45. 和菓子班主催・鏡開きとぜんざい会
――年が明けて、二度目の部活日。
調理室の中央テーブルには、正月飾りがまだ色鮮やかに残っていた。白く丸い鏡餅が鎮座し、その上には小さな橙がちょこんと乗っている。
「今日は鏡開きだぞ」
顧問が両手を腰に当て、軽く咳払いをしてから由来や意味を説明し始めた。
「一年の無病息災を願って、供えた餅を割って食べる行事だ。刃物は使わず、木槌で“開く”んだ」
「ふむふむ……」と頷く部員たち。だが、杏子が手を挙げて口を開く。
「つまり、これ割ったら食べ放題ってこと?」
その瞬間、和菓子班リーダーの翔子がピシッと突っ込みを入れる。
「そういう雑な解釈やめろ」
実花はというと、もう説明どころではなかった。両手で木槌を持ち、目をキラキラさせながら餅を見つめている。
「ふふふ……この瞬間のために来たようなものだわ」
調理室の空気が、ほんの少しお祭りモードに切り替わっていく――。
――いよいよ、鏡開き本番。
テーブルの上に置かれた鏡餅を前に、実花が木槌を構える。
「よーし……狙いを定めて――えいっ!」
ゴンッ、と小気味いい音が響く。しかし餅はびくともしない。
「……え?」
もう一度。ゴンッ。――びくともしない。
「な、なんか思ったより硬いんだけど!」
翔子が腕を組みながら小声で呟く。
「乾燥してるから、まるで岩よ」
そんなやりとりの中、佐伯先輩が無言で木槌を手に取った。
「貸せ」
軽く狙いをつけ、一撃――パキン!
見事な音とともに、餅がきれいに割れた。
「先輩、なんでそんなに頼もしいの……」
杏子の目が、尊敬と驚きで輝く。
割れた餅は、顧問の指示で素早く仕分けられていく。
ぜんざい用の小さめカットと、香ばしく焼くための角切り。
調理室はもう、甘く温かな香りに包まれはじめていた――。
鍋の中で、小豆がコトコトと静かに踊っている。
翔子は木べらでそっと混ぜながら、煮え具合を慎重に見極めていた。
隣では実花が「そろそろいい香りになってきたね」と、ふわりと広がる甘い匂いに目を細める。
その香りに、案の定――杏子が音もなく近づいてきた。
「ねぇ、ちょっとだけ味見――」
木べらを伸ばす前に、翔子の鋭い声が飛ぶ。
「まだ煮えてない!」
「えー、ケチー」
「ケチじゃない、未完成を食べようとする方が悪い」
顧問がそのやりとりを横目に見つつ、鍋に塩をひとつまみ投入。
「甘さが引き締まるんだ」
実花が「へぇ、プロっぽい…」と感心する。
一方、隣の調理台では焼き網を囲む班が、割った餅をこんがりと焼き上げていた。
パチパチと音を立てながら、餅がぷくっと膨らみ、香ばしい匂いが重なっていく。
甘い香りと香ばしさ――調理室は、すっかり冬の和菓子屋のような空気に包まれていた。
湯気を立てながら運ばれてきた椀に、こんがり焼けた餅がふわりと沈む。
ぜんざいの甘い香りが一層広がり、全員の手が自然と箸とお椀に伸びていた。
「いただきます!」
声をそろえた瞬間、熱々の甘味が舌の上でとろける。
杏子は一口食べて、目を細めながらうっとりと呟いた。
「……甘い…しあわせ…」
その隣では、佐伯先輩が無言で器を空にし、淡々とおかわりの列に並んでいる。
戻ってきたと思えば、またすぐに立ち上がり――すでに3杯目突入。
「ちょっと、先輩食べすぎじゃ…」と実花が声をかけるが、
自分の椀を見下ろし、すでに底が見えていることに気づく。
「……おかわりは一人2回までだからね!」
そう宣言しながら、彼女も当然のように2杯目を手にしていた。
笑い声と湯気の中、テーブルの上では、甘くて温かい“おかわり合戦”が静かに続いていた。
鍋の底がようやく見えたころ、部室にはほんのり甘い香りと、心地よい満腹感が漂っていた。
湯気もすっかり落ち着き、机に肘をついた部員たちは、ぽやんとした表情で余韻に浸っている。
顧問が湯飲みを置きながら、にやりと口を開いた。
「さて――次はレトロ喫茶回だ。パフェとクレープもやるぞ」
杏子は瞬時に背筋を伸ばし、瞳をきらきら輝かせる。
「甘いもの続き…最高!」
その一言に、部室中からくすくす笑いがこぼれる。
寒さも、時間の流れも忘れたように、和やかな笑い声がいつまでも響いていた。
【ぜんざい&焼き餅レシピ掛け合い】
翔子「じゃあ今日は鏡開きぜんざいね。まずは小豆を洗って…」
杏子「その前に餅を焼く準備しよ!早く食べたい!」
実花「まだ割ったばっかりでしょ…落ち着いて」
翔子「小豆は水に浸してから弱火でコトコト煮る。アクはちゃんと取ること」
杏子「あー、これ、もう甘い匂いしてきた!味見していい?」
翔子「まだ煮えてないってば!」
顧問「仕上げに塩をひとつまみ。甘さが引き締まるんだ」
佐伯先輩「餅は両面に軽く焦げ目がつくくらい。網から落とすなよ」
杏子「よし、完璧な焼き色!早くぜんざいにダイブさせよう!」
実花「じゃあ器に盛って…いただきます!」
杏子「甘い…しあわせ…」
佐伯先輩「(無言で二杯目)」
翔子「あ、ちょっと!おかわりは一人二回までだから!」
鏡開きぜんざい&焼き餅レシピ
材料(4人分)
鏡餅(または切り餅) … 約8個
小豆(乾燥) … 200g
砂糖 … 150〜180g(好みで調整)
塩 … ひとつまみ
水 … 適量
下準備
小豆を洗う
軽く水洗いしてザルにあげる。
下ゆで(渋切り)
鍋に小豆とたっぷりの水を入れ、中火で煮立たせる。
煮立ったら湯を捨て、新しい水に替える。
作り方
小豆を煮る
新しい水を加えて弱火にし、アクを取りながら1時間ほど煮る。
指で潰せるくらい柔らかくなったらOK。
砂糖を加える
火を弱め、砂糖を3回に分けて加える。
その都度よく混ぜ、甘みをなじませる。
塩で味を引き締め
最後に塩ひとつまみを加えて風味を整える。
餅を焼く
焼き網やトースターで、餅の両面に軽く焦げ目がつくまで焼く。
盛り付け
器にぜんざいをよそい、焼き餅を入れて完成。
ワンポイント
餅は焼きたてをぜんざいに入れると香ばしさが際立つ。
甘さは味見をしながら調整すると失敗しない。
冷めると固まりやすいので、食べる直前まで温めておく。




