第26話:文化祭直前・材料大量発注
放課後の調理室。
机の上には、でっかい在庫表と分厚いカタログ、そして計算機がドンと並んでいた。
「よし、文化祭の大量発注会議、始めるぞ」
佐伯先輩が在庫表を広げると、翔子がすかさず売上予測表を横に置く。数字と数字のガチ勝負が始まる空気だ。
……のはずが、一人だけ別の世界にいた。
「わぁ、このチョコスプレーかわいい! あとこっちのカラフルマシュマロも……」
杏子はカタログを抱えて、お菓子屋の子ども状態。ページをめくるたびにテンションが上がっていく。
「杏子、現実見て。予算は限られてるから、まずは必要なものから決めよう」
実花が釘を刺すと、杏子は「はーい」と言いながらも、視線はスプレーのページから動かない。
文化祭まであと少し。
戦いは、もうこの机の上から始まっていた。
放課後の調理室。
机の上には、でっかい在庫表と分厚いカタログ、そして計算機がドンと並んでいた。
「よし、文化祭の大量発注会議、始めるぞ」
佐伯先輩が在庫表を広げると、翔子がすかさず売上予測表を横に置く。数字と数字のガチ勝負が始まる空気だ。
……のはずが、一人だけ別の世界にいた。
「わぁ、このチョコスプレーかわいい! あとこっちのカラフルマシュマロも……」
杏子はカタログを抱えて、お菓子屋の子ども状態。ページをめくるたびにテンションが上がっていく。
「杏子、現実見て。予算は限られてるから、まずは必要なものから決めよう」
実花が釘を刺すと、杏子は「はーい」と言いながらも、視線はスプレーのページから動かない。
文化祭まであと少し。
戦いは、もうこの机の上から始まっていた。
「去年の売上と比較して……」
翔子がペン先で数字を指しながら、真剣そのものの表情を見せる。
佐伯先輩は腕を組み、「予想来場者数は去年より増える見込みだな」と冷静に分析。
すると杏子が手を挙げ、満面の笑みで爆弾発言。
「じゃあ倍発注でいいじゃん!」
「余ったらどうするの!? 冷凍庫パンパンになるよ!」
実花が即座に突っ込む。
結局、一度全員で数量案を出すものの……計算結果は見事にバラバラ。
数字の横には×印、上には修正の矢印、あちこちに「再計算」のメモ。
佐伯先輩がため息混じりに言った。
「……お前ら、これ発注書じゃなくて迷路になってるぞ」
紙の上で繰り広げられるのは、文化祭準備という名の計算バトルだった。
試算が終わった瞬間、翔子の顔がぴくりと引きつった。
「……予算、オーバーしてる」
「えっ、なんで!?」
全員が一斉に注文リストを覗き込む。
その中で、やけにキラキラした文字が踊る項目が目に留まった。
《かわいい包装紙セット(リボン付き)》
「……杏子?」
実花の声が低い。
「いや~、ほら、見た目も大事かなって! かわいいは正義だし!」
杏子が笑顔でごまかすが、翔子が淡々と告げる。
「それで千円超えるのか……」
実花は腕を組み、きっぱりと宣告した。
「まずは本体の食材が優先」
「包装は来年に持ち越そう」
佐伯先輩の一言で、杏子はしゅんと肩を落とす。
包装紙の夢は、文化祭本番を前に静かに棚上げされた。
調理室の隅で、翔子が受話器を片手に注文開始。
「えっと、砂糖を……10キロお願いします」
「じゅ、10キロ!?」
横から杏子がのけぞる。
「それ、もう武器の重さじゃん!」
「薄力粉は……20キロ」
「ちょっと待って、それ人が担ぐ米袋レベルだよ!?」
横で佐伯先輩が在庫表をのぞき込みながら、淡々と数字を指差す。
「次はバター5キロだな」
受話器の向こうから、落ち着いた声。
『文化祭ですか? 頑張ってくださいね』
翔子は小さく笑って「ありがとうございます」と返す。
一方杏子は、紙に書かれた「20kg」の文字を見つめてぶつぶつとつぶやいた。
「これ、冷静に考えたら人間って結構食べるんだな……」
業者とのやり取りは滞りなく進み、数字のインパクトだけが杏子の脳裏にしっかり刻まれた。
「じゃあ次、生クリームは――」
杏子がペンを走らせる。
「……20リットルっと」
カリカリカリ……。
横から覗いた実花が、目を見開いた。
「待って! ゼロ増えてる!」
紙には堂々と書かれた 「200L」 の文字。
「業者さんの倉庫、空っぽにするつもり!?」
杏子は慌てて消しゴムを取り出す。
「いやー、ゼロが勝手に手から出ちゃって……」
翔子がすかさず赤ペンで訂正線を引く。
「こういうのは即修正しないと、本当に届くからね」
佐伯先輩は苦笑しながら、背もたれに体を預けた。
「大量注文ってのは、ゼロ一個で地獄になるからな……」
杏子は消しゴムのカスを集めながら、心の中でそっと誓った。
(もうゼロは慎重に書こう……たぶん)
全員で机の上の注文リストを覗き込む。
赤や青の修正跡だらけの紙が、今ようやく整った形になっていた。
実花が深く息をつき、笑みを浮かべる。
「これで当日までに全部届くね」
翔子も頷きながら書類をまとめる。
「後は練習と準備あるのみ」
杏子は書類を眺めて、にやりと口角を上げた。
「届いたらさ、材料の袋で積み上げて城つくろうよ」
佐伯先輩が眉をひそめ、間髪入れずに返す。
「……その発想の時点で嫌な予感しかしない。壊すなよ」
杏子は口を尖らせる。
「えー、崩れるのも醍醐味じゃん」
実花と翔子は顔を見合わせ、同時に肩をすくめた。
このメンバーでの文化祭――波乱は、まだまだ続きそうだった。
夕暮れの通学路。
荷物もないのに、杏子が指を折りながら何やら真剣に計算していた。
「ねぇ、材料が届いたら全部で何キロになるんだろ?」
実花が少し考えてから答える。
「たぶん…私たち全員分の体重より重いと思う」
「うわ、じゃあ運ぶ日は筋トレ大会確定じゃん!」と翔子が笑い、腕まくりのジェスチャーをする。
佐伯先輩は小さくため息をつきつつも、口元には薄い笑み。
「文化祭は――体力勝負、だな」
その一言に、全員で苦笑しながら帰路についた。
文化祭前の準備戦争は、もう始まっているのだった。
【26話レシピ掛け合い】
杏子「ねぇ、生クリームって200リットルあっても困らなくない?」
実花「困るよ!牛乳風呂ならぬ生クリーム風呂になるでしょ」
翔子「しかも冷蔵庫に入らないし、まず匂いで倒れる」
佐伯先輩「そもそも運ぶ時点で全員の腕が終了するな」
杏子「じゃあ…生クリームタワー作って文化祭の目玉に――」
実花「秒で崩れるやつ」
翔子「崩れた瞬間、文化祭がホラー会場に変わる」
佐伯先輩「……だから数量はちゃんと確認しろって言ってるだろ」




