第52話「料理部に新入生入部希望者殺到」
放課後の廊下。家庭科室の前に、いつもの静けさはなかった。
ざわざわと人だかりができ、扉の前には制服の新入生たちが詰めかけている。
「ここが家庭科部?」
「去年の文化祭のカレーのとこだよ! SNSで見た!」
「めっちゃ並んでたやつでしょ?」
興奮混じりの声が次々に飛び交う。
「……えっ、ちょっと待って。あの列、全部うちの部目当て?」
実花は部室の扉の隙間から外をのぞき、目を丸くする。
「やだ、予想の三倍はいるんだけど!」
杏子が半分悲鳴をあげ、両手をばたばたさせる。
一方、翔子は腕を組んで人だかりを冷静に観察していた。
「ふむ。文化祭の成功がここまで波及するとはね。……まあ、歓迎すべき事態だけど、これは効率的に捌かないと混乱するな」
思いがけない人気爆発。
家庭科部の新学期は、想像以上に賑やかな幕開けを迎えていた。
部室の扉を閉めると、外のざわめきは少しだけ遠のいた。
中ではすでに先輩たちが手分けして、新入生を迎える準備が進んでいる。
テーブルの上には、彩りのよいフルーツサンドと、一口サイズのクッキーが並べられていた。
「ふふん、見た目で掴んで、味で落とす! これぞ必勝パターンよ!」
杏子が胸を張り、デザートの角度まで微調整している。
「はいはい。……でもその前に動線を整えなきゃね」
翔子は手元のメモを片手に、淡々と役割を指示していく。
「説明係は二人。調理体験の補助につく人が三人。残りは片付け担当。これで回せば無駄はない」
的確な指示に、1年から進級したばかりの2年メンバーが頷いて散っていく。
「よし……じゃあ私は司会をやるね!」
実花はホワイトボードの前に立ち、にこっと笑う。
「家庭科部へようこそ! って、ちゃんと声張らないとだめだよね」
緊張感と期待感が入り混じる部室。
先輩たちはそれぞれの役割を胸に、新入生との初対面を待ち構えていた。
チャイムが鳴ると同時に、部室の扉が勢いよく開いた。
「わぁ……すごい、人!」
「これ、入りきるのかな……」
杏子のつぶやき通り、部室の前から続いていた人だかりが、なだれ込むように押し寄せてきた。
制服のリボンがまだ固い新1年生たちが、目を輝かせながら次々に自己紹介を始める。
「去年の文化祭のカレー! 動画で見ました! 絶対入りたいと思って!」
「ぼく、料理はあんまり得意じゃないんですけど、食べるのは大好きで!」
「スイーツ作りに興味あって……ケーキとか、挑戦してみたいです!」
熱気に押されるように、部室の空気がぐっと濃くなる。
中でも目立つのは三人。
一人は、髪をきっちり結んでノートを手にした几帳面そうな女子。
もう一人は、口元にいたずらっぽい笑みを浮かべたお調子者の男子。
そして、カラフルな筆箱を抱えた、目をきらきら輝かせるスイーツ好きの女子。
「こ、これは……」
実花はホワイトボードの前で笑顔を保ちながら、内心で悲鳴を上げた。
(多すぎて、名前が覚えられない……!)
「えーっと……自己紹介、順番にお願いします!」
声を張り上げる実花の横で、杏子は小声で呟く。
「これ、文化祭より大盛況じゃない?」
翔子は腕を組み、冷静に人波を観察する。
「ふむ……これだけいれば、戦力になるかもね。……ただし、全員覚えられるかどうかは別」
部室の狭さも忘れるほどの熱気の中、家庭科部の新しい物語が、確かに動き出していた。
家庭科室のテーブルに、クッキーの型抜きとフルーツ、ミキサーが並ぶ。
先輩たちの声に導かれるように、新入生たちが手を動かし始めた。
「はい、バターはここ。砂糖は計量カップでね。――動線がごちゃついてる、もう少し横に並んで」
翔子がテキパキと指示を出す。その的確さに、新入生たちは思わず「は、はいっ!」と返事をしてしまう。
「うんうん! このイチゴカット、いいじゃん! ほら、映える〜! インスタに載せたら確実にバズる!」
杏子は新入生の作業を覗き込み、いちいち盛り上げて場を華やかにする。笑顔が飛び交い、自然と笑い声が混じる。
「すごい、みんな手際いいよ。焦らなくて大丈夫! 楽しく作ろうね!」
実花は一人ひとりに声をかけて回り、緊張を和らげる。頬をほころばせる新入生が次々に増えていった。
やがて、オーブンに入ったクッキーから甘い香りが漂い、ミキサーの回転音が室内を包む。
笑い声と香りが交じり合い、まるで文化祭の準備中のような活気が広がる。
「クッキーの形、星にしたんだ!」
「え、こっちはハートだよ。かわい〜!」
「スムージー、色合いきれい! これ、映えるわ」
先輩と後輩の区別もなく、ワイワイとした声が絶えない。
部室の空気は、すでに“家庭科部”の一員としての仲間意識で満ちていた。
焼き上がったクッキーが皿に並び、ミキサーから注がれたスムージーがグラスを彩る。
試食タイムが始まると、あちこちで「おいしい!」の声が弾けた。
「サクサク! これ、手作りって信じられない!」
「スムージー、フルーツが濃い〜!」
新入生たちの瞳がきらきら輝いている。
その光景を眺めながら、実花は胸を高鳴らせた。
「今年はさらに賑やかになりそう! 楽しみだね!」
そこへ顧問が顔をのぞかせ、腕を組んでにやり。
「人気すぎて、入部者は調整が必要かもしれんぞ。お前たち、覚悟しておけよ」
一瞬、部室がざわつく。だが――翔子は腕を組んで冷静に返した。
「人が増えれば作業効率も変わります。しっかり仕組みを作って、全員が動けるようにします」
「さすが翔子!」と杏子が笑い、勢いよく手を挙げた。
「でもさ! こんだけ仲間が増えるなら……文化祭、めっちゃ盛り上がるでしょ! もう今からワクワクなんだけど!」
甘い香りの漂う部室に、期待と熱気が渦を巻く。
――家庭科部の新しい物語が、今まさに始まろうとしていた。
◆レシピ掛け合い会(勧誘クロージング版)
実花:「はい、できたてクッキーとスムージー、みんな自由に取ってね!」
新1年男子(お調子者):「うおっ、マジで店の味! これ部活で毎日食べられるとか、最高じゃん!」
杏子:「毎日はムリだけどね(笑)。でも文化祭とかイベントでは、もっと派手に作るよ!」
新1年女子(スイーツ好き):「このクッキー、チョコチップがゴロゴロしてて幸せ…♡」
翔子:「計量をきっちり守れば、誰でもこの仕上がりになる。だから初心者でも安心」
新1年女子(几帳面タイプ):「えっ、本当ですか? レシピ通りにすれば…」
実花:「うん! むしろ几帳面な人ほど上手くいくよ!」
杏子:「あ、でも私は“盛り付けセンス”重視派! インスタ映え最強にするから!」
新1年男子:「じゃあ俺は“味見係”担当で!」
翔子:「味見は最後の検品に回す。……あなたは皿洗いから」
新1年男子:「えっ、オチ担当!?」
顧問:「まあ、こんな感じで賑やかだから人気なんだろうな」
実花:「ね? 楽しく作って、みんなで食べられる。だから料理は部活にぴったりなんだよ」
コメント
ここでは 「先輩の個性」+「新入生の特徴」 を会話に反映して、自然にキャラ立てを強調しました。
新1年男子=お調子者担当 → ボケ役。
新1年女子(几帳面)=真面目リアクションでツッコミ。
新1年女子(スイーツ好き)=食レポ担当。
顧問が「人気の理由」を一言でまとめ、全体を締める形にしました。
チョコチップクッキー(初心者向け)
材料(約20枚分)
薄力粉 … 150g
ベーキングパウダー … 小さじ1/2
無塩バター … 80g
砂糖 … 70g
卵 … 1個
チョコチップ … 60g
作り方
バターを常温で柔らかくし、砂糖を加えて白っぽくなるまで混ぜる。
溶き卵を少しずつ加え、よく混ぜる。
薄力粉とベーキングパウダーをふるい入れ、ゴムベラでさっくり混ぜる。
チョコチップを加え、生地をひと口大に丸める。
クッキングシートを敷いた天板に並べ、170℃に予熱したオーブンで15分焼く。
ポイント:混ぜすぎないこと。焼きたては柔らかいけど、冷めるとサクッとする。
フルーツスムージー(2人分)
材料
冷凍ベリー(いちご・ブルーベリーなど) … 100g
バナナ … 1本
牛乳または豆乳 … 150ml
ヨーグルト … 100ml
はちみつ … 大さじ1
作り方
材料をミキサーに全部入れる。
滑らかになるまで攪拌する。
グラスに注ぎ、ミントを添えれば完成。
ポイント:冷凍フルーツを使えば氷不要で濃厚な仕上がり。色も鮮やかで映える!
レシピ作成コメント
クッキーはオーブンを使うので「みんなで待ってる間におしゃべり」が自然に生まれる → 部活の雰囲気づくりに最適。
スムージーは短時間で完成し、色鮮やかでSNS映え → 新入生のテンションを上げる効果。
「焼く系」と「混ぜる系」を組み合わせることで、初心者と経験者がバランスよく楽しめる。




