
新1年女子は目を輝かせて、「混ぜるの楽しい!」と声を弾ませた。
ただ、その額には小さな汗。ソース作りの地道さを体感している証拠だった。
実花はそんな後輩たちを見守りながら、穏やかにフォローする。
「分量を守るのは基本だけど、ソースは失敗してもやり直せるの。だから怖がらないでね。柔らかすぎても煮詰めればいいし、硬すぎても牛乳を足せば大丈夫」
木べらの先で艶やかなソースがとろりと垂れる。
温かな香りとともに、グラタンの成功への第一歩が形になり始めていた。
具材の炒め・合わせ
フライパンにオリーブオイルが熱せられると、玉ねぎが透き通るように輝きながら甘い香りを放つ。
マッシュルームの切り口からはじゅっと水分が立ちのぼり、アスパラの鮮やかな緑が、油の中でより一層際立っていく。
木べらを手にした新1年男子が目を丸くした。
「おお、彩りがキレイになってきた!」
杏子が満足げに頷きながら、軽やかに言葉を添える。
「でしょ? この瞬間の色合いが、そのままお皿の見映えに繋がるんだよ。だから炒めすぎて色を失わないようにね」
タイミングを見計らった実花が、ホワイトソースをフライパンへ流し入れる。
とろりとした白いソースが、じゅわっと音を立てる具材の上に重なり、瞬く間に全体を包み込んだ。
「ソースと具材が馴染むように、さっと混ぜるんだよ」
と、実花が手本を見せる。木べらをすくう動きは軽やかで、でも決して乱暴ではない。
新入生たちはその真似をしながら、「わ、混ざっていく……!」と小さな感動を覚える。
玉ねぎの透明感、アスパラの緑、マッシュルームの柔らかな白――すべてがクリーム色のソースに溶け込み、春の息吹をそのまま閉じ込めたかのような光景だった。
オーブンで焼き上げ
耐熱皿に移されたグラタンの具材とソースは、すでに春らしい彩りをまとっていた。そこへ山盛りのチーズがふわりと降りかかり、白い雪のように表面を覆っていく。
「よし、仕上げはオーブンだね」
実花がオーブンの扉を開き、温かな空気を感じながら皿をそっと差し入れる。
スイッチが入ると、チーズが徐々に溶けはじめ、表面がつややかに泡立っていく。
「わぁ、ふわっと泡立つ感じが可愛い!」と新1年女子が目を輝かせた。
翔子は真剣な眼差しでオーブンの窓を覗き込み、冷静に言葉を添える。
「焼き色を確認して、焦げすぎないようにね。ここは秒単位で注意が必要」
一方、杏子は思わず鼻をくすぐる香ばしい匂いに頬を緩める。
「この香ばしい匂い……もう写真映え確定! 黄金色ってだけで美味しそうに見えるんだよね」
やがてチーズの表面はこんがりと黄金色に染まり、ところどころに小さな焦げ目が浮かぶ。カリッとした食感を予感させるその姿は、見ているだけで空腹を誘う。
「いい焼き上がり……! さあ、取り出そう」
実花の合図でオーブンから皿が取り出されると、部室中にチーズの芳醇な香りが広がり、新入生たちは思わず息を呑んだ。
盛り付け・試食
焼きたてのグラタンは、まだ表面がぐつぐつと泡を立てていた。オーブンから取り出された瞬間、チーズの香りと春野菜の甘みが混じり合った湯気がふわっと部室を包み込む。
「はい、盛り付けるときは――熱いから気をつけて!」
実花がトングを構えながら、みんなに注意を促す。
耐熱皿からすくい上げられたグラタンは、トロリと溶けたチーズを糸のように引きながら、各皿に移されていく。その様子を見て、杏子がすかさずアドバイスを飛ばす。
「チーズがトロッと糸を引く瞬間を見せるように盛り付けると、もっと美味しそうに見えるよ! ほら、この“とろけ感”が映えるの!」
最後に彩りとして刻んだパセリがぱらりと振りかけられ、黄金色のグラタンに緑のアクセントが映える。
「いただきます!」
新入生たちが一斉にスプーンを入れると、熱々のホワイトソースがあふれ、湯気とともに野菜の香りが広がる。
「美味しい! クリーミーで春野菜の香りがすごくいい!」
「チーズのコクとアスパラのシャキッと感、最高です!」
歓声が次々に上がり、部室が一気に明るくなった。
そんな中、翔子はスプーンを動かしながら冷静に分析する。
「やっぱり班で分担して作ると効率がいいね。ソースも野菜もタイミングばっちりだった」
笑顔で頷き合う先輩と新入生。
春野菜のグラタンは、味だけでなく協力の成果をしっかりと感じさせてくれる一皿となった。
レシピ掛け合い会:春野菜のグラタン編
実花:「今日のグラタン、最初は材料確認からだったね。アスパラの根元を切り落として、玉ねぎやマッシュルームを切るところからスタート!」
新1年女子:「形を揃えると見た目がきれいになるって、すごく勉強になりました!」
杏子:「そうそう! 盛り付けの段階じゃなくても、下ごしらえから“映え”は始まってるんだよ〜」
翔子:「下処理の後はホワイトソース。火加減に気を配って焦がさないように、牛乳を少しずつ加えるのがポイント」
新1年男子:「混ぜるの、めっちゃ腕が疲れました! でも、だんだんトロッとしていくのが楽しかったです!」
実花:「失敗しても牛乳でのばせるから安心だよ。分量を守りながら、柔軟に調整できるのがホワイトソースの面白さ」
杏子:「そのあと炒めた野菜とソースを合わせると、彩りが一気に春っぽくなるよね。ここで“見せ場”を作るんだよ!」
翔子:「オーブンに入れてからも気を抜かない。焼き色を見ながら焦げすぎを防ぐのがリーダーの仕事」
新1年女子:「焼いてるときの香りがもう最高でした!」
実花:「最後にチーズがとろける瞬間を意識して盛り付けて、パセリで彩り完成。これで春野菜のグラタンの出来上がり!」
全員:「美味しかった〜! また作りたい!」
春野菜のグラタン レシピ
材料(4人分)
マカロニ … 120g
アスパラガス … 4本
玉ねぎ … 1個
マッシュルーム … 6個
バター … 40g
薄力粉 … 40g
牛乳 … 600ml
コンソメ … 小さじ1
塩 … 少々
こしょう … 少々
ピザ用チーズ … 100g
パセリ(飾り用) … 少々
下ごしらえ
アスパラは根元を切り落とし、3〜4cmに切る。塩を少し入れた熱湯でサッと下茹でする。
玉ねぎは薄切り、マッシュルームはスライスする。
マカロニは袋の表示より1分短めに茹でる。
ホワイトソース
鍋にバターを溶かし、薄力粉を入れて弱火で炒める。
粉っぽさがなくなったら、牛乳を少しずつ加えながら泡立て器で混ぜる。
とろみがついたらコンソメ・塩・こしょうで味を調える。
具材とソースを合わせる
フライパンで玉ねぎとマッシュルームを炒め、軽く塩をふる。
マカロニ・アスパラを加え、ホワイトソースと絡める。
焼き上げ
耐熱皿に具材を移し、チーズをたっぷりのせる。
200℃のオーブンで10〜15分、表面にこんがり焼き色がつくまで焼く。
仕上げ
焼き上がったらパセリを散らして完成!
アツアツなので取り分けるときは要注意。
ポイント
ホワイトソースは火加減を弱め、牛乳を少しずつ加えること。
焼き色はオーブンをのぞいて確認、焦げすぎ注意!
春野菜の彩りを意識して盛り付けると見た目も映える。
季節を感じるグラタンで、春らしい洋食実習にぴったり!




