第4話「翔子、千切りのスピードで注目される」
――放課後。
窓から差し込む夕日が、調理室兼部室のステンレス台を赤く染めていた。
今日のメニューは「野菜たっぷりミネストローネ」と「手作りガーリックトースト」。新入部員向けに、包丁の扱いを練習する日だ。
「ふふっ、いい匂いになりそうだね」
実花は袖をまくり、まな板と包丁を準備する。杏子は隣でエプロンを結びながら、にこにこしていた。
「ねー、ミネストローネってさ、具がいっぱいでテンション上がるよね。しかも今日はガーリックトースト付き!」
その少し離れたところで、翔子は黙々と準備をしていた。
エプロンの紐をきゅっと結び、長い髪を後ろでひとまとめ。まるでこれから短距離走でも始めるような無駄のない動きだ。
「……」
無言のまま、包丁を手に取る。その眼差しは真剣そのもので、実花は思わず息を飲んだ。
「おぉ、翔子ちゃん、やる気モードだ」杏子がひそひそと笑う。
「うん……なんか、ただの部活の日じゃないみたい」実花も小さく返す。
調理台の上には、これから切られるのを待つ色とりどりの野菜たち――人参、玉ねぎ、セロリ、ズッキーニ。
新歓用の練習とはいえ、どこか試合前のような空気が漂っていた。
「じゃあ――翔子、人参と玉ねぎ、千切り頼むな」
佐伯先輩の声が響く。
「了解」
翔子は短く返事をし、包丁を手に取った。持ち方も構えも、まるで教科書から抜け出したような無駄のないフォーム。
人参を縦に安定させ、包丁を入れる。
トン、トトトン、トン――
一定のリズムで包丁がまな板を叩き、その音は妙に心地よく部室に響いた。
切られる人参は均一な厚みで美しく揃い、端から端までまるでプロの仕上がり。
「……すごい」
実花が思わずつぶやく。目が釘付けだった。
「なにこれ、めちゃくちゃ動画映えするじゃん!」
杏子はすでにスマホを取り出し、カメラを構え始めている。
翔子はそんな視線やレンズにも気づいているはずなのに、表情ひとつ変えず、玉ねぎへと包丁を移した。
涙腺を刺激するはずの玉ねぎも、あっという間に整然と並べられていく――その速さと正確さに、部室の空気が少しざわめいた。
包丁の音は止まらない。
トン、トトトン――まな板の上で野菜が次々と形を変えていく。
気がつけば、周りの新入部員たちも手を止め、翔子の手元をじっと見つめていた。
「翔子ってさ、前からそんなに料理できたっけ?」
佐伯先輩が半ば感心、半ば不思議そうに声をかける。
「別に。家の手伝いで鍛えられただけだ」
淡々とした声と同時に、もう一つの玉ねぎがきれいに千切りへと変わっていく。
「いやいや、この速度は“ちょっと鍛えた”じゃ説明できないでしょ!」
杏子は思わず身を乗り出してツッコミを入れる。スマホのカメラはもう動画モードに切り替わっていた。
(陸上部っぽいって思ってたけど……手元はめっちゃ繊細なんだ)
実花は胸の中でそうつぶやきながら、思わず息を呑む。
翔子の動きはまるで流れる水のようで、一瞬も目を離せなかった。
出来上がった鍋の中では、色とりどりの野菜が透き通ったスープに浮かび、湯気と一緒にやさしい香りを放っていた。
「うわ、見た目からしておいしそう…!」
実花が思わず声を漏らす。
ガーリックトーストもオーブンから取り出され、表面はこんがり黄金色。バターとニンニクの香りが部室を満たす。
3人でテーブルを囲み、まずはミネストローネをひと口。
「……野菜が甘い!」
杏子が目を丸くしてスプーンをもう一度スープに沈める。
翔子はスープを一口飲み、少しだけ口元を緩めた。
「みんなが食べやすいように切っただけだ」
それだけを言って、また淡々とトーストを手に取る。
(やっぱり、すごい人だな)
実花は心の中でつぶやきながら、ほんのり温かい気持ちでスープを飲み干した。
「みんなが食べやすいように切っただけだ」
それだけを言って、また淡々とトーストを手に取る。
(やっぱり、すごい人だな)
実花は心の中でつぶやきながら、ほんのり温かい気持ちでスープを飲み干した。
あなた:
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シーン5:オチ
後片付け中、杏子が翔子に「今度は私の家のキュウリも千切りにして〜」と頼む。
実花:「杏子ちゃん、それただの料理代行じゃ…」
翔子:「有料だぞ」
3人の笑い声で締め。
ラノベ化
ChatGPT:
後片付けが始まり、シンクでは食器の水音がチャプチャプと響く。
杏子はスポンジを握りながら、ふと思いついたように翔子の方へ身を乗り出した。
「ねえ翔子、今度は私の家のキュウリも千切りにして〜」
冗談半分の声に、実花がすかさずツッコミを入れる。
「杏子ちゃん、それただの料理代行じゃ…」
翔子は手を止めずにタオルで包丁を拭きながら、淡々と答えた。
「有料だぞ」
その冷静すぎる返しに、杏子が「え〜!?」と大げさに声を上げ、実花も吹き出す。
部室には、放課後の夕日と一緒に、3人の笑い声が心地よく響いていた。
4話レシピ:野菜たっぷりミネストローネ&手作りガーリックトースト
野菜たっぷりミネストローネ
材料(4人分)
玉ねぎ … 1個
にんじん … 1本
セロリ … 1本
じゃがいも … 1個
キャベツ … 2枚
トマト缶 … 1缶(400g)
水 … 600ml
コンソメ … 2個
オリーブオイル … 大さじ1
塩 … 小さじ1/2(調整用)
こしょう … 適量
作り方(掛け合い入り)
実花:「じゃあ、まずは野菜を切るね」
翔子:「私がやる。均一に切ったほうが煮え方がきれいになるから」
杏子:「その自信、プロの料理人感すごい」
鍋にオリーブオイルを熱し、玉ねぎ・にんじん・セロリを中火で3〜4分炒める。
杏子:「わ〜、甘い匂いしてきた!」
実花:「野菜って炒めるとこんな香りになるんだ…」
じゃがいも・キャベツを加えてさらに1〜2分炒める。
翔子:「焦げないように、でも火を通すためにしっかり炒める」
杏子:「翔子先生、包丁だけじゃなく解説もプロっぽい」
トマト缶・水・コンソメを加え、沸騰したらアクを取り、弱火で15分煮る。
実花:「コトコト…この音、なんか落ち着く」
杏子:「この間にガーリックトースト準備しよ!」
塩・こしょうで味を整え、器に盛る。
翔子:「はい、完成。野菜は全部均一サイズだから、見た目も味もバッチリ」
杏子:「自画自賛きた!」
手作りガーリックトースト
材料(4人分)
バゲット … 8切れ(1.5cm厚)
バター(無塩) … 40g
にんにく … 1片
パセリ(みじん切り) … 小さじ1
塩 … ひとつまみ
作り方(掛け合い入り)
バターを室温で柔らかくし、すりおろしたにんにく・パセリ・塩を混ぜる。
杏子:「にんにくの匂い、食欲増し増し!」
実花:「でも手に匂いつくよ…ほら、レモン汁で取れるって」
バゲットの片面にたっぷり塗る。
翔子:「端までしっかり塗ると、焼き上がりが均一になる」
杏子:「はいはい、翔子先生」
オーブントースターで3〜4分、表面がこんがり色づくまで焼く。
実花:「あっ、いい匂い!」
杏子:「これ、絶対食べすぎるやつ」