43. 年末大掃除で珍しい調理器具発掘
年末最終登校日。
窓の外には、冬らしい薄曇りの空。吐く息が白い。
調理室には、洗剤の匂いと、少し冷たい空気が満ちていた。
「よし、今日は一年間の感謝を込めて、隅々まで掃除するぞ」
顧問の一声で、部員たちはぞうきんやバケツを手に取る。
班分けはすでに決まっていた。
棚&倉庫担当は実花と杏子。調理台&水回り担当は翔子と佐伯先輩。
「うわー、なんか遠足の班分けみたいだな」杏子が笑う。
「……いや、大掃除だから」実花が冷静につっこむ。
それでも、杏子は棚の奥を見て、目を輝かせた。
「でもさ、奥の方から何か出てきたら宝探し感あるよね!
もしかして、幻のレシピとか入ってたりして…!」
「そんなのあるわけ――」と言いかけた実花だったが、
杏子のワクワク顔を見て、まあ可能性ゼロじゃないかも…と心の中で付け加えた。
雑巾を絞る音と、床を拭くゴシゴシ音が響き、年末らしい一日が始まった。
棚の奥に、やたらと重そうな段ボールがひとつ。
実花と杏子が両側から手をかける。
「せーのっ……う、重っ!」
「ちょっと待って、床に引きずったらホコリ舞うって!」
二人は息を合わせ、ズルズルと段ボールを引っ張り出した。
ガムテープはもう黄ばんでいて、指で触るとペリペリと簡単に剥がれる。
蓋を開けた瞬間、甘いのか金属っぽいのか判別できない、不思議な匂いがふわっと立ち上った。
「……なにこれ」実花が目を丸くする。
中には、古びた銅製のチョコレートフォンデュ鍋、手回し式のアイスクリームメーカー、そして昭和感満載の電気式クレープメーカーが、丁寧に新聞紙で包まれて眠っていた。
杏子は目をキラキラさせながら鍋を持ち上げる。
「これ…絶対レトロ喫茶で使ってたやつじゃん!」
その声には、宝箱を開けた子どものような興奮が混じっている。
実花は笑いながら鍋の底を覗き込み、
「まだ使えるかな? …っていうか、この新聞、昭和63年の日付だよ」
と、半ば呆れ半ば感心した声を漏らした。
二人の足元には、冬の日差しが射し込み、金属の鍋がほんのり光っていた。
「ちょっと貸して」
倉庫の発掘現場に、翔子が手を拭きながらやって来た。
彼女は迷いなくクレープメーカーのコードを手に取り、近くのコンセントへ差し込む。
パチン、と小さな音。
数秒後、中央のランプがぽっとオレンジ色に灯った。
「……動いた」
短く告げた翔子の声に、杏子が歓声を上げる。
「うわっ、現役じゃんこれ!」
実花も目を輝かせ、クレープの甘い香りを想像してうっとりしている。
そこへ顧問が腕を組みながら近づき、
「これは次のイベントで使えるかもな」
と、どこか企みを含んだ笑みを見せた。
佐伯先輩は苦笑しつつ肩をすくめる。
「また計画が増える予感しかしないな…」
だが、その口元はほんの少し楽しそうだった。
「じゃーん! クレープ屋さん、開店でーす!」
杏子が見つけたばかりのクレープメーカーを調理台の上に置き、
お玉を手に生地を流す真似をする。
くるくるっとヘラを回す仕草も妙に板についている。
「こら、杏子!」
実花が腰に手を当てて制止。
「今は掃除優先! 粉ひとつない状態にしてからだよ!」
「はーい……」と口では返すものの、杏子の目は完全に甘い未来を見ていた。
それを横目に翔子が小さく吹き出す。
「……まあ、ちょっとわくわくするのは分かるけどな」
顧問も佐伯先輩も、どこか頬が緩んでいる。
そのせいか、モップを動かす手がほんの少し遅くなっていく。
――年末の大掃除は、いつの間にか「発掘品の夢想会」へと変わっていた。
磨き上げられた銅鍋やクレープメーカーが、棚の中で静かに光を放っている。
杏子が最後にクロスで軽く拭き、名残惜しそうに扉を閉めた。
「よし、これで片付け完了だな」
佐伯先輩が満足げに腕を組む。
顧問がにやりと笑って口を開く。
「……年明けに“レトロ喫茶メニュー回”でもやるか」
「「「賛成!」」」
即答する部員たち。声が揃った瞬間、どこか新年のイベントに向けた高揚感が漂う。
こうして調理室は、一年の感謝と来年への期待を胸に、静かな年末モードへと切り替わっていった。
年末大掃除 妄想レシピ掛け合い
杏子「見て見て! このクレープメーカー、絶対まだ使えるよ!」
翔子「クレープ作るなら、生地は薄力粉・卵・牛乳・砂糖を混ぜて、バターで香り付けだな」
実花「バターは溶かして最後に加えるとしっとりするんだよ」
佐伯先輩「中身は何にする? 甘い系か、しょっぱい系か」
杏子「甘い系! 生クリームと苺、あとチョコソースたっぷり!」
翔子「それじゃあ銅製のチョコフォンデュ鍋も使えるな。板チョコと生クリームを1:1で温める」
実花「パンとかバナナも添えたら最高だね」
顧問「手回し式アイスメーカーもあるぞ。バニラアイス作って添えたら完璧じゃないか?」
杏子「やばい…年明けが楽しみすぎる!」
レトロ喫茶風メニュー参考レシピ集
1. クレープ(レトロクレープメーカー使用)
材料(約6枚分)
薄力粉 … 100g
卵 … 2個
牛乳 … 200ml
砂糖 … 大さじ2
溶かしバター … 20g
お好みの具(苺・生クリーム・チョコソース・バナナなど)
作り方
ボウルに卵・砂糖を入れて混ぜる。
薄力粉をふるい入れ、ダマがなくなるまで混ぜる。
牛乳を少しずつ加え、なめらかになるまで混ぜる。
溶かしバターを加え混ぜ、30分ほど休ませる。
クレープメーカーを予熱し、生地を薄く流して焼く。
焼けたら好みの具材をのせて巻く。
2. チョコレートフォンデュ(銅製フォンデュ鍋使用)
材料
板チョコ … 200g
生クリーム … 200ml
好みのディップ用具材(苺、バナナ、マシュマロ、カステラなど)
作り方
板チョコを刻む。
銅鍋に生クリームを入れ、弱火で温める。
刻んだチョコを加え、なめらかになるまで混ぜる。
温かいうちに、具材を串に刺して絡める。
3. 手回し式アイスクリーム(バニラ)
材料
牛乳 … 200ml
生クリーム … 200ml
砂糖 … 60g
バニラエッセンス … 数滴
作り方
ボウルに牛乳・生クリーム・砂糖を入れ、よく混ぜる。
バニラエッセンスを加える。
アイスメーカーに注ぎ、氷と塩をセット。
ハンドルを回し続け、固まるまで約20〜30分。
出来立てをそのまま、またはクレープやフォンデュに添える。




