30. 杏子、呼び込みで大活躍
昼休憩を終え、模擬店前には再び午後の戦場が訪れようとしていた。
昨日、そして今日の午前と鉄板の前でフル稼働していた翔子の肩は、すでに少し下がっている。
「午後は翔子を鉄板から離して、呼び込みは杏子に任せよう」
実花が腕を組みながら提案すると、杏子の目がぱっと輝いた。
「よっしゃー! ついに私の出番だね!」
勢いよく胸を叩き、やる気全開のポーズ。
「杏子の声量なら、校庭中に届くはず」
実花が淡々と褒めると、翔子が苦笑いを浮かべる。
「褒めてるのか、それ…?」
佐伯先輩が看板を手に持ちながら、念を押すように言った。
「ただし、アドリブで変なこと言うなよ。昨日みたいに“甘さ100倍”とかは禁止だ」
「わかってるって! 任せろ!」
杏子はさらに胸を叩き、ドンと音がするほどの自信満々。
――その瞬間、翔子は心の中でため息をついた。
(任せろ、って言葉ほど危険なサインはないんだけどな…)
開始の合図と同時に、杏子は店先へ飛び出した。
手には模擬店のカラフルな看板を掲げ、肺いっぱいに空気を吸い込む。
「甘党集まれーっ! 映えも味も保証付きだよー! スイーツ好きなら今すぐ並んでー!」
その声は、まるで校庭の空気を震わせるかのように響き渡った。
周囲の模擬店の呼び込みも確かに聞こえるが、杏子の声量は別格。まるで拡声器を内蔵しているかのようだ。
「お、なんだ?」「映えって言ってたぞ」「ちょっと見てみる?」
通りかかった来場者たちがぞろぞろと列に加わっていく。
店の奥で調理中の翔子は、鉄板の前からチラッと外を見やった。
「……すごいな、BGMみたいにずっと声出してる」
「もう半分は念仏みたいに聞こえるけど、ちゃんと客は来てるし」
佐伯先輩が苦笑しながら材料を手に取り、実花はペース配分を考えて盛り付けの準備を整える。
――杏子の喉は、どうやら普通の人間用のスペックではなかった。
開始の合図と同時に、杏子は店先へ飛び出した。
手には模擬店のカラフルな看板を掲げ、肺いっぱいに空気を吸い込む。
「甘党集まれーっ! 映えも味も保証付きだよー! スイーツ好きなら今すぐ並んでー!」
その声は、まるで校庭の空気を震わせるかのように響き渡った。
周囲の模擬店の呼び込みも確かに聞こえるが、杏子の声量は別格。まるで拡声器を内蔵しているかのようだ。
「お、なんだ?」「映えって言ってたぞ」「ちょっと見てみる?」
通りかかった来場者たちがぞろぞろと列に加わっていく。
店の奥で調理中の翔子は、鉄板の前からチラッと外を見やった。
「……すごいな、BGMみたいにずっと声出してる」
「もう半分は念仏みたいに聞こえるけど、ちゃんと客は来てるし」
佐伯先輩が苦笑しながら材料を手に取り、実花はペース配分を考えて盛り付けの準備を整える。
――杏子の喉は、どうやら普通の人間用のスペックではなかった。
呼び込みが軌道に乗ってきた杏子は、完全にスイッチが入っていた。
「さぁさぁ寄ってらっしゃい! 食べたら三日間ずーっと笑顔! さらに片思いも成就!」
「……はいストップ!」
奥から実花が慌てて手を振る。
「それ、うちのスイーツの効果じゃないから! っていうか保証できないから!」
だが杏子はまったく聞く耳を持たず、さらに声を張る。
「運が良ければ宝くじも当たるかも! 食べるだけで推しが微笑む奇跡のスイーツ!」
佐伯先輩が盛り付けの手を止め、じとっとした目を向けた。
「……恋愛成就は保健室じゃなくて神社行け。それから宝くじは宝くじ売り場だ」
「えー? 夢くらい見せたっていいじゃん!」
「それ詐欺師のセリフだから!」と翔子が鉄板の前から即ツッコミ。
そんな騒ぎの中でも、なぜか列はさらに伸びていった。
――人は甘い言葉に弱い。もちろん、それがチョコレートの香りならなおさらだ。
杏子の前に、小学生くらいの男の子がちょこんと立った。
「お姉ちゃん、ほんとに食べたら笑顔になるの?」
杏子は即座にしゃがみ込み、にっこり。
「もちろん! 百聞は一見にしかず。ほら、この試食!」
手のひらにのせた一口サイズのスイーツを差し出す。
男の子はおそるおそる口に入れ、もぐもぐ……そしてぱぁっと表情が輝いた。
「おいしい!」
その笑顔があまりに純粋で、周囲にいた保護者や通りがかりの人たちまで、つられてにこにこし始める。
「……あら、本当に笑顔にしてるわね」実花が半ば感心、半ば呆れたように呟く。
さらに、その様子を見た大人たちが次々と列に加わっていく。
鉄板の前から翔子が小声でつぶやいた。
「……まさか、成功してる?」
佐伯先輩は苦笑しつつ、盛り付けのチョコを増やした。
「まあ、結果オーライってやつだな」
杏子の声が校庭に響き渡る。
「甘党集まれー! 笑顔保証つきだよー!」
その効果は絶大だった。午後の落ち着いた時間帯だというのに、模擬店の前には再び人だかりができ始める。
「……完全に客引きの才能だな」佐伯先輩が感心したように呟く。
実花は会計用のトレーを握りしめながら、少し眉をひそめる。
「このペースだと、材料足りるかちょっと不安…」
その言葉を聞いた瞬間、翔子が鉄板から顔を上げた。
「よし、追加仕込みだ!」
エプロンの裾をきゅっと結び直し、まるで戦場へ突入する兵士のような表情で、材料の袋を抱えて調理台へ走る。
杏子は相変わらず看板を振りながら声を張り上げていた。
「まだまだ焼き立ていけるよー! いまなら笑顔二倍増し!」
行列はさらに伸び、模擬店前は再び小さな戦場と化していった。
閉店後、片付けが一段落すると、杏子がペットボトルのお茶を手に「ふぅ〜」と息をついた。
…ん? その声、やけに低くて掠れている。
「今日の私、ASMR向きかも…」
艶やか(?)な囁き声でそう言う杏子。
「いや、それはただの声枯れ」
即座に翔子が冷静ツッコミを入れる。
「明日は声より体力を温存しろよ」
佐伯先輩の苦笑混じりの助言に、杏子は親指を立てて「らじゃ〜」と答えた。
その声はやっぱり、ASMRというよりただのハスキーだった。
閉店後、片付けが一段落すると、杏子がペットボトルのお茶を手に「ふぅ〜」と息をついた。
…ん? その声、やけに低くて掠れている。
「今日の私、ASMR向きかも…」
艶やか(?)な囁き声でそう言う杏子。
「いや、それはただの声枯れ」
即座に翔子が冷静ツッコミを入れる。
「明日は声より体力を温存しろよ」
佐伯先輩の苦笑混じりの助言に、杏子は親指を立てて「らじゃ〜」と答えた。
その声はやっぱり、ASMRというよりただのハスキーだった。
文化祭限定メニュー表
本日の目玉
『とろけるチョコバナナクレープ』
— 笑顔100%保証(※杏子談) —
生地担当:翔子
昨日より厚め。食べ歩きでも崩れにくい、ふわもち仕様。
チョコ担当:佐伯先輩
温めたチョコを注文直前にとろ〜り。冷めても固まらない黄金比率。
フルーツ担当:実花
新鮮バナナをカット→即盛り付け。変色は許さない。
広報担当:杏子
呼び込み&笑顔配布係。愛は無料オプション。
トッピング例(選べます)
追いチョコ(+甘さLvアップ)
ホイップたっぷり(+ふわふわ感)
ハート型チョコ(※杏子の気分次第)
注意事項
「片思い成就」「三日間笑顔」等の効果は保証できません(by 実花)
愛のトッピングは法的・衛生的に無害です(by 佐伯先輩)




