46. バレンタイン準備①チョコレート講座
――二月の冷たい風が、まだ頬に冬を刻む午後。
部室の扉を閉めた瞬間、顧問が手をパンと鳴らした。
「今日はチョコレートの基礎をやる」
その言葉に、杏子が小さく「おっ」と声を上げ、実花のペンが反射的にカチリと動く。
ホワイトボードに、太い字で書かれていく単語たち――
『テンパリング』『クーベルチュール』『カカオ分』。
「カカオ分って、何パーからチョコって呼んでいいの?」
机に肘をついた杏子が、まるで素朴な子どものように首を傾げる。
「厳密には法律や規格によって違うけど……一般的にはカカオ分が35%以上あれば“チョコレート”とされるわ」
翔子の答えは教科書の一節のように正確で、顧問もうなずいていた。
実花はすでにノートの左端から右端までメモで埋め、重要そうな単語は二重線で囲む。
その横で、佐伯先輩は腕を組んだまま黙って聞き、時おり小さく「ふむ」とだけ声を漏らす。
部室には、まだ甘い香りはない。
けれど、この瞬間から確かに――バレンタインの空気が漂い始めていた。
ステンレスのボウルに、刻んだチョコレートがざらざらと落ちる音。
顧問が湯気の立つ鍋を前に置き、温度計を差し込みながら言った。
「まずは湯せんで溶かす。焦らず、温度は45℃前後まで」
ゆっくりと、チョコが艶やかに溶けていく。
顧問は溶けたチョコをゴムベラで持ち上げ、そのまま台の上に広げる。
「次に、こうやって冷まして……」
室温に触れたチョコは、ゆるやかにとろみを増し、粘度が変わっていく。
それを再びボウルに戻し、湯せんでほんのり温め直す。
「これで光沢が出て、割ったときに“パリッ”とする。テンパリングはこれが理想だ」
「わー、チョコ職人っぽい!」
杏子が目を輝かせて身を乗り出す。
実花も負けじと「やってみたいです!」と名乗りを上げ、ボウルを受け取る。
……が、火加減を少し強めすぎたせいで、端からチョコが固まりかける。
「あ、あれ!? 固まってきちゃった!」
「温度管理が命だからな」
顧問の笑い混じりの声に、部室の空気が少しだけ甘く、そしてあたたかくほぐれていった。
机の上に、小皿がいくつも並ぶ。
それぞれにミルク、ビター、ホワイト、そして鮮やかなピンク色のルビーチョコが置かれていた。
顧問が手を叩き、「では、食べ比べ開始」と促す。
「……この苦みが、本物のカカオ感」
翔子はビターチョコを口に含み、目を細めて呟く。香りを確かめる仕草まで、まるで品評会の審査員だ。
「ルビーチョコって酸っぱい! でも美味しい!」
杏子は目を丸くし、すぐさま二枚目を手に取る。
甘酸っぱい香りが口いっぱいに広がり、頬がゆるむ。
佐伯先輩はといえば、表情をほとんど変えずに順番に口へ運び、静かにペンを走らせている。
「……メモ、何書いてるんですか?」と杏子が覗き込むが、「企業秘密だ」とだけ返す先輩。
部室の空気は、カカオの香りとわずかな緊張、そしてほんのりした甘さで満ちていた。
部室の机には、試食で残ったチョコのカケラがいくつか転がっている。
顧問がホワイトボードを前にして立ち、「さて、今日は本番のチョコ作りに向けた計画を立てるぞ」と言った。
「私は、ガナッシュ入りのボンボンチョコを作りたい!」
実花は自信満々に手を挙げる。 「滑らかなガナッシュとチョコのコーティング、食べた瞬間のあの口溶けがたまらないんです!」
「それいいな!」杏子がうなずきながら言う。「でも、私のチョコバーは見た目重視で、色とりどりのトッピングを散りばめて、インスタ映えする感じで!」
彼女はすでに頭の中でカラフルなチョコバーのイメージを描いているようだ。
翔子は少し考えてから、静かに口を開く。「私は和素材を使いたい。抹茶やきなこを使った生チョコがいいと思う。和のテイストを活かしたチョコは、あんまり見かけないし、個性的だろう?」
「うん、それは面白い!」実花が賛成の意を示す。
顧問がホワイトボードに「試作会」って大きく書き、「次回はそれぞれ試作してみるぞ。今日のテンパリングやチョコの種類について学んだことを活かすんだ」と指示を出す。
「わかりました!」全員が声をそろえて答える。
その目は、すでに作るチョコへの情熱で輝いていた。
レシピ掛け合い
シーン1: 実花の「ガナッシュ入りボンボンチョコ」
実花「まずはガナッシュを作るところから。生クリームを温めて、チョコレートを加えるんだよね?」
杏子「生クリームって、沸騰直前まで温めるんだっけ?」
実花「そう!生クリームを温めたら、細かく刻んだチョコレートを入れて、よーく混ぜるだけ。ガナッシュができたら冷蔵庫で少し固めるよ。」
翔子「ガナッシュが固まったら、ボンボンの形に丸めて、チョコでコーティングするのがポイントだな。」
杏子「コーティングした後にチョコがパリッと割れるのが理想だね!」
シーン2: 翔子の「和素材の生チョコ」
翔子「まず、抹茶やきなこを使った生チョコを作るには、チョコレートを溶かすところから始めるんだ。」
実花「溶かす時、湯せんで溶かすのが基本だよね?」
翔子「そう、湯せんで溶かしてから、そこに生クリームを加えて滑らかにする。抹茶やきなこを混ぜるタイミングは?」
杏子「私はきなこの風味がほしいから、チョコが少し冷めたくらいに入れたい!」
翔子「いい感じだな。あとは冷やして、包丁で切り分ける。きなこと抹茶の風味がしっかり感じられるはずだよ。」
シーン3: 杏子の「カラフルチョコバー」
杏子「まず、私のチョコバーは色とりどりにしたいから、いろんなトッピングを用意しよう!ナッツとかドライフルーツとか!」
実花「それだけじゃない! チョコを溶かして平らに広げて、その上にトッピングを散りばめるのがポイントだよね。」
翔子「溶かしたチョコを台に広げて、トッピングを載せたら、冷蔵庫で固めるんだろう?」
杏子「そう!一晩冷やすと、パリッとしたチョコバーが完成だよ!」
実花「色とりどりで華やかだから、見た目にも楽しいし、食べてもおいしい!これ、インスタ映え間違いなし!」
シーン4: 顧問のアドバイス
顧問「さて、みんながそれぞれチョコを作るのはわかった。でも、ここで大事なのは「テンパリング」だ。」
杏子「テンパリングってどうやってやるんだっけ?」
顧問「まず、チョコレートを溶かす。温度をしっかりコントロールすることが大事だ。」
実花「あの光沢が出ると本当に綺麗だよね!」
翔子「でも、少し温度がずれると、チョコが白くなったり、パリッと割れなくなるから、気をつけなきゃ。」
1. ガナッシュ入りボンボンチョコ
材料:
ダークチョコレート 200g
生クリーム 100ml
無塩バター 30g
バニラエッセンス 少々
作り方:
ガナッシュを作る:
生クリームを小鍋で温め、沸騰直前で火を止める。刻んだダークチョコレートを加え、溶けるまで混ぜる。
ガナッシュを冷やす:
バターとバニラエッセンスを加え、よく混ぜる。冷蔵庫で1時間ほど冷やし、固まったら丸めやすくなる。
ボンボンを作る:
冷やしたガナッシュをスプーンで取って、小さなボールに丸める。
チョコでコーティング:
チョコレートを湯せんで溶かし、丸めたガナッシュをチョコでコーティング。固まったら完成。
2. 和素材の生チョコ(抹茶&きなこ)
材料:
ダークチョコレート 200g
生クリーム 100ml
抹茶パウダー 大さじ1
きなこ 大さじ1
無塩バター 30g
作り方:
チョコレートを溶かす:
ダークチョコレートを湯せんで溶かし、生クリームを加えてよく混ぜる。
抹茶&きなこを混ぜる:
抹茶パウダーときなこを加え、滑らかになるまで混ぜる。
冷やす:
バターを加えてよく混ぜた後、容器に流し込んで冷蔵庫で1〜2時間冷やす。
切り分ける:
固まったら包丁で切り分けて、お好みで粉砂糖やきなこをまぶして完成。
3. カラフルチョコバー
材料:
ホワイトチョコレート 200g
ミルクチョコレート 200g
ダークチョコレート 100g
ドライフルーツ(いちご、ブルーベリーなど) 適量
ナッツ(アーモンド、カシューナッツなど) 適量
カラースプレーやシュガーシロップ(お好みで)
作り方:
チョコを溶かす:
それぞれのチョコレートを湯せんで溶かし、3色のチョコを別々に用意する。
チョコを広げる:
クッキングシートを敷いた天板に溶かしたチョコレートをそれぞれ広げ、平らに伸ばす。
トッピング:
トッピングとしてドライフルーツやナッツをお好みで散らし、軽く押さえてチョコに馴染ませる。
冷やし固める:
冷蔵庫で1時間ほど冷やし、固まったらカットして完成。
4. テンパリングチョコレート
材料:
ダークチョコレート 200g
作り方:
チョコレートを溶かす:
ダークチョコレートを湯せんで溶かす。温度が50〜55°Cになるように調整。
チョコレートを冷ます:
溶けたチョコレートを台に広げ、40°Cまで冷ます。
再度温める:
再度チョコレートを温め、30°C程度に調整。これで、ツヤのあるチョコレートの完成。
使用する:
クッキーやボンボンチョコのコーティングに使用することで、パリッとした食感と美しい光沢を出すことができる。
これらのレシピを参考に、みんなで楽しくバレンタインチョコ作りに挑戦してみてください!




