42. 本番:料理室がパーティー会場に
調理室のドアを開けた瞬間、ひんやりした空気と外の粉雪の気配が入り込む。
窓の外では白い雪が静かに降り積もり、室内には既に買い出ししてきた食材が山のように積まれていた。テーブルの端には、まだ箱に入ったオーナメントやガーランドも転がっている。
「よし、いよいよ本番だ!」
顧問の声が、いつもより少し弾んで聞こえた。
実花はすぐにバッグから、びっしり書き込まれたスケジュール表を取り出し、机の上に広げる。
「今日は料理班と飾り付け班に分かれて動くよ。時間厳守だからね」
「パーティー感全開にするぞー!」と杏子が拳を突き上げる。
しかしその勢いを、翔子が冷静に制した。
「まずは下ごしらえ。飾り付けは後でもできる」
「そうだぞ。時間配分、絶対ミスるなよ」
佐伯先輩が真顔で釘を刺すと、杏子は「わかってるってば」と笑って肩をすくめた。
こうして、料理室がパーティー会場へと変身していく一日が始まった。
料理室の一角は二つの陣営に分かれた。
奥側は会場装飾班、手前は調理班。まるで戦場の布陣だ。
会場装飾班の杏子は、赤と緑のガーランドを両手いっぱいに抱え、脚立の上でツリーの飾り付けをしている。
「うーん、ここは可愛く…っと」
気づけば、オーナメントだけでなく、小さなぬいぐるみまで枝に吊るし始めていた。
「おい杏子、それはクリスマスツリーじゃなくてぬいぐるみ展示会だ」
佐伯先輩が半分あきれながら指摘すると、杏子は「え、可愛いじゃん?」と全く悪びれない。
「可愛いけど趣旨が変わる!」
そんなやり取りの横で、テーブルクロスや紙皿、カトラリーが整然と並べられていく。
一方の調理班は、静かな熱気に包まれていた。
実花は鶏モモ肉にローズマリーとにんにくを揉み込み、香りを立たせる。
翔子はキッシュの生地を手際よくこね、冷蔵庫に入れて寝かせる準備。
顧問はブッシュ・ド・ノエル用のスポンジ生地の焼き加減を見ながら、「このタイミング逃すなよ」と声をかける。
装飾の華やかさと、料理の香り。
料理室は、少しずつクリスマスパーティーの顔になり始めていた。
オーブンのタイマーがカチリと音を立てた瞬間、料理室の空気が一段と濃くなる。
こんがりと色づいたローストチキンの香りが、まるで手招きするように部屋中へ広がった。
「……いい匂い!」
飾り付けをしていた杏子が、まるで磁石に引き寄せられるように調理台へ接近する。
「ちょっと味見だけ!」
伸ばしかけた指を、翔子がすかさず木べらでブロックした。
「焼けてから! せめて包丁入れるまでは我慢しろ」
「けちー」
杏子は口を尖らせながらも、香りを名残惜しそうに吸い込む。
その横で、実花はカプレーゼ用のトマトとモッツァレラをきっちり交互に並べていく。
赤と白のコントラストに、仕上げのバジルが加わって、彩りはまるでクリスマスリースだ。
さらに奥の作業台では、焼き上がったクッキーが網の上で冷まされている。
バターと砂糖の甘い香りが、チキンの香ばしさと混ざり合って、料理室全体を幸福感で包み込んだ。
テーブルの上が、少しずつ“宴”の景色へと変わっていく。
黄金色に輝くローストチキン、湯気を立てるキッシュ、宝石のようなカプレーゼ。
端にはクッキーやカラフルなキャンディを詰めた大皿、グラスにはホットチョコレートの濃厚な香りが立ちのぼる。
そして、その中央。
ツリー型に飾りつけられたブッシュ・ド・ノエルが、まるで主役のように堂々と鎮座していた。
緑の抹茶クリームと赤い苺が彩る姿は、本当に食べるのが惜しいほどだ。
照明を少し落とすと、壁際に飾ったイルミネーションがやわらかく瞬く。
その光がガーランドや食器の縁に反射し、料理に魔法をかけたような輝きを与えていた。
「おお……!」
杏子が両手を広げて感嘆の声を上げる。
「もうここ、料理室じゃなくてパーティー会場だ!」
誰も否定しない。
むしろ全員の顔に、自然と笑みが浮かんでいた。
「では、皆さん——」
顧問がグラスを手に、ゆっくりと周囲を見渡す。
オーブンの余熱がまだ部屋に残り、甘い香りと香ばしい香りが入り混じる。
料理も飾りも整ったこの瞬間、全員の表情は期待と達成感で輝いていた。
「メリークリスマス!」
高らかな声が響き、イルミネーションの光がグラスに反射する。
「メリークリスマス!」
一斉に返る声は、温かくて、どこか胸が高鳴る響きだった。
それはもう、料理部の部室ではなく——この日だけの特別なパーティー会場。
次の瞬間、誰かがそっとフォークを持ち上げかけて、翔子に目で制される。
「乾杯は次でだぞ」
その小さなやり取りに、全員の笑いがこぼれた。
◆ローストチキン(モモ肉)
実花「塩コショウとローズマリーで下味ね。皮パリッと、中ジューシーが目標」
翔子「下味は最低30分。焦ってオーブン入れると、ただの茹で鶏になるぞ」
杏子「ローズマリーの香り、クリスマスって感じ!」
佐伯先輩「お前は香りでテンション上げる前に、味見に走るタイプだろ」
◆キッシュ
実花「ほうれん草とベーコンを炒めて、パイ生地に敷く」
翔子「卵液は牛乳と生クリーム半々、塩コショウを忘れない」
杏子「見た目がオシャレ枠担当!」
顧問「切り分けやすさもポイントだぞ。大皿で映えて、食べやすいサイズに」
◆ブッシュ・ド・ノエル
杏子「スポンジ焼いて、苺とクリームを巻く! ロマンの塊!」
実花「でも巻きは慎重に。形崩れるとただのロールケーキ」
翔子「チョコクリーム塗って木の模様をフォークでつける。これで雰囲気倍増」
佐伯先輩「飾りの粉砂糖は、積もった雪をイメージしろよ」
◆カプレーゼ
実花「トマト、モッツァレラ、バジルを交互に並べて…」
杏子「赤・白・緑でクリスマスカラー完成!」
翔子「オリーブオイルと塩を最後に回しかけると味が締まる」
◆クッキー詰め合わせ
杏子「型抜きクッキーとチョコチップ、両方作ろ!」
実花「冷める前に袋詰めすると湿気るから注意」
佐伯先輩「お土産にしても崩れにくい厚みを意識だ」
◆飲み物
顧問「ホットチョコは牛乳を焦がさず温め、ココアパウダーと砂糖を溶かす」
翔子「スパークリングジュースは直前に開ける。気が抜けると台無し」
杏子「乾杯用だから、カップの形も選びたい!」
42話 クリスマスビュッフェ 本番レシピ集(6人分)
1. ローストチキン(モモ肉)
材料
鶏もも肉…6枚(1枚約250g)
塩…小さじ2
黒コショウ…小さじ1
ローズマリー(乾燥)…小さじ2
にんにく(すりおろし)…1片分
オリーブオイル…大さじ2
じゃがいも…3個
にんじん…2本
手順
鶏もも肉に塩・コショウ・ローズマリー・にんにくをすり込み、30分置く。
じゃがいも・にんじんは皮をむき乱切り。
天板にクッキングシートを敷き、野菜→鶏肉の順で並べる。
オリーブオイルを全体に回しかけ、200℃に予熱したオーブンで35〜40分焼く。
皮がパリッとし、肉汁が透明になったら完成。
2. ブッシュ・ド・ノエル
材料
卵…3個
砂糖…80g
薄力粉…70g
牛乳…大さじ2
生クリーム…200ml
チョコレート…100g
苺…6粒
粉砂糖…適量
手順
卵と砂糖を泡立て、もったりするまでハンドミキサーで混ぜる。
薄力粉をふるい入れ、牛乳を加えてさっくり混ぜる。
天板に流し、180℃で12分焼く。粗熱を取る。
生クリーム100ml+砂糖10gでホイップし、苺を刻んで混ぜる。
スポンジに巻き込み、形を整える。
残りの生クリーム100mlと溶かしたチョコでチョコクリームを作り、全体に塗る。
フォークで木目を描き、粉砂糖をふる。
3. キッシュ
材料
冷凍パイシート…2枚
卵…2個
牛乳…100ml
生クリーム…100ml
ベーコン…100g
ほうれん草…1束
塩コショウ…少々
ピザ用チーズ…50g
手順
パイシートを型に敷き、フォークで穴をあける。
ほうれん草を茹でて3cmに切り、ベーコンを炒める。
卵・牛乳・生クリーム・塩コショウを混ぜる。
具材を型に入れ、卵液を流す。チーズをのせる。
180℃で25〜30分焼く。
4. カプレーゼ
材料
トマト…2個
モッツァレラチーズ…150g
バジル…6枚
オリーブオイル…大さじ1
塩…少々
手順
トマト・モッツァレラを5mmスライス。
赤・白・緑の順で並べる。
オリーブオイルと塩をかける。
5. クッキー詰め合わせ
材料
薄力粉…150g
バター…80g
砂糖…60g
卵…1個
バニラエッセンス…少々
チョコチップ…30g
手順
バターと砂糖を混ぜ、卵とバニラを加える。
薄力粉を加えてひとまとめにし、半分は型抜き用、半分はチョコチップを混ぜる。
170℃で12〜15分焼く。
6. ホットチョコ&スパークリングジュース
ホットチョコ材料
牛乳…500ml
ココアパウダー…大さじ3
砂糖…大さじ3
チョコレート…50g
手順
牛乳を鍋で温め、沸騰前にココア・砂糖・チョコを加える。
よく溶かして完成。
スパークリングジュース
開栓は直前に。氷を入れたグラスに注ぐだけ。




