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放課後キッチン、3年間のレシピ  作者: 南蛇井


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31. 実花、味のブレを調整

文化祭三日目の朝。

 模擬店のテントの中には、昨日の喧騒が嘘みたいに静かな空気が漂っていた。まだ来場者の影もない時間、鉄板の上で試作用の生地がじゅわっと音を立てる。


 実花は菜箸で慎重にひっくり返し、一口分を切り分けて口へ運んだ。

 ――ん? 甘みが…少し弱い?


 「昨日より少し甘さ控えめ…?」

 眉間に皺を寄せ、隣のテーブルに並ぶ材料袋へ視線をやる。砂糖の銘柄は同じ、でも袋のロット番号が違うのに気づく。


 そこへ、湯気立つコーヒーを片手に顧問がのんびり登場した。

 「おはよう。……お、朝から検品か」

 実花が小さく頷くと、顧問は生地を一切れつまんで味見し、ふっと笑う。

 「材料のロットが違えば、同じレシピでも微妙に味は変わるもんだ。砂糖の粒度や水分量でもな」


 その言葉に、実花は「やっぱりか」と納得しつつ、すぐに計量カップとスケールを手に取った。

 ――今日の味は、今日の材料で決める。そうじゃなきゃリピーターに申し訳ない。


 鉄板の音が、少しだけ戦闘開始の合図に聞こえた。

文化祭三日目の朝。

 模擬店のテントの中には、昨日の喧騒が嘘みたいに静かな空気が漂っていた。まだ来場者の影もない時間、鉄板の上で試作用の生地がじゅわっと音を立てる。


 実花は菜箸で慎重にひっくり返し、一口分を切り分けて口へ運んだ。

 ――ん? 甘みが…少し弱い?


 「昨日より少し甘さ控えめ…?」

 眉間に皺を寄せ、隣のテーブルに並ぶ材料袋へ視線をやる。砂糖の銘柄は同じ、でも袋のロット番号が違うのに気づく。


 そこへ、湯気立つコーヒーを片手に顧問がのんびり登場した。

 「おはよう。……お、朝から検品か」

 実花が小さく頷くと、顧問は生地を一切れつまんで味見し、ふっと笑う。

 「材料のロットが違えば、同じレシピでも微妙に味は変わるもんだ。砂糖の粒度や水分量でもな」


 その言葉に、実花は「やっぱりか」と納得しつつ、すぐに計量カップとスケールを手に取った。

 ――今日の味は、今日の材料で決める。そうじゃなきゃリピーターに申し訳ない。


 鉄板の音が、少しだけ戦闘開始の合図に聞こえた。


 実花は計量スプーンを握りしめ、砂糖を一粒残らずきっちりスケールに乗せていく。

 「……砂糖は+3グラム、牛乳は−5ミリリットル」

 呟きながら、まるで理科実験のような真剣な顔だ。


 鉄板に流した生地が、ふわっと甘い香りを立ち上らせる。

 出来上がった試作品を三等分し、まずは翔子の前に差し出した。

 ひと口食べた翔子は、目を細めてうなずく。

 「昨日より食べやすい。後味が軽い感じ」


 次に杏子がぱくり。

 ……そして即座に口を尖らせた。

 「うーん、美味しいけど……やっぱり“映え”は甘さマシマシじゃないと! 写真見た瞬間に糖分を感じるくらい!」


 実花は両者の意見をメモに取り、腕を組んでしばし沈黙。

 やがて、スプーンを再び砂糖袋に突っ込み、きっぱり言った。

 「じゃあ……中間で行こう。甘さ控えめすぎず、くどくもないバランス」


 鉄板に新しい生地が流れ込み、香りがテントの外まで漂っていく。

 その香りは、三日目の看板メニューの完成を告げていた。


 開店と同時に、三日目もあっという間にテント前は人だかり。

 翔子と佐伯先輩が鉄板の前で手を動かしていると、背後から実花の声が飛んだ。


 「翔子、いま火を少し弱めて。……そう、そこでキープ」

 「佐伯先輩、その生地、もう10秒でひっくり返して!」


 的確すぎる指示に、二人の手は自然と動きが揃っていく。

 実花は鉄板の上をじっと見つめ、焼き色の濃淡や生地の膨らみ具合を見逃さない。


 「このくらいで返せば、表面が均一になるから」

 彼女の言葉どおり、焼き上がった生地は美しいきつね色。


 横でトッピングをしていた杏子が、感心したようにぽつり。

 「……実花の目、完全に職人だよ。絶対、次元が違う」


 その横顔は、文化祭の模擬店ではなく、高級菓子店の厨房に立つパティシエそのものだった。



昼の混雑が少し落ち着いたころ、昨日も来てくれたらしい女子生徒が列に並んでいた。

 トレイを受け取ると同時に、彼女は嬉しそうに言う。


 「昨日も食べたんですけど……今日の方が食べやすいですね。甘さがちょうどいい」


 実花は表情こそ変えず、「ありがとうございます」と微笑んだだけだが、心の中では思い切りガッツポーズ。

 ――よし、狙い通り。


 それを横で見ていた翔子が、呆れたように笑う。

 「……もう完全に味の管理者だな。うちの店、実花がいないと成立しないよ」


 実花は肩をすくめながら、再び鉄板の焼き色チェックに戻っていった。

 その背中は、言葉以上に誇らしげだった。



第31話・文化祭メニュー表(掛け合い風)

  本日のスペシャル「実花の黄金バランスクレープ」


説明:甘すぎず、でもちゃんと満足。三日目にして味の最適解を発見!


実花:「甘さ、昨日よりちょっと控えめにしてみたの」

翔子:「うん、昨日より軽く食べられる感じ」

杏子:「でも“映え”は甘さマシマシが正義じゃない?」

実花:「じゃあ中間でいこう。味と映えのハイブリッド仕様!」

佐伯先輩:「…結局プロっぽい判断だな」


調理場ルール(今日の焼き色は均一!)


火力はピーク前に弱めてムラ防止


焦げは即廃棄、ロス削減


実花の「OK」が出るまで次の皿に盛らない


杏子:「実花の目、完全に職人だよ…」

翔子:「味の管理者って肩書き、もう名刺作れるレベル」


リピーターの声


「今日の方が食べやすい!」(昨日も来店した3年生男子)


「甘すぎないのがいい!」(顧問)


本日のMVPコメント


杏子:「実花って将来カフェ経営できるんじゃない?」

実花:「じゃあ杏子は呼び込み専門ね」

杏子:「いや、もっと華やかな役を…!」

翔子:「声量的にそれが華だろ」








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