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放課後キッチン、3年間のレシピ  作者: 南蛇井


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37. 部内コスプレパーティー

部室のドアを開けた瞬間、翔子が思わず立ち止まった。


「……なにこれ、遊園地のハロウィンエリア?」


中はオレンジと黒のガーランドが天井からぶら下がり、紙コウモリが壁一面を飛び回り、机の上には光るかぼちゃランタンが鎮座している。


「ふっふっふ、早く来て一人で飾り付け終わらせた私の勝ちだ!」と杏子が腰に手を当ててドヤ顔。

「勝ちとか負けとかの話じゃないからな」と翔子は冷ややかにツッコむ。


顧問が腕を組んで入室し、「今日は本番用の仮装チェックと交流会だ」と宣言。

すかさず実花がにこっと笑って、「お菓子も作ってきました!」と袋を開けると、かぼちゃ型のクッキーがほかほかと顔を出した。


「お、うまそう!」杏子が手を伸ばすも、佐伯先輩がその手を制しながら「仮装は衣装崩れ防止も考えろよ。動きにくいと当日大惨事になるぞ」と真顔で注意。

「……え、今のって私が注意されてる?」と杏子が首をかしげる。

「いや、全員だ」と佐伯先輩。

「でも一番危ないのは絶対杏子だよな」と翔子が小声で付け足し、実花が吹き出した。


部室の空気は、すでに本番モードというより完全にお祭り前夜のワクワク感に包まれていた。


「じゃーん! 吸血鬼様、登場〜!」

杏子が勢いよくマントを翻し、牙のついた笑顔を披露する。マントの裏地が赤くきらめき、完全にテンションMAXだ。


「次、私ね」実花は大きな魔女帽子をかぶり、落ち着いた色合いのエプロンドレス姿で一歩前へ。杖を軽く掲げるその姿は、まるで本物の童話から抜け出してきたよう。

「おー、正統派魔女!」と杏子がカメラを構える。


「……で、なんで私はゾンビ枠なんだよ」

翔子はエプロン姿のまま、顔と腕にうっすら特殊メイクを施されていた。エプロンの下のシャツには、わざと血糊風の赤が飛んでいる。

「似合うからって杏子が…」とぼやくと、杏子は「超映えるって!」と悪びれない。


「お前ら、静かにしろ」

その声と同時に現れた佐伯先輩は、深紅のマントと刺繍入りシャツに身を包んだ貴族風吸血鬼。

部室が一瞬でざわつく。

「え、似合いすぎじゃない?」「これもうゲームのNPC」

本人は肩をすくめ、「動きやすいから選んだだけだ」と淡々。


そして最後に顧問がドアからぬっと現れる。

全身を覆うふわふわのオレンジ。

「……かぼちゃ、ですか」実花が絶妙な間で言う。

「動きにくそう」と翔子。

「笑うな、スポンサーからの提供だ」と顧問はムスっとしつつ、着ぐるみの頭を押さえた。


その後は撮影大会に突入。

吸血鬼と魔女のツーショット、ゾンビと貴族の異色コンビ、そしてかぼちゃを中心に全員集合――スマホのシャッター音が止まらない午後になった。

部室の机には、かぼちゃプリンとお菓子がずらりと並べられ、甘い香りが漂っていた。

「じゃ、まずはプリン食べながらゲーム開始!」杏子が宣言し、仮装姿のままビンゴカードを配る。


「……ビンゴで笑ってるゾンビって、なんかレア感あるよな」

翔子が一マス開けて口元を緩めた瞬間、杏子がすかさずツッコミ。

「やかましい、笑ってもゾンビはゾンビだ」翔子はプリンをひと口すくいながら反論したが、頬がほんのり緩んでいるのは否定できない。


一方、実花は手作りのかぼちゃクッキーを配って回っていた。

「味の意見、聞かせてくださいね」

真剣な表情でメモ帳を片手に回るその姿は、完全にパティシエの試食会モードだ。


「……ビンゴ残り二つか」

顧問はといえば、かぼちゃ着ぐるみのままカードをじっと見つめ、妙に真剣な顔つき。

「先生、それ勝ちにいってますよね?」と佐伯先輩が笑うと、顧問は低く一言、

「当然だ」


そして次のゲーム「菓子積み競争」では、マントを翻しながら杏子が挑み、ゾンビ翔子が無表情で積み、魔女実花が手元を慎重に整え、貴族佐伯先輩が無駄なく積み上げる。

その横で、かぼちゃ顧問が全力でチョコを積もうとして崩し、部室中が爆笑に包まれた。


ゲームの熱気が少し落ち着いた頃、佐伯先輩が静かに立ち上がった。

「……ちょっと待ってろ」

部室の隅に置いてあった紙袋を持ってきて、机の上にドンと置く。


中から出てきたのは、小さなリボンが付いたお菓子詰め合わせ袋。

チョコやキャンディ、クッキーがぎっしり詰まっていて、袋ごとに手書きの小さなメッセージカードが差し込まれている。


「これ……先輩が用意したんですか?」実花が驚きの声を上げる。

佐伯先輩は照れくさそうに肩をすくめ、「本番も楽しもうな」とだけ短く言った。

その一言に、部室の空気がふわっと柔らかくなる。


「……なんか引退間近の先輩みたいな雰囲気出すなよ」翔子が半笑いで茶化す。

「おい、まだ引退する気はないぞ」

先輩はそう返しつつも、口元には小さな笑みが浮かんでいた。


杏子はさっそく袋を開け、「おー! これでハロウィン本番までのおやつは確保だ!」と大はしゃぎ。

顧問も「こういう心遣いがチームを強くするんだ」とかぼちゃ着ぐるみのまま頷き、部室は再び温かい笑い声で包まれた。

会もそろそろ終盤。

テーブルの上には食べかけのお菓子袋と紙コップ、笑い声の残り香が漂っている。


ふと隅を見ると、かぼちゃの着ぐるみ――中身は顧問――が、こてん、と椅子にもたれていた。

帽子の位置も少しずれて、スースーと小さな寝息。


杏子が目を輝かせ、「やべ、これシャッターチャンス!」とスマホを構える。

「ダメだよ、先生起きちゃうから!」と実花が慌てて止めに入る。

しかし横から翔子が、じっと顧問の寝顔を見つめたまま、

「……これは記録用として必要だな」と、ほぼ本気のトーンでシャッターを切った。


カシャッ。

その音に誰もが吹き出し、起きる気配のない顧問をちらっと見やる。


杏子が肩をすくめて笑う。

「やっぱりこの部、イベントのときは騒がしいな」


部室は最後まで、かぼちゃ色の空気と笑いに包まれていた。


第37話 レシピ掛け合い(部内コスプレパーティー編)


杏子「ほら見ろ!顧問、完全に熟睡してる!」

実花「写真はダメだって!起きちゃうでしょ」

翔子「いや、これは資料。今後の部誌のハロウィン特集に使える」

佐伯先輩「どんな部誌だよ、それ」


杏子「いいじゃん、ネタになるし。『かぼちゃの中で眠る顧問』ってキャプションつけてさ」

実花「絶対怒られるからやめて!」

翔子「文化祭の完売記念写真より価値あるぞ」

佐伯先輩「どんな価値観だ……」


杏子「あー、でもこうやって騒いでるの、なんか部活って感じだよな」

翔子「同感。たぶん、顧問が起きても同じこと言うと思う」

佐伯先輩「『やっぱり騒がしいな、この部は』ってな」

実花「……いや、それ絶対言う」




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