44. 新年会&お雑煮大会
年明け最初の部活日。
まだ少し冷たい廊下を通って調理室に入ると、そこには懐かしい顔と温かい空気が待っていた。
「明けましておめでとうございます!」
一番に声を張り上げたのは杏子。勢い余ってエコーがかかったかのように広がる。
「おめでとうございます」
「今年もよろしくお願いします」
実花や翔子、そして佐伯先輩もそれぞれ新年の挨拶を交わす。
顧問は腕を組み、いつもの落ち着いた口調で宣言した。
「さて、今日はお雑煮で新年会だ」
その言葉に、杏子の目がきらりと光る。
「おー!じゃあさ、せっかくだから三種類作らない?」
「三種類?」と翔子が眉を上げる。
実花はすかさず指を折りながら提案した。
「私が関東風。翔子は関西風。そして…杏子がオリジナル」
「オリジナルって…何が出てくるんだか」
佐伯先輩が口元を緩めて呟く。
杏子はにやりと笑い、胸を張った。
「ふふふ、驚きの初春スペシャルだよ!」
「食べ比べか…面白そうだな」
佐伯先輩の一言で、今年最初の調理室イベントが、にわかに熱を帯びていくのだった。
調理台に三つのエリアが作られ、それぞれのチームが動き出す。
「関東風は…角餅、鶏肉、白菜、大根、人参。醤油ベースで行きます」
実花は食材をきっちり並べ、野菜の端をそろえて切っていく。まるで包丁の音まで計算されているかのようだ。
「関西風は丸餅、里芋、金時人参。白味噌でまろやかに」
翔子は人参を薄い花形に抜きながら、にやりと笑う。
「見た目でも勝負だ」
そして杏子はというと――。
「ふふ、オリジナルは和風だしにカレー粉をちょい足し! そこにもち+チーズで…」
佐伯先輩が半歩引いた。
「……攻めすぎじゃないか?」
切り方や下ごしらえも三者三様。
実花は均一な厚みにこだわり、翔子は彩りを意識して形を揃える。
杏子は……なぜかもちを網に乗せる前に、一口かじっていた。
「こら、杏子!」
顧問がぴしゃりと声を飛ばす。
「調理前に食べるな」
「いや、焼く前のもちの味チェックって大事かなって…」
「必要ない!」
笑い声と包丁の音が混ざり、調理室はもう新年会前の活気でいっぱいだった。
三つの鍋が並ぶ調理台。
それぞれの中から立ちのぼる湯気が、まるで別々の物語を語っているみたいだった。
「やっぱ白味噌の香りは冬っぽいな」
翔子が鍋をかき混ぜながら、鼻先でふわりと香りを吸い込む。
「こっちは醤油ベースの王道! 落ち着く香りだよ」
実花が胸を張る。切り揃えた大根と人参が、透き通っただしの中で踊っていた。
「ふふ…そして私は――カレー雑煮!」
杏子が誇らしげに鍋のふたを開けると、スパイスの香りがふわっと広がる。
佐伯先輩は眉をひそめた。
「……これ、ありなのか?」
そんなやり取りの最中――。
「わっ、わわわ!」
杏子が網の上の餅を慌ててひっくり返す。端が黒くなりかけている。
顧問がため息混じりに笑った。
「正月早々、火事は勘弁してくれよ」
部室の空気は湯気と笑い声でいっぱいになり、まるでここが小さな正月会場みたいだった。
三つの椀がテーブルに並び、部員たちは箸を手にした。
まずは関東風から。
実花が誇らしげにすすめると、顧問がひと口すすって頷く。
「すっきり醤油味、これは飽きないな」
「でしょ?」と実花が笑顔。
次は関西風。
白味噌の香りが湯気とともにふわっと広がる。
翔子が差し出すと、杏子がぱくりと食べて目を細めた。
「甘くてやさしい…なんかほっとする味だね」
翔子は少し照れくさそうに、「正月はこれじゃないと落ち着かない」と呟く。
そして最後は――杏子のオリジナル、カレー雑煮。
恐る恐る口に運んだ佐伯先輩が、一瞬目を丸くする。
「……あれ、意外と合うな」
「クセになるでしょ!」と杏子が得意顔。
顧問も笑いながら、「想像以上にまとまってる」と匙を進める。
最終的に佐伯先輩は三杯すべてを平らげ、丼を置いてひと言。
「全部優勝」
その瞬間、笑い声と拍手が部室に響き渡った。
どれも違って、どれも美味しい――そんな新年の食卓だった。
餅を何杯もおかわりした結果、部員たちはテーブルにぐったり寄りかかっていた。
「うぅ…動けない…」杏子が椅子にもたれて呻く。
翔子も「正月太り、即日達成だな」とため息をつく。
そんな中、顧問が湯飲みを置いてにやりと笑った。
「次は――発掘したレトロ機材を使って“喫茶部”をやるぞ」
「やったー!」杏子は即座に復活。「パフェもやりたい!」
「はいはい、計画立ててからね」と実花が笑いながら制止する。
笑い声と満腹の空気に包まれながら、今年最初の部活は幕を閉じた。
次回は懐かしくて新しい“レトロ喫茶メニュー”が、部室を華やかに彩る――。
【お雑煮レシピ掛け合い】
実花(関東風)「私のは角餅を焼いて、鶏肉と野菜を醤油ベースのおすましで仕上げるよ。すっきり味だから何杯でも食べられるのが魅力」
杏子「じゃあ無限お雑煮ってこと?」
実花「…食べ過ぎ注意」
翔子(関西風)「私は丸餅を煮込む派。里芋と金時人参を入れて、白味噌の甘さで冬っぽい味にする」
佐伯先輩「ほっとする味だよな、白味噌」
翔子「でしょ? 甘じょっぱさが正月のごちそう感を出すんだ」
杏子「私は和風だしにカレー粉をちょっと足して、もちとチーズを入れる! 香りだけでお腹が鳴るやつ」
顧問「…正月早々、攻めたな」
杏子「一口食べたらハマりますって!」
実花「その前にちゃんと餅焼いてからね。味見ばっかしないの」
全員「じゃあ3種類まとめて――いただきまーす!」
新年会お雑煮 3種レシピ
1. 関東風(醤油すまし)
材料(4人分)
角餅 … 4個
鶏もも肉 … 150g(一口大)
大根 … 5cm(短冊切り)
にんじん … 5cm(短冊切り)
白菜 … 2枚(ざく切り)
だし汁 … 800ml
醤油 … 大さじ2
みりん … 大さじ1
塩 … 少々
作り方
鶏肉と野菜を切る。
鍋にだし汁を沸かし、鶏肉・大根・にんじんを煮る。
白菜を加えて、醤油・みりん・塩で味を整える。
別に餅を焼き、椀に入れて汁を注ぐ。
2. 関西風(白味噌仕立て)
材料(4人分)
丸餅 … 4個
里芋 … 中2個(輪切り)
金時人参 … 5cm(輪切り)
だし汁 … 800ml
白味噌 … 80〜100g(甘さは好みで)
塩 … 少々
作り方
里芋と人参を下ゆでしておく。
鍋にだし汁を温め、下ゆでした野菜と丸餅を加えて煮る。
白味噌を溶き入れ、塩で味を整える。
もちが柔らかくなったら器に盛る。
3. オリジナル(カレー&チーズ)
材料(4人分)
角餅 … 4個
とろけるチーズ … 40g
だし汁 … 800ml
醤油 … 大さじ1
みりん … 大さじ1
カレー粉 … 小さじ1
塩 … 少々
作り方
鍋にだし汁を沸かし、醤油・みりん・カレー粉を加える。
餅を焼き、器に入れる。
熱々のカレー風だしを注ぎ、チーズを乗せて溶かす。
ポイント
餅は焼き派・煮込み派で好みが分かれるのでお好みで。
関西風の白味噌は、甘口が苦手な場合は少し減らしてOK。
オリジナルは具材をベーコンや玉ねぎにしてもおいしい。




